唯一天下を取った女性ピン芸人、山田邦子の歌手活動
“女性芸人” という言葉が当たり前に使われる今、その筆頭株と言える山田邦子。
山田邦子(以下、邦ちゃん)は、“唯一天下を取った女性ピン芸人” とも呼ばれ、女優や小説家などマルチに活動を行う中でレコードデビューも果たしています。
邦ちゃんの歌手活動といえば、ネタを活かした1981年12月5日リリースのデビューシングル「邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)」や、平成に入ってから『やまだかつてないTV』でのモノマネから生まれた、やまだかつてないWinkを思い出される方も多いのではないでしょうか。
作・編曲 細野晴臣の実験的サウンド「哲学しよう」
そんな邦ちゃんの歌手活動から、密かに話題になっている曲があります。その曲とは、1982年12月5日にリリースされた4枚目のシングルの「哲学しよう」。作詞は山田邦子、作曲と編曲を細野晴臣が担当しています。
当時の細野晴臣は、真鍋ちえみやスターボーを手掛け、YMOの延長線上の楽曲提供をし始めたばかり。自身では『フィルハーモニー』という4年ぶりのソロアルバムを発表し、本格的なテクノアルバムを発表した年でした。
この「哲学しよう」は基本的にはテクノ歌謡です。しかし、前年に楽曲提供したイモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」のような “まんまYMOの音” でもなく、“歌謡曲的要素” も感じられません。パーカッションが印象的なトラックと、“ラテンとテクノポップ” を融合させたサウンドが、お笑い芸人が唄うイロモノ的要素を完全に排除する “実験的サウンド” に驚かされます。
歌詞は山田邦子、少しアダルトな雰囲気だが…
そしてこのメロディーとサウンドに詞をつけたのが邦ちゃん自身。この曲の登場人物は少し背伸びした若者と、人生の酸いも甘いも知る大人の女性が織りなすストーリーです。舞台は静かなバーのカウンターでしょうか。少しアダルトな雰囲気です。
哲学しよう 二人きりで
哲学しよう 二人
ヘイ・ボーヤ
と、リズムに乗せて、都会的で知的な女性像… まるで邦ちゃんの妖艶さを醸し出していたのが一転して、
洋モクなんか抜き取るくせに
ライター持つ手が ぶーるぶる
お酒はいつから 覚えたの
グラス持つ手が ぶーるぶる
なんと、ここでは歌うのではなくメロディーに合わせて喋りだすのです。まるで、若者を獲物にした女豹。その女豹が今まさに狩りを行い獲物を骨まで喰らいつくそうとする心の声が、“歌う” のではなく “喋る” ことで見事に表現されています。
これは朗読? いやいや完全にラップ!
こんなへんてこな歌詞が朗読されている後ろで、細野晴臣のテクノサウンドが流れるミスマッチ感。一体、ここで細野晴臣は何を狙っていたのでしょうか。今聴くとピンっと来るんです。
「コレってもしかするとラップ?」
このセリフ部分、当時は単なる朗読だと思っていたのですが、今聴くと完全にラップです。と同時に、改めてこの曲のカッコよさに気づきました。
日本でヒップホップとラップを取り入れた元祖としては、1984年に発表された佐野元春「COMPLICATION SHAKEDOWN」と、吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」が挙げられますが、この1982年に発売された山田邦子「哲学しよう」を加えても全く遜色ない1曲と言えます。
山田邦子のセンスと細野晴臣実験的サウンドの奇跡的な融合
そして時は過ぎ、2000年代になるとパフュームのブレイクによって、テクノポップが注目されるようになり、この「哲学しよう」も “テクノ歌謡” として改めて認知されることになります。それにともない「哲学しよう」の中古レコード価格は、今や高値で取り引きされるレアアイテムとなっています。
“お笑い” がカルチャーとして、オシャレで最先端のトレンドだった80年代初期に、邦ちゃんのセンスの良さと細野晴臣の実験的サウンドの奇跡的な融合が生み出したテクノラップソング。今聴いてもらえれば、「本当にコレが1982年の作品なのか?」…と疑いたくなるほどの、オシャレで、アバンギャルドさに誰もが驚き、卒倒するはずです。
さて、現在は長年所属していた事務所から独立した邦ちゃん。公式チャンネル『山田邦子 クニチャンネル』でYouTuberデビューを飾っており、今も変わらぬトークの上手さで若い世代からも人気を博しています。改めて私からここで言わせてください。
昔も今も、邦ちゃんは何をやってもカッコいい!
邦ちゃんは何をやってもカッコいい!
大事なことなので2度言いました(笑)。
※2021年6月13日に掲載された記事をアップデート
2022.06.13