1988年、私が21歳のときに女性誌『Hanako』が創刊された。
オシャレな店やスポットに詳しい、アフター6や週末は予定が詰まっている、クリスマスイブなどのイベントは大いに楽しむ―― 都会に住む20代女はこうじゃなきゃいけない。当時本気でそんな風に思っていた私は、Hanako を愛読し、スポットの位置情報まで暗記して、アフター6の予定をせっせと詰め込んだ。
バカだったなぁ… と思うのが、22、3歳のときのクリスマスイブ。
何の予定もなく、会社からまっすぐ家に帰るときに元同級生に会い、「パーティーに出てたんだけど、具合悪くなって帰るとこ」と、咄嗟に嘘をついた。ほんと、いまどきの Instagram 偽装キラキラ女子のこと、バカになんてできない。
Hanako には、街のスポット情報以外にも、楽しみな連載があった。創刊号から掲載されていた、見開き2ページのオールカラーマンガ『るきさん』(高野文子作)だ。主人公は、一人暮らしの独身女性、るきさん。在宅で、医療保険の請求書の処理を仕事にしている。当時、広報・企画がやりたい! という女子があふれていたことを思うと、かなり地味な仕事だ。
図書館で本を借りたり、自転車で近所に買い物に行ったり、せっせと自炊したりと、マンガで描かれる るきさんの日常も地味。流行にも疎く、あきらかに Hanako族ではない。でも、キラキラ的なものに反発して清貧に、ってわけじゃないし、日々楽しそう。スポット情報を仕入れた後は、「るきさん」を読んでホッとする… というのが、Hanako を読んだときのお約束だった。
そして、もうひとつ、キラキラ偽装に必死だった私の心の拠り所となっていた連続ドラマがある。Hanako 創刊年、絶好調だったフジテレビで深夜ひっそり始まった『やっぱり猫が好き』だ。登場人物は恩田三姉妹のみ、舞台はマンションの一室のみ、というシチュエーションコメディ。
ここにはオシャレな恋愛も、ジェットコースターな展開も、姉妹同士で男性をとりあう骨肉の争いもない。長女(もたいまさこ)と三女(小林聡美)が一緒に住む浦安のマンションに、ちょいちょい次女(室井滋)がやって来て、日常がザワザワするような、ちょっとした出来事が起こる… ざっくり言うとそんな内容だった。ちょっと地味(失礼)な三姉妹も、当時のトレンディヒロインたちとは違って、親しみやすく、友達にいそうなタイプ。深夜、『やっぱり猫が好き』を観てクスクス笑うと、なんだかホッとできた。
テーマ曲も、深夜ドラマらしくひとひねり。矢野顕子が歌う「David」からしっとり始まり、エンディングで流れるのは、越路吹雪の名曲を RCサクセションがカバーした「サン・トワ・マミー」。バブル期、成功者となったお金持ちのオジサマたちの愛好歌は「マイウェイ」だったが(ですよね?)、その女性版は越路吹雪の「愛の讃歌」と「サン・トワ・マミー」じゃなかったか。
裕福でシャレたマダムたちが切々と歌う「サン・トワ・マミー」を忌野清志郎がぶち壊しているようで、すごーく気持ちよかった。
その後、浦安から幕張へ越した恩田家は、第2シーズンでは渋谷区に引っ越し、放送時間は土曜日のゴールデンタイムに。91年9月には、連続ドラマとしての放送を終了。そして、「るきさん」は92年12月に連載終了となった。
Wikipedia には、バブル崩壊は91年3月から93年10月までの景気後退期のこととある。『やっぱり猫が好き』も『るきさん』もバブル崩壊期に幕引きとなったのは、女たちがキラキラ偽装する必要がなくなり、拠り所が必要なくなったから… なんていうのは、ちょっと考えすぎだろうか。いまどきの偽装キラキラ女子にも、心の拠り所がありますようにと、願わずにはいられない。
2018.11.15
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