当時の U2 は、自分達のルーツを確認すべく、アメリカ音楽に接近していた時期だった。前作『焔(The Unforgettable Fire)』からその傾向が色濃く表れるようになり、『ヨシュア・トゥリー』ではさらなる地平を目指し、これまでにない大きなスケールで音楽を奏でるようになっていた。
U2 がやろうとしたのは、アイルランドからアメリカまで、ロックンロールの世界地図を地続きにし、目の前に広がる荒野を自由に旅することだった。「自分が探しているものを、僕はまだ見つけられていない」と歌い、こことは違う「どの通りにもまだ名前のついてない場所」を目指して歩き出したのだ。ツアーで全米各地を回る中、バンドはロックロールの歴史を肌で感じ、心を大きく開いて、先人達の経験や叡智をどん欲に吸収していく。
映画『魂の叫び(Rattle and Hum)』とそのサウンドトラックは、このときのツアーを記録した優れたドキュメンタリーである。
「チャールズ・マンソンがビートルズから奪ったこの曲を、俺たちが奪い返したぜ」というボノの MC を合図に、バンドが「ヘルター・スケルター」を演奏する痺れるシーンで、映画は幕を開ける。「イグジット」ではゼムの「グロリア」を、「バッド」ではローリング・ストーンズの「ルビー・チューズデイ」と「悪魔を憐れむ歌(Sympathy fot the Devil)」の一節を挟み込む。そこには先達へのリスペクトと、自らもまた歴史の一部なのだという気概と誇りが感じられる。
サンフランシスコの広場で、ボブ・ディラン作の「見張り塔からずっと(All Along the Watchtower)」を演奏するシーンも印象的だ。この頃、ボノはディランと「ラヴ・レスキュー・ミー」という味わい深いナンバーを共作しているのだが、映画には使われずサントラのみの収録となった。
収録曲に目をやれば、「エンジェル・オブ・ハーレム」はビリー・ホリデイのことを歌った曲だし、「MLK」はマーティン・ルーサー・キングのイニシャルだ。「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」の導入では、ジミ・ヘンドリックスの「星条旗よ永遠なれ(The Star Spangled Banner)」を聴くことができる。