化粧をしない男性は気づきにくいのだが、コスメ業界のキャンペーンは、{春:口紅、夏:ファンデーション、秋:アイシャドー、冬:基礎化粧品}というのが80年代前半までのお約束だった。ずっと続いてきたこのルールを、微妙に崩し始めたのは、カネボウだった。
はじめは、このシリーズでもふれた82年春の『浮気な、パレットキャット』。磁石式パレットにかこつけて、口紅・アイシャドウ・ファンデーション・ほほ紅の主要四品目をまとめて売り込んだ。さらにカネボウは、85年春にはBIOメイクシリーズで「目に頬にも唇にも」と「顔につけるものは、とにかく全部売る」という姿勢を打ち出す。また、当シリーズ84年の回でふれたように、モデルやタレントでなく、アイドル歌手をCMに起用し始めたのもカネボウだった。
こうしたカネボウの動きに影響されてか、資生堂も83年『め組のひと』キャンペーンで夏にアイシャドウをメイン商品に据えて不文律を破り、86年にはアイドル歌手をCMに起用する。それが中山美穂だった。
中山は86年春に自らの歌う『色・ホワイトブレンド』で資生堂CMに初登場する。詞・曲ともに竹内まりやが手がけたこの作品は、20万枚を売り上げてオリコン週間5位、TBSザ・ベストテンも5位となった。のみならず、お嬢さん風のCM演出が、ドラマの役柄の影響でちょっと不良っぽかった中山のイメージを軌道修正するきっかけになった。
そして、たたみかけるように秋のキャンペーンにも登場。松本隆&筒美京平コンビによるアップテンポナンバーの題名そのままに、『ツイてるねノッてるね』で、オリコン週間3位、TBSザ・ベストテン3位を獲得する。曲タイトルからご推察のように、CMも秋の定番のアイシャドーではなく、ファンデーションを訴求するものだった。
同じ時期のカネボウも、もちろんアイドル路線をまっしぐら。国生さゆり『ノーブルレッドの瞬間』(作詞:秋元康、作曲:後藤次利、編曲:佐藤準)とタイアップする。人気絶頂だったおニャン子パワー炸裂で、なんと、この曲はオリコン1位、TBSザ・ベストテンでも4位にランクイン。とりあえず直近の話題のものにとびつくダボハゼ的な(笑)カネボウお家芸の宣伝手法が当たった形である。CM内容も「目に、唇に、指先に」と顔だけでなく、マニキュアまで含めた商品ラインナップの「全部入り」で、もはや季節ごとの定番商品は有名無実となっていた。
さて、国生にはおもしろいエピソードがある。実は彼女は、高校卒業後に資生堂の美容部員として就職が内定しており、フジテレビ『夕やけニャンニャン』でデビューしなければ、地元・広島のデパートの資生堂の売り場に立つ予定だった。カネボウCMに起用されたとき、さすがに本人も戸惑ったらしい。ウソのような本当の話だが、ここにも二社のライバルとしてのただならぬ縁を感じずにはおれない。
(つづく)
2017.03.02
YouTube / nos 00
YouTube / inokinohahaB
Information