9月30日

ユニコーン「ヒゲとボイン」全曲解説、人生は達観し笑ってみせた者の勝ち♪

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photo:SonyMusic  

ユニコーン『ヒゲとボイン』(1991年)。
元来ロックになり得なかった日本人らしい生活圏をロックにするという、彼ら特有のスタンスの極北にあたるアルバムである。

高齢者施設の入館者(川西幸一)、両親の DV をみつめる幼児(手島いさむ)、都市計画で立ち退きを命じられた家庭の息子(奥田民生)、若者を仮想敵にして奮い立つ40代男(EBI)、妻に調子のいいことを言って働かないプー太郎(ABEDON)… 等々、各メンバーが書き上げた主人公は主人公らしからぬ者ばかり。大概のロックバンドが名刺がわりにしてきた不良像に背く、ある意味いちばんの不良たちだと思えてくるトータリティだ。

一方で極端なミュート、誘発されたノイズ、屋外の自然音、テープの逆回転、謎めいたサンプリング等々、思いつく限りの変則的な録音方法で遊び尽くされているのも本作の大きな特徴。図らずも5人は、オルタナの時代へ一足先に到達していたのである。

メンバーは、ドラムスの川西幸一、ギターの手島いさむ、メインボーカルの奥田民生、ベースの EBI(堀内一史)、キーボードの ABEDON(阿部義晴)。現在もこの5人だ。


【全曲解説】

1. ターボ意味無し
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。数年後ソロアーティストとしての彼がブルースロックへ傾倒するところの前兆に数えられる1曲。サマー・オブ・ラブの犠牲になったヒッピーの怨霊がスピーカーにへばりついているかのような、重く詰まったアンサンブルに耳を奪われる。ただし歌詞は、渋滞につかまった車の話だけ。


2. 黒い炎
■作詞・作曲:EBI

ボーカルは EBI。曲名にチェイス「ゲット・イット・オン」の邦題が引用されている通り、疾走感のあるブラスロックである。生命力みなぎる中年を歌うことは、5人が若者の側にいた頃からの伝統。結果として、40代以降再び黄金期を迎える彼ら自身に重なる歌となっている。当時ソロアルバム制作直後だったこともあり『ヒゲとボイン』での EBI はこの1曲しか採用されていないが、表題曲とともにシングルカットされ充分な爪痕を残した。


3. ニッポンへ行くの巻
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。香港映画『西太后』からのサンプリングボイスで幕を開けるオリエンタルソウル。70年代の細野晴臣の作風を連想させる異国視点のニッポン像が題材だ。「働く事が好きな 君みたいなタイプは この国に 向いてるのかもね」という一節は、「大迷惑」(1989年)や「働く男」(1990年)など仕事に追われる歌を度々書いている民生によるセルフオマージュといえる。


4. 開店休業
■作詞・作曲:ABEDON

ボーカルは民生。「猫の手さえも貸したいくらい」働く気がない夫という、ユニコーン作品史上屈指のダメ男が一人称のロッカバラッド。屋外録音だが、思いのほか録れなかった鳥のさえずりは後から機械的に付け足されたものだそうで、そのマヌケな内情も物語と相性が良い。あろうことか、時折彼らは本曲でコンサートを終えようとする。


5. 幸福
■作詞・作曲:手島いさむ

ボーカルは手島。初の単独ボーカルにして屋外録音。曲調は彼の代表作「デーゲーム」(1989年)と同様のインド路線だが、アコースティックギターとパーカッションのみの演奏で不気味さが増している。幼児視点で描かれた家庭崩壊の歌であり、冒頭の歌詞は感情が表に出てこないパフォーマンスとは対照的に「朝顔見たその夜 パパがママを殴った」という強烈な一節。いやはや、詞才に恵まれ過ぎたバンドだ。


6. 看護婦ロック
■作詞・作曲:ABEDON

ボーカルは阿部… というより、阿部主宰のミュージカルのようなもの。曲名がエルヴィス・プレスリー「監獄ロック(Jailhouse Rock)」のもじりである通り50年代オマージュ路線で、合間に “観客” を煽るセリフが多々挟まる。ビル・ブラック風のウッドベースは渡辺等による客演。したがって録音時に EBI は不参加だが、再結成後のコンサートでは彼が阿部に代わりボーカルを務めたりもしている。


7. 立秋
■作詞・作曲:ABEDON

ボーカルは民生。近代文豪のような格式高い語法で、秋の山景に重ねられた恋心を歌う。突如として古の日本へタイムスリップした雰囲気。また、前曲まではデッドな音像が続いていたため、真逆の臨場感を有す本曲はスリリングにすら感じられる。演奏はジャジーでブラジル音楽の要素もあり、広義には後の阿部の傑作「アナマリア」(1993年)と同系だ。


