去年(2017年)の4月から、この80年代の音楽に特化したリマインダーに書かせていただいて、一番強く思ったことは、「80年代に何があったか?」ではなく、「80年代に何を感じていたか」ということ。多感なティーンエイジャーの時期がどっぷり80年代だった僕ですが、今考えてみると、そこで一番インスピレーションを得た感覚は「古いものが新しい」というものでした。 最も象徴的だったのは、81年7月25日にリリースされたザ・ヴィーナスの「キッスは目にして!」。カネボウ化粧品秋のキャンペーンソングに選ばれたこの曲は、ベートーヴェンの「エリーゼのために」を元ネタにしたザ・ピーナッツの59年のヒット曲、「情熱の花」のリメイクでした。 80年代を代表するヒットメイカーであり、「ランナウェイ」「街角トワイライト」といったシャネルズの一連のヒット曲を手掛けた作曲家、井上大輔先生の洗練されたアレンジにより、「キッスは目にして!」は80年代の幕開けに相応しい、ポップでドリーミーな楽曲に生まれ変わっています。 当時、井上先生は、数多くのヒット曲を手掛ける傍ら、イギリスのロカビリーバンド、マッチボックスが日本でデビューするにあたり「ロカビリー天国 I’m a lover man」という楽曲を本名である井上忠夫名義で提供しています。この曲はサントリー・CANビールのCMソングとしても使われていましたので、耳に残っている人も多いのではないでしょうか。 ザ・ヴィーナスもシャネルズもマッチボックスも、大雑把に言えば50年代から60年代のアメリカの音楽を下敷きにしているわけですが、このルーツミュージックに原点回帰するわけではなく、80年代にどのように蘇生させるかというアイディアが時代を象徴するヒット曲となったのだと思います。 当時、最新のヒット曲として聴いていたものが実は、自分の親の世代のヒット曲が元ネタになっていたというなんとも誇らしい感覚。「これが新しいんだよ」と断言できる心意気こそが、僕の80年代だったのです。そして、このような楽曲をプレイするミュージシャンたちにも、懐かしむという感覚が微塵もなかったことが、大きな特徴だと思います。 暴走族に愛されたパンクロックバンド、アナーキーは80年にリリースされたファーストアルバムのなかで、58年にリリースされた、ロックンロールのスタンダードとも言うべき名曲「ジョニー・B・グッド」をプレイしていますが、その中でこんな風に歌っています。 昔はジョニーもよかったけれど 今じゃ俺たちアナーキー! そして、ツッパリという言葉を一般的に浸透させ、社会現象にもなった横浜銀蝿の「バイバイOld Rock’n Roll」。 デル・シャノン、ビル・ヘイリー、 ポール・アンカ、ニール・セダカ、 プラターズ、モノトーンズ、 ダイヤモンズもみんな Bye Bye Bye 俺が唄うこの唄は そう Just New Rock’n Roll 50年代から60年代初頭にかけて活躍したミュージシャンを歌詞の中で羅列した横浜銀蠅も「ジョニー・B・グッド」を歌ったアナーキーも、古いロックンロールに決別をしているわけですが、その根底にはリスペクトがあり、ここにロックンロールの初期衝動を垣間見ていたことは、言うまでもありません。このように、「古いものが新しい」という感覚は、感度のよいアンテナを張ったツッパリたちを経由して世間に浸透していきました。 今では、地方文化として絶滅に瀕しているのでないかと思われるヤンキーのルーツである80年代のツッパリは、まさに「懐かしむより超えていけ!」を体現し、時代に大きな影響を与えた日本が誇るユースカルチャーだったのです。 歌詞引用: ジョニー・B・グッド / アナーキー バイバイOld Rock’n Roll / 横浜銀蠅
2018.01.07
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