ロンドンに住んでから1年以上が過ぎ、中学校2年生になったある日、とても衝撃的な出会いがあった。そう、その後自分の人生にも多大な影響を及ぼすことになる新たな趣味、コンピューター(マイコン)との出会いである。それは隣駅のブレントクロス・ショッピングセンターに行った際、イギリスのシンクレア(sinclair)という会社が開発したマイコン「ZX Spectrum」が目に留まり、親父に無理いって買って貰ったのが始まり。
日本では「ZX81」という廉価版が一時期知られていたが、他にも富士通の「FM7」やシャープの「X1」「MSX」など、独自のマイコン文化が花開き様々なプログラミングを自宅で学べる時代が到来。80年代中盤はこのコンピューターを使って、有名になろうと夢見るプログラミング小僧が登場し、お互い競い合って雑誌「ベーシックマガジン」などに投稿。とても刺激的な時代の幕開けだった。
この「ZX Spectrum」はヨーロッパや北米で大ブームを引き起こした。当時、ヨーロッパのラジオ局では、当然のごとく80年代のポップミュージックが流されていたが、たまにゲームなどのプログラミングデータも(FAX音のようなピロピロした音で)オンエアされ、インターネットなど無い時代にソフトが配布されるぐらいの人気があった。
さて、あの当時のイギリス人にとって、日本のアーティストで必ず一度は聞いたことのある曲が、YMOの『ライディーン』と、80年頃にBBCで放送されていた「西遊記(英タイトル:Monkey Magic)」の主題歌、ゴダイゴの『ガンダーラ』。特に『ライディーン』は、日本を特集した番組が放送されると、ハイテクノロジーのお国のイメージのBGMとしてよく流れていた。
何でこのような話をするのかというと、実はマイコンを始めたかった理由は、何といっても音楽をプログラム入力して、自分で再生したかったのである。そして、そのきっかけとなった曲が、YMOの『ライディーン』だった。自分にとってこの曲は日本の誇りであり、同時にマイコンをやり始めた私が初めて自分の力で音を奏でられた曲でもあって、いろんな意味で特別な存在となった。
『ライディーン』はとてもマイコン向きのメロディーなので、余計にチャレンジしたくなったのも事実。実際にこの曲は、ゲームのBGMとしても相性が良く、セガの発売したアーケードゲーム「スーパーロコモーティブ」(1982年)など、マイコンとFM音源を使った新しい時代の象徴 “テクノポップ” として、自分に多大な影響を与えたのだ。
しかし残念なことに、私の持っている「ZX Spectrum」にはFM音源機能が無く、複雑な音が出せなかった。絶対に自分のプログラミングで同じような音が出せると思ったのだが、ちゃんと満足のいく仕上がりにするまでにはあと2年の月日を要することになった。そう、日本に帰国した後に購入したシャープの「X1」というマイコンに繋げた、AMDEK(後のローランドDG)社の「CMU-800」と「CMU-810」というアナログのDTM機材が手に入るまでは…
2016.11.02
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