「3年B組金八先生」でデビューした小林聡美
スーパーやコンビニのパン売り場で『Pasco 超熟』を見かけるたび、「小林聡美のパン」と思う。彼女がPascoのCMに出演していたのは1994年から2012年。その後、深津絵里に引き継がれ、今は杉咲花が出演している。だが私には、いまだPascoといえば小林聡美なのだ。
ドラマ『3年B組金八先生』(第1シリーズ)でデビュー。50代の今も活躍し、女優としてのキャリアを順調に築いてきた小林。自然体、飄々、多趣味、読書家、文才…… など、様々なキーワードを連想するが、ふと彼女を見て思い浮かぶのが “おいしいごはん” だ。“料理上手” と言うより、“おいしいごはんを作る人” といったほうがしっくりくる感じ、わかるだろうか。
そのキーワードのもとになっているのが、『Pasco 超熟』CMと、2006年に公開された映画『かもめ食堂』。フィンランドで和食の食堂を営むヒロインを中心に、なんてことない日常が描かれるこの映画、公開当時 “スローライフ映画” なんて呼ばれた。
『かもめ食堂』で小林が作るのは、おにぎり、卵焼き、焼き鮭、豚の生姜焼きといった、ごく普通のごはん。包丁を使ったり、菜箸でフライパンの食材を返したりといった料理する小林の手元がしっかり映るのだが、手際がよくて、見ていて気持ちがいい。
代表作は「やっぱり猫が好き」
『かもめ食堂』以前と以降で、『Pasco 超熟』CMも変化したように思う。“かもめ” 以前は家の台所で、自分好みのサンドイッチを作って食べる、サバサバした食いしん坊といった感じ。『やっぱり猫が好き』の三女のイメージだ。
『やっぱり猫が好き』は、88年から91年に放送された深夜ドラマで、小林の代表作の一つ。
このドラマも、三姉妹の日常にちょっとした出来事が起こる、さりげないストーリーなのだが、にぎやかでスローライフとはかけ離れている。小林が演じた三女・きみえも、噂好きで機転がきいてモノマネ大好きな、それなりに俗っぽさのある女の子。そんなきみえがちょっとだけ成長して、『Pasco 超熟』CMに出ている印象だった。
“かもめ” 以降、『Pasco 超熟』CMはさすらいのサンドイッチ屋設定へ。舞台は、家の台所から、森の中や海辺、湖畔など、アウトドアとなる。自然の中の小さなサンドイッチ屋で、小林が子どもたち(ときどき子熊も)にサンドイッチを振る舞う。そんなファンタジー設定が多くなり、きみえ… ではなく、小林の佇まいもどこか達観しているように見えた。
「かもめ食堂」「パンとスープとネコ日和」「ペンションメッツア」に共通しているものは?
その後も小林聡美は、連続ドラマで食堂を営む女性を演じている。2013年にWOWOWで放送された『パンとスープとネコ日和』では、都内の住宅街でサンドイッチとスープの店を始めるヒロイン。使用しているパンは、当然Pascoだろう。
さらに、2022年に同じくWOWOWで放送された『ペンションメッツア』で演じたのは、森の中の大きな山荘で一人ペンションを営むヒロイン。ここで作るのも、ハンバーグやカレーライスなど、ごく普通のごはんだ。
『かもめ食堂』『パンとスープとネコ日和』『ペンションメッツア』に共通しているのが、“おいしいごはん” と “スローライフ”。今は、“スローライフ” というより、“丁寧な暮らし” といったほうが、ピンとくるのかもしれない。
『パンとスープとネコ日和』では、亡き母の食堂をほぼ居抜きで使用して改装費を抑えたこと、実家の一階だからテナント料はかからないことがわかる。経営の背景が見えるので、多少は現実味がある。
だが、『ペンションメッツア』では、女性一人、森の中でペンション経営というのがもう現実的じゃないし、この山荘のオーナーである理由も一切明かされない。ペンションにやって来るのは、きつねが化けた “山の紳士”(役所広司)や、この世の人ではないらしい昔の恋人(光石研)だ。
おまけに、ときどき森の妖精がペンションの周辺に出没する。妖精を演じるのは、『やっぱり猫が好き』の長女役・もたいまさこだ。
このドラマ、ファンタジーに徹することにしたのだろう。女性が一人で飲食店や宿泊施設を営む大変さはすっ飛ばされている。大貫妙子が歌うエンディングテーマ「空飛び猫」も含め、ファンタジー。
ヒロインの小林聡美は、もはや達観どころではなく、悟りの境地に見える。きつねや亡き恋人が訪ねてきても妖精を見ても、動じない。堂々とした佇まいは、“スローライフの女王” である。とても癒されるドラマなのだが、『やっぱり猫が好き』のきみえ、ずいぶん成長したなぁと思ったりもする。
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2023.04.28