2022年 7月27日

増田惠子「そして、ここから...」歌手としての多彩な魅力が味わえるソロ40周年アルバム

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増田惠子のアルバム「そして、ここから…[40th Anniversary Platinum Album]がリリースされた日
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増田惠子インタビュー ① 40周年アルバムのテーマは “アンチ・アンチエイジング”

増田惠子インタビュー ② 極寒の雪山で水着姿になった激動のピンク・レディー時代

増田惠子インタビュー ③ たゆまぬ挑戦を続けるケイちゃんの「今」と「未来図」

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増田けい子「すずめ」でソロデビュー。作詞・作曲は中島みゆき


「えっ、これがケイちゃん!?」

増田惠子(当時は“増田けい子”)のソロデビュー曲「すずめ」を初めて聴いたとき、そう驚いたのは筆者だけではないだろう。一世を風靡したピンク・レディーの解散から8ヶ月後、1981年11月に発売された「すずめ」は別れの予感に揺れる女心を雀の姿になぞらえた詩情溢れるナンバー。ディスコ&ソウル系のサウンドに乗せて、キャラクター色の強い楽曲を踊りながら歌っていたピンク・レディー時代とは真逆の世界観だった。作詞・作曲は中島みゆき。

いつかみゆきさんの曲を歌いたい

―― 本人のそんな希望から作品提供が実現したという。

念願叶って、ヒロインの切ない心情を呟くような歌唱で聴かせた増田は新境地を開拓。有線放送から火が付いた「すずめ」は翌年2月に各種チャートでトップ10入りを果たす。「動」から「静」、「ファンタジー」から「等身大」への鮮やかな転換だった。

それから40年。愁いを帯びたハスキーボイスと豊かな表現力でシンガーとしてのキャリアを重ねてきた増田惠子が7月27日に新曲5曲を含む40周年記念アルバム『そして、ここから…[40th Anniversary Platinum Album]』をリリースした。ソロ活動の集大成とも言える同作はCD2枚に37曲を収録。タイトルには、これまでの歩みを振り返るとともに、これからの歌手人生への想いが込められている。ここからはその内容に即して歌手・増田惠子の魅力を検証したい。

Disc1では「これまで」を収録。堪能したいケイちゃんの歌声




まずDisc1はピンク・レディー時代のソロ歌唱曲と、ソロ名義で発表した全シングル表題曲を網羅しており、「これまで」の歩みを辿れる構成となっている。通して聴けば、声質や発声、歌唱法の変化を感じ取ることができるだろう。そう、かつての“ケイちゃん”は低くて太いスモーキーな声が持ち味だった。伸びのある澄んだ高音のミイちゃん(現・未唯mie)とは対照的で、当時の子供たちは甲高い声で「髪生き生き~」と言ったあと、ドスを利かせて「ツヤツヤ~」と真似たもの。元ネタは2人が出演していた牛乳石鹸のCMだが、アイドルと言えばハイトーンボイスがお約束だった時代、やや掠れたケイちゃんの低音には際立った個性があった。

Disc1の冒頭を飾る「インスピレーション」(1977年 / 作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一)はそんな増田のために書き下ろされた初めてのソロ曲。ファーストアルバム『ペッパー警部』に収録されたラグタイム調のナンバーで、都倉から指導されたという、やや投げやりな歌い方に独特の色気が漂う。続く「カリフォルニア・ブルー」(1981年 / 作詞:伊藤アキラ、作曲:梅垣達志)は解散直前に発売されたLP3枚組の『PINK LADY』(通称“銀箱”)に収められたウエストコースト系のギターポップ。ファンからの人気が高く、昨年開催された配信ライブでも披露された。

3曲目からはソロ活動に移行後リリースされたシングルA面9曲をコンプリート。第1弾「すずめ」のヒットで同世代の女性ファンを獲得したことを受けたのだろう。「ためらい」(1982年 / 作詞・作曲:松任谷由実)、「らせん階段」(1982年 / 作詞・作曲:竹内まりや)と、今も一線で活躍する女性シンガーソングライターのラブソングが続き、その後も「女優」(1984年 / 作詞:桑田佳祐、作曲:桑田佳祐・神山暁雄)、「FU・RI・NE」(1985年 / 作詞:裕美、作曲:都志見隆)と多彩な作家陣の楽曲が並ぶ。ちなみに“裕美”は当時、同じ事務所に所属していた浅野ゆう子のペンネーム。1作ごとに作家を替え、様々なタイプの曲と出合ったこの時期、増田はソロシンガーとしての幅を広げていく。

続く「哀色の印象 -Avec Le Feu」(1989年)と「運命が変わる朝」(1990年)は“Kei”名義でフランスデビューした際に発表したアルバム収録曲の日本語版。いずれも打ち込みを採り入れたフレンチポップスで、ファルセットを駆使したエモーショナルなボーカルが聴きどころだ。

女優としても活躍。そして再認識した歌への情熱


90年代、芝居に没頭した増田は女優として多くのドラマや映画に出演するが、そのことで歌への情熱を再認識したという。「自分はやはり歌が好き」。そう確信すると再び音楽活動に傾注し、2005年には久しぶりのシングル「奇蹟の花」(作詞:沢田知可子、作曲:Rie)を、2018年には「最後の恋」(作詞:阿久悠、作曲:加藤登紀子)をリリース。聴く者を包み込むような柔らかい歌声からは、歌えることの歓びや積み重ねてきたキャリアの確かさが伝わってくる。

