ロックンロールの文化の中では、ある種の情けないオトコが愛される傾向がある。それを聴き手自身の情けなさの弁護に使うのはチグハグな感じがするのだが、「近くには絶対いてほしくはないけれども、遠くから観察していたい」ような「愛で方」をしたいミュージシャンは多くいる(卑近な例を出せばブライアン・ジョーンズか)。
ところで僕はやくざ映画で描かれるチンピラに、同じような思いを抱くことがある。初期衝動だけで動いているような彼らは必ず破滅の道を行く。加えて彼ら自身もそれに自覚的であるところが、なんとも言えない情けなさと悲哀を感じさせて、彼らを愛すべきものにしている。
東映実録映画に描かれるチンピラなどはまさにそうなのだが、その系譜に属する86年公開の映画『極道の妻たち』は、「初めて極道者を陰で支える女性に焦点を当てたやくざ映画」としてキリリとした岩下志麻と、情熱的なかたせ梨乃のイメージが一般的には強い。しかしその女性陣のしっかりさが、逆に男性陣のチンピラ的どうしようもなさを引き立てているように、僕には感じられるのだ。
この映画は、実の姉妹役を演じる岩下志麻とかたせ梨乃が、それぞれ対立する組織の妻となったがゆえに永遠に引き裂かれる悲劇である。相変わらず艶やかでかつコミカルな演技を見せる成田三樹夫や、存在感の塊のような佐藤慶など、見どころは多くある。その中でもこんなシーンがある。とあることから成田三樹夫を殺しに来た世良。しかし成田の放つ圧倒的な強さの前に、なすすべもない。逆に「死んでみい!」とすごまれる世良。彼は青い空をバックに果物ナイフで腹を刺すものの、一言『バカくさ』と言って逃げてしまう。
全体的に、この映画での世良の行動にはツッコミどころ満載である。世良の放った「バカくさ」という言葉は、自分のそんな情けなさを知っている証左だ。しかし、彼はそのようにしか生きられない。そこに『宿無し』を歌うロックのメンタリティーを僕は見るのだ。そして、その「バカくさ」というセリフに、破滅の道を行くものへの愛着を感じてしまい、恥ずかしながら「惚れて」しまうのだ。
宿無し / 世良公則&ツイスト
作詞・作曲:世良公則
編曲:世良公則&ツイスト
発売:1978年4月10日
2016.06.17
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