10月10日

U2が探し求めたロックンロール、そして「魂の叫び」の先にあるもの

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photo:UNIVERSAL MUSIC  

アルバム『ヨシュア・トゥリー(The Joshua Tree)』のリリースから約1ヶ月後の1987年4月2日、U2 は待望のツアーをスタートさせる。全109公演のうち実に76公演かけてアメリカ各地を回ったこのツアーは、U2 にとってまさしくアメリカ探求の旅となった。

当時の U2 は、自分達のルーツを確認すべく、アメリカ音楽に接近していた時期だった。前作『焔(The Unforgettable Fire)』からその傾向が色濃く表れるようになり、『ヨシュア・トゥリー』ではさらなる地平を目指し、これまでにない大きなスケールで音楽を奏でるようになっていた。

U2 がやろうとしたのは、アイルランドからアメリカまで、ロックンロールの世界地図を地続きにし、目の前に広がる荒野を自由に旅することだった。「自分が探しているものを、僕はまだ見つけられていない」と歌い、こことは違う「どの通りにもまだ名前のついてない場所」を目指して歩き出したのだ。ツアーで全米各地を回る中、バンドはロックロールの歴史を肌で感じ、心を大きく開いて、先人達の経験や叡智をどん欲に吸収していく。

映画『魂の叫び(Rattle and Hum)』とそのサウンドトラックは、このときのツアーを記録した優れたドキュメンタリーである。

「チャールズ・マンソンがビートルズから奪ったこの曲を、俺たちが奪い返したぜ」というボノの MC を合図に、バンドが「ヘルター・スケルター」を演奏する痺れるシーンで、映画は幕を開ける。「イグジット」ではゼムの「グロリア」を、「バッド」ではローリング・ストーンズの「ルビー・チューズデイ」と「悪魔を憐れむ歌(Sympathy fot the Devil)」の一節を挟み込む。そこには先達へのリスペクトと、自らもまた歴史の一部なのだという気概と誇りが感じられる。

サンフランシスコの広場で、ボブ・ディラン作の「見張り塔からずっと(All Along the Watchtower)」を演奏するシーンも印象的だ。この頃、ボノはディランと「ラヴ・レスキュー・ミー」という味わい深いナンバーを共作しているのだが、映画には使われずサントラのみの収録となった。

ライヴ映像はどれも圧巻だ。今まさに頂点へ登り詰めようというバンドの勢いが、熱風のように吹きつけてくる。特に映画後半の展開は息を呑むほどスリリングだ。

メンバーは公演の合間に、時間を作ってはロックンロールゆかりの地を訪れる。それぞれの場所で見せる感慨深そうな表情が印象的だ。

僕が一番好きなのは、ハーレムの教会で地元のゴスペルクワイアをバックに「アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー」を演奏するシーン。曲の後半でクワイアが圧倒的な歌声を披露すると、U2 は演奏を止め、目に畏敬の念を浮かべながら聴き入るのだ。

他にも好きなシーンはたくさんある。エルヴィス・プレスリーやカール・パーキンスを輩出したサン・レコードでのレコーディングセッションはやはり素敵だし、ボノが緊張した面持ちで B.B.キングに「あなたのために書いた曲です」と伝え、一緒に「ホエン・ラヴ・カムズ・トゥ・タウン」を演奏するところは、ロックンロールを愛する者なら誰もが頬を緩めることだろう。

また、エルヴィスが生前暮らしていた「グレイスランド」を訪問するシーンでは、ドラマーのラリーがエルヴィスへの愛を隠そうとしない。エルヴィスのハーレー・ダビッドソンに跨がらせてもらったときの神妙な顔つきや、エルヴィスの映画について語るピュアな言葉には、いつも感動させられるのだ。

そして、メンバーが道路沿いの土手に並んで座り、夜のミシシッピー川を眺めるシーンはとても美しい。

収録曲に目をやれば、「エンジェル・オブ・ハーレム」はビリー・ホリデイのことを歌った曲だし、「MLK」はマーティン・ルーサー・キングのイニシャルだ。「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」の導入では、ジミ・ヘンドリックスの「星条旗よ永遠なれ(The Star Spangled Banner)」を聴くことができる。

このように偉大なアーティストを意図的に絡めていくやり方に、一種のあざとさを感じる向きもあるだろう。実際、そうした批判は当時からあった。しかし、一枚岩となったバンドは、強い結束と音楽の力で、あらゆる批判を跳ね返してみせる。その結果、アルバムは大ヒットを記録し、U2 は名実共に世界最大のロックバンドの地位を揺るぎないものとするのだ。

おそらく、彼らは自らのルーツを確認することで、自分達が何者であり、今は何処にいて、これから何処へと向かうべきなのかを、知ろうとしたのだと思う。『魂の叫び』は、そうした試みの大いなる成果だった。ロックンロールの歴史を学び、先人達の叡智と経験を血肉とすることで、バンドは鍛えられ、長い音楽の旅に出るための筋力をつけることができたのだ。

しかし、もっとも重要だったのは、自分たちがブルースやソウルに人生を捧げるバンドではないと悟ったことだろう。ラリーがこんなことを言っている。

「B.B.キングのような音楽を、自分達のものにはできないとわかったんだ。僕らのルーツはそこじゃなかった。楽しかったけど、そういうことさ。僕らは違う世界から来たバンドだったんだ」

彼らにとってルーツミュージックは安住の地ではなかった。そのことに気づいたとき、バンドはまたひとつ自由になれたのかもしれない。

数年後、U2 は前人未到の地に足を踏み入れる。デジタル化が加速する90年代と正面から向き合ったテクノ3部作へと、一気に舵を切ることになるのだ。そして、驚くべきことに、僕らが U2 の本当の凄さを知るのは、ここからだったのである。

受け継いだ土地を耕すのではなく、新しい時代の扉を押し開けるために、隠れる場所など何処にもない未開の荒野へと、U2 は歩き出した。そこではどの通りにもまだ名前はついていない。

2019.07.09
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  YouTube / MofoU2Slovakia


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カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
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