ここまで、「最後の恋」以外は過去のベスト盤や周年企画でも収録されてきた曲だが、Disc1にはピンク・レディー時代にコンサートのソロコーナーで披露したライブ音源が8曲収録されている。今回のアルバムを発売する古巣のビクターならではのセレクション。うち7曲は洋楽のカバーだが、これを聴けば一流ミュージシャンで構成されたビッグバンドの演奏と互角に渡り合い、時にロックシンガー顔負けのシャウトを聴かせる彼女の底知れぬパワーとポテンシャルを体感できるはずだ。特に「ホテル・カリフォルニア(Live at 田園コロシアム)」(1977年)、「朝日のあたる家(Live at ラスベガス・トロピカーナホテル)」(1978年)、「チェインド・トゥ・ユア・ラブ(Live at 後楽園球場)」(1978年)の3曲は必聴。この機会に是非、唯一無二のソウルフルなボーカルを味わっていただきたい。

Disc2に凝縮された、増田惠子の「今」と「ここから」


一方、Disc2にはアルバム最大の目玉と言える新曲5曲に加え、昨年(2021年)11月に開催された「40thアニバーサリー配信LIVE」のライブ音源を収録。「これまで」の歩みを辿ったDisc1と対をなす、「今」と「ここから」の増田惠子が凝縮された内容となっている。

新録音源をプロデュースした西澤雅巳は、かつて阿久悠のマネージャーを務めたこともある音楽プロデューサー。増田によると阿久の「リスペクトコンサート」(2017年)を機に親交を結び、コロナ禍前の2019年から制作がスタートしたという。当初は「1曲だけ」の心づもりだったそうだが、素晴らしい詞と曲に巡り会えたことで5曲に拡大。それは「ケイちゃんのためなら・・・」と協力を惜しまない人間が、西澤を含め多数いるからこそ実現したと言えるだろう。



その5曲を収録順に紹介すると、まず「Del Sole(デル・ソーレ)」(作詞:森由里子、作曲:津田ケイ)はエレクトロ・スウィング調のダンサブルな1曲。女性への応援歌とも言える小気味いい歌詞は本人もお気に入りで、常に前向きに人生を歩んできた増田にぴったりの楽曲といえよう。4月より先行配信されており、今作のリードシングル的な位置づけとなっている。



2曲目の「Et j'aime la vie(エ・ジェム・ラ・ヴィ)~今が好き」(作詞:鮎川めぐみ、作曲:上田知華)はフランスの映画音楽を思わせるエレガントなアレンジ。「傷ついた日も涙した日もあったけれど、痛みが解る今が好き」という詞には齢を重ねた今を愛おしむ気持ちが込められている。作曲を手がけた上田知華は増田と同い年だが、昨年9月に逝去。本作は生前に提供された最後の作品となった。

続く「向日葵はうつむかない」と「観覧車」はともに恩師・阿久悠の未発表詞に曲を付けた作品。前者はやはり恩師の都倉俊一が、後者は2014年の「愛唱歌」で初タッグを組んだ宇崎竜童が作曲を手がけており、陰影に富む詞の世界観が情感溢れるメロディで表現されている。



そして5曲目の「こもれびの椅子」は日本を拠点に活躍するイタリア人ピアニスト、アルベルト・ピッツォの美しい旋律に松井五郎が詞を乗せた流麗なバラード。増田と松井は今回が初共演だが、同学年ということもあって意気投合し、その会話から「60代の今だからこそ歌える詞」(増田)が届けられたという。

初の“無観客配信ライブ”にも挑戦。9月には40周年記念公演を予定!


約2年半に及ぶコロナ禍のなか、上記5曲の制作にじっくり取り組んできた増田だが、その間に自身初の“無観客配信ライブ”にも挑戦した。昨年11月28日、ソロデビュー記念日に配信された「40thアニバーサリー配信LIVE」である。Disc2にはそのとき歌唱した17曲のうち13曲の音源を収録。代表曲はもちろん、ファンにはお馴染みの「白い小鳩」(オリジナルは朱里エイコ / 作詞:山上路夫、作曲:都倉俊一)、「Key」(作詞・作曲:山崎アキラ)、「もいちど遊びましょ」(作詞・作曲:近田春夫)など、ライブの定番曲に加え、「UFO」「渚のシンドバッド」「カメレオン・アーミー」「OH!」(いずれも作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一)といったピンク・レディーの楽曲が収められているのが嬉しい。

なお、同時発売の限定盤にはその配信LIVEの模様を完全収録したDVDと、本人への最新インタビューやソロ作品のディスコグラフィーを掲載した別冊ブックレットが付属する。映像や文章を通じて、歌に対する真摯な姿勢や今の想いが伝わる内容となっているので、こちらも要チェックだ。

その増田惠子の40周年記念公演が9月2日にビルボードライブ横浜で開催される。奇しくも65歳の誕生日で、しかも有観客のライブは2年9ヶ月ぶりだというから、思い切り弾けることは間違いない。この『そして、ここから…』を聴けば、きっと「生のケイちゃん」に会いたくなることだろう。

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