もしも、1988年の自分がタイムスリップしてしまい、30年後の2018年、渋谷の高層化していく街並みを地上から眺めたら、たぶんこう呟くだろう。
「ネオ東京…」
1988年(昭和63年)7月16日、劇場用アニメーション『AKIRA』が公開された。15万枚を超える膨大なセル画枚数、製作費に10億円をかけ、当時のアニメ映画としては破格の大作であり、「ジャパニメーション」という言葉を生み出した現代アニメの礎となるモンスタームービーだ。
劇画の先を行く新しい漫画のスタイルを確立し、緻密な画面構成と写実的な描写力で80年代以降の漫画界に多大な影響を与えた漫画家・大友克洋が、自身の原作を監督し手塚治虫と並び称される巨人となったことは誰もが知るところだろう。
舞台は2019年のネオ東京。天を覆うような超高層ビルが林立し、翌年に控える東京オリンピック開催へ向けて都市開発が進められている世界の話だ。31年前に新型爆弾が爆発し崩壊した旧市街地で生活する暴走族の少年・金田が主人公。「爆心地」付近の閉鎖されたハイウェイを幼馴染みの鉄男とバイクを走らせているとその前に白髪の子供が突然飛び出してくる。
老人のようにも見えるその不思議な子供は、スピードを出しすぎて避け切れずに突進してくるバイクを鉄男共々軽々と念力によって吹き飛ばしてしまう。超能力者である子供・タカシとのこの出会いが少年たちの運命を狂わせていく。
そして、そこに軍用ヘリが現れ白髪の子供・タカシと重傷を負った鉄男を収容、軍の研究所へと連れ去る。鉄男の兄貴分である金田は自らその行方を追うことになる。
爆心地と呼ばれる立ち入り禁止区域。
第三次世界大戦。
復興の途上にある巨大都市。
2020年に開催される東京オリンピック。
蔓延するドラッグと超能力。
疾走するバイクと暴走族の抗争。
軍隊の介入、反政府デモ。
与野党の醜い政争。
近未来を生き抜く少年たちの友情と戦い。
バリ島の舞踊劇「ケチャ」からインスパイアされたアジアの旋律が、そのすべてを飲み込んでいく…。
あの頃―― 僕たちは、それまで公開されたほとんどのアニメ映画が紙くず同然と思えるほど、『AKIRA』の世界に心酔した。そして大友克洋が描く2019年まであと一年と迫る2018年がやってきた。「東京オリンピック」の開催が決まるなど、あまりに『AKIRA』の世界に近づいていると、ネットでは随分前から「予言的中」などと騒がれていたが、影響力のある作品というものは世界を確実にその場所へと導く。
2015年の安保法案反対デモは、未来を案じる人々で国会前を埋め尽くした。それは、まるで『AKIRA』で描かれた反政府デモのシーンを彷彿とさせた。僧侶たちが参加者の通る道の傍に陣取り、団扇太鼓をたたきながら経を唱えている。警察車両が人々を遮るように配置される風景と国会を取り巻く怒声が大友克洋の描く風景と重なった。また、東京を壊滅に追い込んだ超能力者・アキラの力を封印しようと爆心地の地下に築いた軍の隔離施設には、現代の原発問題を想起させるものがある。
かつて、『月世界旅行』という荒唐無稽なサイレント映画があった。月に向かって砲弾のようなロケットを大砲で撃ち「人面の月」の右目に突き刺すシーンが印象的なSF映画だ。人が想い描いた世界は必ず実現する。初公開されたその67年後に人類は映画とほぼ同じ発想で月へロケットを飛ばし月面着陸を果たしている。『AKIRA』もまたそういう作品なのだろう。
だから、僕たちは素晴らしい未来を予見できるような作品が生み出せる、そんな社会を作っていかなければならない。
年初め、オリンピック前夜へと向かう東京と目まぐるしく変わる世界情勢を眺めながら、街へ出ようと思う。もちろん、ミュージックプレイヤーに芸能山城組の『Symphonic Suite AKIRA』でも仕込んで……。
2018.01.03
YouTube / HRS030398
YouTube / Milan Records USA
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