今から約30年前の年末近くの話だ。いつものように自宅でごろごろ過ごしていたら、電話がかかってきた。金沢に住んでいる祖母の容態が悪化したので「すぐに来るように」と、先に行っていた両親からの連絡だった。要するに、祖母の意識のあるうちに会っておきなさい… という訳だ。 当時大学生だった僕は、アルバイト以外に考慮すべき予定などなかったから、その翌日に1人で金沢に向かうことになった。もちろん北陸新幹線が開通する遥か昔のこと、上越新幹線で長岡まで行って北陸本線に乗り換えるという5時間弱の一人旅だ。そこで、僕は車中で聴く用のカセットテープを作るため、急いで選曲することにした。 その時ふと「日本海側の冬は毎日が “鉛色の空” で気が滅入る」と金沢出身の父親が言っていたのを思い出した。鉛色の空が似合う音楽って何だろう… 少し考えて僕はレコード棚から3枚のアルバムを取り出した。 U2『WAR(闘)』 シンプル・マインズ『スパークル・イン・ザ・レイン』 ビッグ・カントリー『インナ・ビッグ・カントリー(The Crossing)』 これらは全て英国出身のプロデューサー、スティーヴ・リリーホワイトのプロデュース作品である。彼はこれまでにグラミー賞を5度受賞し、大英帝国勲章(Commander of the Order of The British Empire)を受勲するような大物で、上述の3組以外にもスージー&ザ・バンシーズを皮切りに、ザ・ローリング・ストーンズ、ピーター・ガブリエル、トーキング・ヘッズ、モリッシー、XTC といった錚々たるアーティストの作品に携わっている。 スティーヴ・リリーホワイトのサウンドの特徴はと言えば、ゲートエコー(正確には Gated Reverb)だ。別に彼が開発したものではないだろうが、彼が使うことでサウンドにぐっと「緊張感」がもたらされる。それは、まるで冬の朝の空気感(キーンとする感じ?)… だから僕は、真冬の日本海の風景に合わない筈はないと思ったのだ。 実際に北陸本線に乗ってみると、空は予想通りの鉛色、道中には波をかぶりそうなほどの海沿いを走る区間もあって、東京育ちの僕はとても心穏やかではいられなかった。その風景はきっとアイルランド(U2 の出身地)やスコットランド(シンプル・マインズとビッグ・カントリーの出身地)に似てるんじゃないかと、車中でカセットテープを聴きながら勝手に想像していた。 残念ながら、僕はアイルランドにもスコットランドにも行ったことがないので、実際はどうか知らないが。Billboard Chart&Official Charts(Album) ■WAR / U2(83年3月12日 全英1位 / 83年5月7日 全米12位) ■Sparkle In The Rain / Simple Minds(84年2月18日 全英1位 / 84年4月7日 全米64位) ■The Crossing / Big Country(83年9月24日 全英3位 / 83年11月5日 全米18位) ※2016年11月23日に掲載された記事をアップデート
2019.02.28
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