8. ザ・マン・アイ・ラヴ
■作詞・作曲:川西幸一

ボーカルは民生。コンプレッサーで潰されまくった音像のシャッフルナンバー。過去のフルアルバムに比べてドラムスの出番が少なめな中、“ドタバタ” が真骨頂の川西がその鬱憤を一気に晴らしている印象だ。男同士の失恋という珍しい題材である一方「ちょいとちょいと」といった言葉選びからは昭和歌謡の流儀が感じられる。


9. フリージャズ
■作詞・作曲:ABEDON

ボーカルは阿部。恋人が去った部屋に残る所持品の描写にちなんだ曲名で、実際の曲調はクラシック音楽の素養が知れる唱歌 / 童謡風。ただし、先にカッティングされたアナログ盤をスクラッチノイズが生じるまでフリスビー代わりにしたという狂った工程は、いわばフリージャズ的である。


10. 風
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。この突飛なアルバムの手本がビートルズであることを明らかにする「ブラックバード」風の小曲。掃除するだの区役所に行くだの、明日の予定を誰に約束するでもなく宣言するだけの40秒弱。物語の続き(オチ)が3曲後の「風Ⅱ」である。


11. 家
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。立ち退きを命じられた家庭の光景を「僕らの家が新しくなる」などと息子の視点でシニカルに歌う。曲調は弾き語りだけの “静” 、バンドが合流する “動” を往き来するサイケロック。屋外の自然音が密かに逆回転になっている仕掛けもある。

ちなみに、2016年に民生が書いた「マイホーム」は作詞面、「ハイになってハイハイ」は編曲面でそれぞれ「家」の作風に通底しており、本曲が自信作だったことを裏づけている。


12. Oh,What a Beautiful Morning
■作詞:川西幸一 作曲:奥田民生

ボーカルは民生。素朴なカントリー調にのせて高齢者施設で暮らす男の悲喜交々を歌う。「利発な嫁に 息子は言いなり ああ誰に似たのやら」など、絞られた言葉数での人生描写が終始秀逸。

そもそもこの題材を思いつくという段階で、川西のノベルティセンスに疑いの余地などないだろう。ユニコーンの “一時解散” は先行した川西の脱退が決定打とみられるが、彼なしで続けるくらいならば英断だったといえる。


13. 風Ⅱ
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。10曲目「風」の続きにあたる小曲。曲調も収録時間もほぼ同じ。朝8時に起きると宣言していたが9時に起きており、諸々の予定は「雨が降ってるじゃないか」で全部中止というオチ。なお歌詞に合わせて「風」は夜中、「風Ⅱ」は早朝の屋外録音だったとのこと。違いが反映しているかは定かでない。


14. 車も電話もないけれど
■作詞・作曲:奥田民生

ボーカルは民生。ビートルズ「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を彷彿とさせるミディアムバラッドながら、舞台は幕末。黒船で来日した女性との国際結婚が描かれている。車も電話もない時代を生きる主人公に「車も電話もないけれど」というセリフを与えてしまうナンセンスは、物語が極めて感動的な結末にたどり着いてしまったことへのささやかな抵抗なのかも知れない。抵抗しても無駄である。


ここまで通して聴いてみると、このアルバムには、『クローズアップ(寄り)で捉えた日本とロングショット(引き)で捉えた日本の対比』というコンセプトがあることに気づく。

大半は生活感に溢れた “クローズアップ” の作風だが、序盤の「ニッポンへ行くの巻」、中盤の「立秋」、終盤の「車も電話もないけれど」はそれぞれお伽話のような “ロングショット” の作風であり、前後に置かれた収録曲がいかに狭い世界の物語かを思い知らせる。延いては、日本人という生き物の可笑しさ・慎ましさ・憎めなさなどが多面的に浮き上がる効果に至っているのだ。


15. ヒゲとボイン
■作詞・作曲:奥田民生

そしてラストトラックは、民生が歌う表題曲「ヒゲとボイン」(曲名は小島功の同名漫画からの引用)。出世と色恋に苦悩するサラリーマンの日常が “クローズアップ” で描かれており「僕は今世界一の悩める人さ」などと訴える主人公に対し、E.L.O を彷彿とさせる SF 趣味のシンセサイザーがどことなく嘲笑うように鳴り響いている。

つまり、オフィスのデスク数台分の世界においては切実な問題であるけれど、宇宙から俯瞰する気持ちで捉えれば甚だどうでもいい問題だということを、1曲の中に備わった2種類のカメラアングルが演出しているわけだ。まさに、アルバムの締めくくりに相応しい。

喜劇王チャールズ・チャップリンは「悲劇はクローズアップで、喜劇はロングショットで撮るもの」と言った。ユニコーンも、このアルバムを通じて似たようなことを言っている気がする。人生は、達観し笑ってみせた者の勝ちなのである。

2019.03.27
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  YouTube / ユニコーン Official YouTube Channel


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カタリベ
1982年生まれ
山口順平
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