70年代後半に動き出した日本のパンクムーブメント・東京ロッカーズ。個性的なバンドが集まるその中でも特に異色だったのがフリクションだ。アルバム『東京ROCKERS』に収録された2曲「せなかのコード」「COOL FOOL」はフニャフニャしていて、正直どこがいいのかよく分からなかった。でも、そのフリクションが1980年に発表したファーストアルバム『軋轢』には衝撃を受けた。
レック、チコ・ヒゲ、ツネマツマサトシの3人が作り出すサウンドは僕が今まで聴いてきたロックとは明らかに違った。ロック的なかっこいいリフやサビもないし、歌詞もなんだかアドリブのようで何を歌っているのかよく分からない。あって当然と思っていたものが一切ない。でもその聴く人を突き放すかのようなサウンドに僕はぐいぐい引き込まれてしまった。
中でもツネマツマサトシのノイズのようなギターには完全にやられた。リフもソロもパワーコードない。神経に触るような音だけがやけに耳に残る。
これは本当にギターの音なのか? 怪しい信号が出てない? 頭の中に何かを埋め込もうとしてるんじゃない? 顔もなんか宇宙人ぽいし。僕の中に忍びこむ宇宙からの侵略者、メトロン星人かも!
なんてことを思いながら繰り返し聴いているうちにメトロン星に行きたい、早く連れて行ってくれという気分になってくる。
ところが残念なことにツネマツマサトシの侵略は、バンド脱退によりこのアルバム一枚で終わってしまう。フリクションはその後も独自のサウンドで活動を続け、ツネマツマサトシは自身のバンドE.D.P.Sやソロでの活動を始める。
音楽活動と並行して画家としての活動も行い、その絵はE.D.P.Sのアルバムジャケットでも見ることができる。E.D.P.S解散後は画家としての活動に重きを置いたのか、名前を聞くことが少なくなっていった。
10年ほど前のこと。行きつけの立ち飲み屋でいつものようにホッピーを飲んでいると、テーブルの上に見たことがある絵が印刷されたハガキが置いてあった。そのハガキを手にとって裏を見ると「恒松正敏展」の文字が目に入ってきた。なんでこんな立ち飲み屋にこんなハガキが置いてあるのかと店長に聞くと、店のすぐ近くのギャラリーで個展を開催していて、本人も時々飲みに来るという。
マジか? 本当にあのツネマツマサトシか?
「じゃあ今度その人が店に来たときは僕の携帯に連絡を入れてくれ」とお願いした数日後、僕はその立ち飲み屋でツネマツマサトシとホッピーを飲みながら東京ロッカーズの話をしていた。あれは今でも忘れることができない出来事だ。偶然とはいえこんなことが起きるとは――
いや、偶然ではなくあの怪しい信号を発するギターによって予め決められたことだったのかもしれないな。
2018.01.11
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