1977年 11月25日

さだまさし「案山子」45年前にリリースされた “いま聴きたい歌” の歌詞を深読み

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名曲「案山子」の舞台は、島根県にある “天空の城” から見下ろした街並み


島根県鹿足郡津和野後田にある津和野城(別名・天空の城)は、標高367mの霊亀山の山頂に築かれた山城である。明治時代に廃城となったが、現在も石垣や堀、物見櫓(ものみやぐら)などが各所に残っていて国の史跡に指定されている。城跡の『三十間台』からは、城下に広がった街並みを一望することができる。夜景を堪能するほどの街明かりはないけれど、夕景に広がる山裾の景色は実に美しい。

ここから見た風景にさだまさしは何を思い、何を伝えようと考えたのか――

今回は、1977年11月25日にリリースされたさだまさしの人気曲「案山子」を取り上げてみたい。「雨やどり」や「関白宣言」などと同様に、“語る系” の歌として人気が高い同曲は、翌年リリースされた珠玉のアルバム『私花集(アンソロジィ)』にも収録されている。



車窓から偶然見かけた案山子にインスパイアされたさだまさし


「案山子」の歌詞中における風景は、津和野城跡から見渡した街並みだという。さだファンはもちろん地元で暮らす方で知らない人はいないだろう。2008年には『津和野高等学校創立100周年記念事業』の一環として自身がコンサートも開いている。

2016年10月に放送された『関ジャム完全燃SHOW』でのエピソードだが、「案山子」は、津和野城跡の子どもたちが遊ぶ広場のシンボルである松の木が歌っているイメージで曲を書いたそうだ。

兄視点の歌ではあるが、それは都会に出た子どもを思う親の気持ちのようにも読み取れる。松の木が故郷の街並みを見渡して、遠く離れた娘や息子、あるいは兄弟などを想う大きな存在としてのイメージをさだは抱いたのだろう。改めて歌詞を読むと、しみじみとした感情が今まで以上に湧きあがってくる。

「案山子」を作曲するキッカケになったのは、さだと実弟(佐田繁理)が、大分から福岡へ列車移動しているときの一コマからだという。さだは、車窓から雪が積もった田んぼの案山子に気づき「かわいそうだな…」と、弟に語りかけたそうだ。ひとりポツンと田んぼに立つ寂しげな案山子の姿を、自身が経験した都会でのひとり暮らしや弟の台湾留学を心配した思い出と重ね合わせ、イメージを大きく膨らませたのだろう。

「案山子」のメタファー、母親想いの威厳ある兄だけど本当は…


だいぶ前置きが長くなったけれど、ここからが今回の本題である。

歌詞のなかでは、故郷を離れた「お前」が、あの日車窓から見た案山子に見立てられている。けれど、さだが “かわいそう” と感じた案山子は、「お前」を取り巻く寂しさだけではなく、何か別の含みがあるのではないか? と僕は気になったのだ。

案山子のメタファーとは何だろう?

―― それが今回の深読み事案である。歌詞を追ってみる。

 元気でいるか 街には慣れたか 友達できたか
 寂しかないか お金はあるか 今度いつ帰る

このAメロの歌詞は、故郷を離れた「お前」を案じる感情がダダ洩れである。親として、兄として、あるいは担任の先生やアルバイト先の店長など「お前」を大切に思う全ての大人たちは、きっとみんな同じ感情を持っているはずだ。ただ、こういった直接的な言葉は、面と向かうと照れてしまってなかなか言い出せないもの。往々にして、近しい人に心の内を見せるのは気恥ずかしいからだ。だから手紙なのだ。

そう、この部分の歌詞は少々ぶっきらぼうだけど兄が書いた「お前」宛ての手紙である。手紙を書いても返事がこないので催促しているのだ。だから、この後に続くサビの歌詞の始まりが「手紙が無理なら~」なのである。

