82年頃、音楽誌のニュース欄で興味深い記事を目にしました。解散を発表したUKのバンドが、ファンとのお別れのために解散ツアーをしたら大盛況、そんなに売れていた訳でもなかったのにアメリカでもそのツアーが人気でマディソン・スクエア・ガーデンでも売り切れ、なかなか活動を終了することができず追加公演を繰り返すというニュース。
解散ツアーと銘打って集客を誘う「解散するする詐欺」ではありませんが、こういったことは少なくとも賛否のネタになる昨今。モトリー・クルーなんかは本当に活動停止するというメンバーの調印式まで行いました。
82年頃はそういったこともあまりなかったのでこうしたニュースには「へぇー」となりました。そのUKバンドとはこの記事で初めて知ったスクイーズです。アーティスト自身も自分たちの隠れた人気にびっくりしていたそうです。
スクイーズはグレン・ティルブルックとクリス・ディフォードという二人のギター兼ソングライター兼ヴォーカリストを中心としたグループです。グレンの爽やかなメインヴォーカルにクリスの独特の低音ヴォーカルが絡むのが非常にユニークでした。エルヴィス・コステロやニック・ロウとも親交があり、彼ら同様ニューウェイヴパブロックとも言えるような位置付けのバンドでもありました。
初期メンバーにはUKの長寿音楽番組『ジュールズ倶楽部(Later...with Jools Holland)』の司会を務めるジュールズ・ホランドもキーボーディストとして参加していました。日本でいう『夜のヒット・スタジオ』的な番組で25年以上続いており、言わばジュールズ・ホランドはお茶の間の人気者。アメリカのバンドも多数出演するのでアメリカの音楽ファンからも認知されています。
―― とここでお気付きの方もいるかもしれませんが、このバンドのメインであるはずのグレン&クリスがどこか目立ちきれない運命にあるのです。そんなスクイーズが世界的に脚光を浴びることがおきます。
81年のスマッシュヒット「テンプテッド」が94年の映画『リアリティ・バイツ』のサントラに収録されたのです。リサ・ローブやビッグ・マウンテンのシングルヒットを生み出したこのサントラはバカ売れ、「テンプテッド'94」として再録音もされました。かなりの印税も発生したようです。
しかし、この「テンプテッド」のメインヴォーカリストはグレン&クリスではないんです。後にマイク&ザ・メカニックスの「サイレント・ランニング」や「リヴィング・イヤーズ」のヴォーカルを担当するポール・キャラックがキーボーディストとしてアルバム1枚だけ参加しメインヴォーカルを務めました。
3人のヴォーカルが絡みますが、ミュージックビデオでもポールがいちばん目立ってます。『リアリティ・バイツ』で初めてスクイーズの存在を知って、「テンプテッド」のミュージックビデオを見たら、フロントマンはポール・キャラックと思ってしまうのは至極当然のことです。
まあ逆にそういった地味エピソードがマニア心をくすぐるポイントでもありまして、このバンドに愛着を持つわけです。前述の解散ツアーのニュースからもわかるように地味でも良質なバンドにはしっかりファンが根付くものなんですよね。
その時に実際に解散はするものの、85年にはすぐさま再結成。99年に再び解散しますが2015年にまたもや再結成、全盛時と勝るとも劣らないアルバムを発表し、今年(2017年現在)も新作をリリースしています。
派手なシングルヒットはあまりありませんが、じんわり愛着の湧く楽曲ばかりですのでベスト等からこの愛すべき地味バンドを是非聴いてみてください。
案外病み付きですよ。
2017.11.22
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