5月21日

佐野元春「SOMEDAY」40周年!パンデミックを経験した今だからこそ意義深い?

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50sカルチャーをノスタルジーとして語る余裕が出てきた80年代


1980年代というキラキラとした時代の色彩がどこから来たのかと考えると、70年代末からじわじわと浸透してきたサーフィンやアメリカ西海岸ブーム、そして、1981年にピークを迎えたフィフティーズブームもそのひとつですね。アメリカが物質的にも精神的にも最も豊かだった時代の若者のライフスタイル… ファッションや髪型、聴いていた音楽を真似て、それが最先端だと思う感覚が全国に浸透していきました。

シャネルズの「ランナウェイ」やザ・ヴィーナスの「キッスは目にして」の大ヒット。大滝詠一の『A LONG VACATION』(以下ロンバケ)にしても、そんな世の中の流れに合致したことも大ヒットに至る要因だったと僕は思います。永井博さんのイラストも圧倒的にフィフティーズでした。

そんなキラキラしたアメリカに憧憬を抱くというのは、反対の見方をすると、日本は敗戦国の域から抜け出していないわけで、アメリカに追い付け追い越せではなく、完全に羨望の眼差しでみていたわけですから。それが、80年代半ばになると、“レトロ的” という古き良き時代のカルチャーをノスタルジーとして語る余裕が出てくるわけです。時代はバブルに向かい好景気に浮かれ始めます。この時、日本は文化的視点からすると初めて敗戦国という負い目から抜け出たのではないでしょうか。

佐野元春が歌った、煌めきの中の孤独


ただ、アーリー80’Sの未だ見ぬものに憧れを抱く温故知新的な捉え方が時代に大きなうねりを見せたことも確かなことで、ここに内包されているキラキラ感は様々なかたちで一気に浸透していきます。70年代の土着的とも言える価値観の中で少女から女性への成長を歌ってきた山口百恵から松田聖子への世代交代や、「TOKIO」以降の沢田研二など、パイがより大きいエンタメ界を俯瞰してみても、この印象は一目瞭然で、70年代とは明らかに違う世界が広がっていきました。

そんな中、この時代のうねりをシニカルな視線で見つめ、今からちょうど40年前、1982年に大ブレイクする男がいました…。そう。佐野元春です。

佐野元春が世間的に認知されたのは、大滝詠一、杉真理と共にクリエイトしたアルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』だったと思います。ロンバケのヒットから約1年、あのリゾートミュージック的なイメージであのアルバムを語る人も多いと思いますが、ここに登場した元春は、どことなくシニカルで、古き良き時代に未来を見出すという感覚とは異なっていました。

 街に暮らしていると 毎日少しずつ
 シニカルになって夜を見つめてる君

と「マンハッタンブリッヂにたたずんで」で歌い、また、同じくここに収録されている「彼女はデリケート」の、冒頭の有名なモノローグでは…

 出発間際にヴェジタリアンの彼女は東京に残した恋人のことを思うわけだ。
 そう。空港ロビーのサンドウィッチスタンドで。
 でも、彼女はデリケートな女だから
 コーヒーミルの湯気のせいでサンフランシスコに行くのをやめるかもしれないね…

と―― そう、この時代にすでに元春は、キラキラしたアメリカへの憧憬に隠された苦悩を現実のものと捉え、それがリアルである人々の苦悩を歌にしていたのです。それもキラキラとしたリゾート感覚を否定するのではなく、煌めきの中の孤独をクッキリ浮かび上がらせた瞬間、佐野元春の疾走は始まったんだと思います。

佐野元春がアルバム「SOMEDAY」で見抜いた80年代の本質とは


セールスが伸び悩んだファースト(『BACK TO THE STREET』)、セカンド(『HEART BEAT』)でもこのような都市生活者特有の苦悩やあがきを疾走感のあるメロディに乗せていた元春ですが、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』、そして個人的な大ヒットを記録するアルバム『SOMEDAY』と前作2枚の決定的な大きな違いは、煌めきと苦悩の対比でした。

『SOMEDAY』の中で感じられるAOR的な解釈やフィル・スペクターの “ウオール・オブ・サウンド” を思わせる煌びやかな音作りは “音楽的な深化” と片付けてしまえばそれまでですが、この音に至るまでの時代の見つめ方が邦楽シーンに残る記念碑的アルバムの本質ではないでしょうか。

つまり、元春はキラキラとした虚飾の中の孤独をしっかりと見抜き、初のセルフプロデュースというかたちで確かなものへとしていったのです。

「ハッピーマン」の中で「冷たい夜さAi Ai Ai」と叫ぶ、カシミアのマフラーにイタリアンシャツの男も、「ダウンタウンボーイ」の中の「くわえタバコのブルー・ボーイ」も、寂しさを抱えながら煌めく情景の中で、苦悩し、突き抜けようとしています。そのリアリティがゴージャスさを纏ったサウンドと相俟ったからこそ、抜きん出た存在になったのです。

このような元春の世界観は、その後ひとつのプロトタイプになっていきます。40年前、キラキラとした時代の中で見抜いた本質は、普遍性へと変わり、音楽シーンは成熟していきます。

注目されるべき佐野元春の楽曲、2022年は現実を見据える時代


2022年、今年はアルバム『SOMEDAY』からリリース40周年。1982年に元春がシニカルな視線で描いた世界が、今どのように映るのでしょうか。

パンデミックを経験した今だからこそ、当時の価値観がより深く突き刺さるのではないでしょうか。2021年にソフィスケートされたシティポップが浸透した年でもありました。80年代初頭のアーバンなライフスタイルが “レトロ的” な視点で新鮮に感じたのも混沌とした閉塞感の中であれば確かなこと。

しかし2022年は、この混沌から突き抜け、現実を見据える時代になると思うのです。だからこそ、『SOMEDAY』のアニバーサリーというのは非常に意義深いものだと感じます。そしてここから、シティポップ的な虚構ではなく、元春のように常に現実を見据えていたアーティストの楽曲に目を向けるべきではないでしょうか。

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2022.01.02
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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