 手紙が無理なら 電話でもいい
 「金頼む」の一言でもいい
 お前の笑顔を待ちわびる
 おふくろに聴かせてやってくれ

故郷で一緒に暮らす母親が不憫でならないという兄としての実直な声である。「声だけでも聴かせてやれ」とは、母親思いの兄として威厳も兼ねた当然の行動だろう。

そして曲は再び冒頭の「~今度いつ帰る」というAメロに戻っていく。

「今度いつ帰る」の返事を催促するのは、母親の心細さを癒すための兄からのお願いだ。けれど、僕はこのフレーズが何度も繰り返されることで、本当は兄である自分が一番会いたいのだと気づいてしまった。そう、心配する数々の言葉は兄の照れ隠しなのである。母親をダシにしているが、実は母よりも何よりも自分がまず顔を見て話がしたいのだ。こうなると、兄としての威厳など何処へやらである(笑)。

照れ隠しはさておき、本題である案山子のメタファーに取り掛かろう。

案山子が意味するもの


 お前も都会の雪景色の中で
 丁度あの案山子の様に
 寂しい思いしてはいないか
 体をこわしてはいないか

この辺りの歌詞は、さだ本人の経験が色濃く反映されている。

3歳より始めたヴァイオリン修行のために中学1年生のときに上京。高校受験に失敗してヴァイオリンへの熱意を失ってしまう。挫折である。さらに大学進学後も数ヶ月で中退… さらに肝炎を患ったことで長崎に帰京するという苦々しい経歴が、この数行に表れている。

もうおわかりだろう… 歌詞中の案山子とは、さだが経験した過去の自分を重ね合わせてできたメタファーなのだ。

ただそれだけではない…。

雪が降り積もっても身動きひとつ取れない案山子とは、故郷を離れられず田舎に取り残された人のメタファーでもある。さだの家族で言えば弟や妹がそれだ。

早々に長崎から上京して都会の暮らしを満喫したさだは、そのことに対し「まだ小さかった弟や妹に寂しい思いをさせたよなぁ…」という後ろめたさがあったはずだ。そのことを車窓から案山子を見たときに思い起こしたのでは? と僕は想像した。

「長男は家業を継がなくてはいけない」とか、様々な事情でその土地を離れられない人がいる。もちろんそんなこと気にせずに一度の人生思った通りに挑戦すればいいのだけど、実際そうもいかないのが現実である。

案山子というのは、日照りの夏も、雪の積もる冬も、何があってもその場所から離れず毎日をたったひとりで過ごしている。その不満を声にする口すら付いていない。そういうもどかしさも、さだは案山子になぞらえていると思うのだが、どうだろう…。

ファンたちは皆「案山子」を求めていた


コロナ禍において、遠く故郷に住む両親の安否に気を病んだ方は多いだろう。アプリを使えば画面を通じて簡単に話せる時代。でも、会って話をするリアルに、それは遠く及ばない。直接会って話すことがどれだけ大切なのか… 僕らは今回嫌というほど思い知らされた。

多くの人が「故郷に自分がウイルスを持ち込むかもしれない」という心配から実家への帰省を躊躇して諦めた。地元で開かれるはずだったコンサートや同窓会なども含め、多くの人が集まる催しは次々と自粛され中止になった。そういった度重なる自粛が心身に大きな負担を与え、やがて人と直接会うことを「悪」と見なすように形を変えてしまった。そういった歪んだ意識がひとり歩きしてしまい、人同士いがみ合う事態をも引き起こした。ウイルスが発生させる病魔の「魔」の部分が人の心を蝕んでいったのだ。

故郷に住む親と、あと何度顔を合わせられるだろう。元気なうちに会うとすれば、それは残り十数回かもしれない。そう気づいた人も少なくないだろう。そんなコロナ禍で、さだの歌を求める人は多かった。

“いま聴きたい歌” として「案山子」が上位にランクインするのは当然のことだろう。リリースから45年も前の曲だが、現在も多くの人を共感させる歌詞であり、牧歌的なAメロから続くサビの切ない曲調には心を掴んで離さない美しさがある。そう、この曲は、度あるごとに人々に優しさと温かさを与え続けてきたのだ。

さだは、かつて時代の流れによって簡略化された歌詞や、響きが汚れていく現代の日本語を憂い「せめて歌の中だけでも美しい言葉を残したいと思って、うたづくりに励んでいる」と語っている。コミカルな歌も得意なさだまさしだけれど、美しい響きの歌詞とメロディは彼の独壇場だな… と改めて感じた。

さだまさし、最高である。

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2022.11.25
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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎たかはしみさお
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