1980年代後半、バブル景気の真っ只中。映画「私をスキーに連れてって」(1987年)が大ヒットし、テレビにおいても「男女7人夏物語」(1986年)といったオシャレなドラマが主流。子供じみた恋愛とファッションがすべてと言っても良い軽い風潮。誰もが浮かれ切っている。そんな時代。そこに突然、海を渡って香港からやってきたのが、映画「男たちの挽歌」だった。
主人公のホーは香港の偽札シンジケートの幹部でヤクザ者だが、病弱の父親に代わり家族を支えている。学校を出たら警官になりたいという弟・キットを複雑な思いを抱えながらも心から愛している。そして弟は兄がヤクザであることを知らない。ある日、ホーは偽札の取引現場で取引先のヤクザに裏切られ銃で撃たれて逃亡。待ち構えていた警察に逮捕されてしまう。兄弟分で親友のマークは敵の組織に報復、二挺拳銃を両手に殴り込みをかける。その後、ホーは刑務所に収監されヤクザから足を洗うことを決意するが…
血と硝煙が舞う銃撃戦。裏切りと報復。そして痺れるように熱いサウンドトラック。それは一片の軽さもオシャレさも存在しないヤクザ映画。暑苦しいぐらいの友情と家族愛。映画を観て強烈なパンチを食らったような気がした。それは日本人がバブル以前に置き忘れてきたもののように見えた。戦後という逆境を這い上がってきた私たちの祖父や父親たちが持っていたガツガツとしたバイタリティ。たぶん、そういった類のものだと思う。
虐げられた者たちの敗者復活戦。命を捨てる覚悟で意地を通す男。映画を観終えた僕はすっかりチョウ・ユンファ気分であった。例えるならば「網走番外地」を観た後、主演の健さんになったような気になって肩で風を切って歩いてしまうとか、「ロッキー」を観た感動そのままにスタローン気取りで公園で走り出してしまうとか、そういう気分。今でも「男たちの挽歌」のメインテーマを聴く度に強烈なアドレナリンが脳内を駆け巡るのです。
男たちの挽歌(香港映画・1986年製作)
監督:ジョン・ウー
主演:チョウ・ユンファ / ティ・ロン / レスリー・チャン
公開日:1987年(昭和62年)4月25日
2016.05.12
YouTube / fortunestarmedia