1988年1月13日。“親愛なるすべてのマガイモンへ” と銘打たれて、講談社から『40ベイビーズ』第1巻が発売された。
この漫画は今では知る人ぞ知るカルト的な存在、当時ヤンマガに連載されていたので立ち読みでパラパラ見たという人もいるだろう。昭和40年代生まれが主人公であり、「ヨンマル」とは昭和40年代生まれの仲間達という意味で、僕ら世代に向けて書かれている。
高校を中退したハシヤがバンドを通して成長していく物語。To-yがアイドルにならずにインディーズで活動を続けていたらこんな感じでは? みたいな内容だったが、リアリティがあった。だから、僕は自分の今までの生活と比べて、違い過ぎると焦っていた。そして1988年、大学一年の夏休みに目標を立てた。
ハシヤが乗っているVESPAを購入しよう。
これさえ手に入れたらキリンちゃん(ハシヤのガールフレンド)みたいな子がタンデムしてくれるんだ! もちろん夏休みが始まる前に目星は付けている。
敬子ちゃんである。
僕は88年の夏休みをバイトに費やし、家庭教師のほかにモールの警備員等、色々やった。そして、とうとうVESPA購入の為の頭金を手に入れる。残りは丸井の赤いカードでお馴染みの分割払い。渋谷に今でも現存する『ホノラリー』というお店で購入した。
VESPA50s VINTAGE.
往年のGSの丸さをイメージしたこのシリーズは大人気で女性でも乗る事の出来るVESPAだった。ハシヤの真似をして左リアの所にストーンズのベロマークシールを貼った。後は敬子ちゃんに電話をするだけ。
俺たち何処へ行こう。ここから先は妄想が膨らむばかり。
ここで、『40ベイビーズ』に話を戻す。ハシヤは居候しているBarに客として訪れたカズオと意気投合してバンド「キリギリス」を結成する。そして、取り壊しが決まっている潰れかけたライヴハウス “H@SH” で初ライヴを行う。
ライヴが成功した次の日の朝、ハシヤは「おいしい夢のあとは決まってロクな事がないぜ」と言いながら目覚ましを止める。そのコマの欄外に手書きで「BGM:風が強い日」と書かれていた。漫画から音楽が鳴ったのはその時が初めてだ。
それは、ザ・ストリート・スライダーズの87年の曲だった。「風が強い日、雲が流れてく」という歌詞から始まるこの曲は、聴いているとその詞の情景や風景が浮かび上がってくる。
そんな折、例のVESPAに大学の友達を乗せて二人乗りの練習をしていたら警察に捕まった。当時は50ccならノーヘルで乗れるような時代だったが、二人乗りは認められていなかった。VESPAはタンデムシートが標準装備で、今思えば甘い考えだが外車だから許されると僕は思い込んでいたのだ。
当時100S VINTAGEという上位車種があって50Sを100Sにボアアップ出来て、二人乗りも可能となったのだが、中免が必要となるため諦めた。
結局、そのとき敬子ちゃんには電話出来なかった。1人で丘に登って眼前に広がる景色を見渡していると 「風が強い日」の一節が聴こえてきた。
ざわめいた街並 まるで嘘のようさ
きっとみんな 自分だけの場所を
守ることに 夢中なんだろう
Woo耳をすましているから
Yearやさしい唄きかせてよ
88年の夏は終わり、気が付けば秋になっていた。
歌詞引用:
風が強い日 / The Street Sliders
2017.08.03
YouTube / limelight80s