サザンビーチの貸別荘で “あの頃” の青春を追体験
茅ヶ崎の海はキラキラと輝いていた。母や父の世代の曲を聴きながら、頭の中にずっと浮かんでいた景色が手に入った。私は23で、仲間たちは社会人1年目や大学生。“あの頃” の青春を、まるごと体験しているような気がした。
サザンビーチ前の豪華な貸別荘を借りた5人娘は、冬の茅ヶ崎で1泊2日のパーティをする。
3階建てで、ジャグジー付きのお風呂に、いくつもあるベッドルーム、広々としたキッチンに「豊かさ」を感じる。目指されるべき「豊かさ」があった時代の夢を見ている、私はこの贅沢がたまらなく好きだ。
トランクにサザンのレコードをいっぱいに詰めこんで、海辺のおうちでパーティーをして。“あの頃” の青春を存分に体験してやるのだ。
苗場、マハラジャ、キャンティ、東京プリンス、そして茅ヶ崎--。
部屋からは “茅ヶ崎サザンC” が見える。写ルンですを覗く私はその景色をしっかりとフィルムに焼き付けた。願ったことをこんな風にかなえていいのかと。欲しかった “思い出” を手に入れた私は涙がこみ上げてくる。
だって、“時代が変わってしまった” から… “世代ではない” から… サザンに、ユーミンに憧れた私に、昭和のリゾートの思い出なんて体験できると思っていなかったから…。そして、それに付き合ってくれる仲間がいることも、今茅ヶ崎の別荘にいることも、夢のようなのだ。
作品を作るように、文章を書くように、音楽を作るように… 思い出も作っていいと気がついてから、私たちは時代をトリップして最高の体験を自分たちでクリエイトしてきた。苗場でのスキーに、マハラジャのお立ち台、飯倉のキャンティ、東京プリンスのカラオケルーム、そして茅ヶ崎--。
今回も夢のような時間だった。ピザとパエリアをとって、コンビニの生ハムやチーズだけど、なるべく素敵なお皿に並べて華やかにテーブルを彩る。シャンパンを開け、パーティーは始まった。
ピンク・レディーのダンスをしたり、好きなバンドマンの話をしたり。宴は2時まで続いた。
景色と重なる「恋はお熱く」ムーディでセクシーな桑田佳祐
宴が明けた朝、私は1人早起きして洗い物をする。とびきりの朝ごはんをみんなに用意するためだ。
誰もいない広々としたリビングで、サザンオールスターズ『熱い胸さわぎ』のレコードに針を落とす。キッチンからは朝のサザンビーチが見える。流れてくるのはA面4番目の曲。「恋はお熱く」。イントロの波の音が、景色と重なる。桑田佳祐の歌声が部屋にこぼれる。たまらなくムーディでセクシー。それでいてさわやか。大好きな曲だ。懐かしくて切ないメロディ。
キラキラしたシステムキッチンで洗い物をする私は、80年代に青春をしたプチセレブ妻の気持ちになってみる。もう直ぐ子供と旦那が起きてくるのだ。今では色褪せた、そんなひと昔前の “幸せ” をあえてプレイして “ない記憶” ごっこをするのも楽しい。
夢の世界にどっぷりと浸るのは至高の贅沢だ。映画の中に入ったように陶酔する。私は母の思い出の中に、誰かの豊かだった記憶の中に入り込みたい。
どっぷり80年代、そして私たちは東京へ帰る「茅ヶ崎に背を向けて」
サザンオールスターズのファーストアルバム『熱い胸さわぎ』は1978年8月25日発売。当時の桑田佳祐は22歳だ。私たちとほぼ変わらない(というか年下…)。
そんなことに全く気が付いてない私は、朝からみんなにワインを飲ませようと、グラスいっぱいに白ワインを注ぐ。サンドイッチを盛り付け、コーヒーを淹れる。それから朝ごはんを食べながらみんなで海を眺め、サザンを聴いたり、大滝詠一を聴いたり、聖子ちゃんを聴いた。頭の中はどっぷり80年代。
この贅沢を知ってしまうと、私はもう戻れない。あの邸宅を手に入れる人生を歩みたい。夢から醒めずににいたいだけ。豊かな時代が好きで、昭和が好き。お熱いのが好きでしょ。
そして私たちは東京へ帰る。「茅ヶ崎に背を向けて」…。
次は夏にとびっきりのパーティをしよう。
2020.04.06