男闘呼組まさかの再始動。四半世紀を超えて実現した真夏の奇跡
本当の未来に起こることが誰にもわからないのは、音楽シーンとて同じだ。1993年に惜しまれながら活動休止、実質上解散してしまった男闘呼組が、2022年に奇跡の復活を遂げるなんて、誰が予言できただろうか。
当時、活動休止の原因として、高橋一也(現在は和也)のジャニーズ事務所からの解雇等がまことしやかに囁かれたけれど、事務所主導で結成されたバンドが、キャリアを重ねる中で次第に音楽的にも活動面でも、ロックバンドとしての自我に目覚めていき、バンドと事務所が目指す方向性の折り合いがつかなくなっていった点も無関係ではないだろう。
活動休止後は、成田昭次、前田耕陽も事務所を離れそれぞれの道へと歩んでいたし、何より2009年に成田による不祥事が報じられたことで、復活への糸口は完全に閉ざされてしまったように思えた。
僕はちょうど3年前、リマインダーで
『男闘呼組 ― 今こそ再評価したい80年代最強のアイドルハードロックバンド』を書いた。その時点では、残念ながら復活は不可能だからこそ、せめて男闘呼組が残した音源に改めて触れることで再評価に繋げたい… という思いを込めたつもりだ。
ところが、その前後に少しずつ事態は動いていた。2019年5月に男闘呼組の映画『ロックよ静かに流れよ』公開30周年記念トークショーで、岡本健一が成田のソロ曲を弾き語りし、長らく消息がなかった成田からのメッセージを公開した。さらに同年9月、ジャニー喜多川氏のお別れ会に成田が参列。2020年11月には成田が別アーティストのライヴにゲスト参加し、男闘呼組の楽曲を披露するなど、再始動に向けたムードが次第に醸成されていった。この頃、活動休止後では初めて4人揃っての再会を果たしたと言う。
2021年11月には最後までジャニーズ事務所に所属した岡本がエージェント契約へと移行。こうした変化も含めて環境が整い、2022年7月16日、衝撃の再始動発表へと結実していったのだ。ビジネス面はもとより、何と言っても男闘呼組のロックを再び世に伝えたいという4人の強い意志があってこそ、実現に至ったのは言うまでもない。
約29年の時を経てTVで披露された「TIME ZONE」
男闘呼組、復活―― 華々しくSNS上に踊る突然のニュースで再始動を知った僕は、思わずスマホの画面を二度見するほどに心底驚いていた。一体どんな姿、パフォーマンスを見せてくれるのか、復活の舞台に選ばれたのはTBSの音楽特別番組『音楽の日』。出演時間を確認してまで、固唾を呑んでTVの歌番組を観るのは久々だったかもしれない。
サプライズゲストとして招かれた男闘呼組が、約29年の時を経てTVの画面越しに登場した。眩いライティングが4人のシルエットを照らし出す中、彼らが最初に披露したのは、1989年にリリースしたサードシングル「TIME ZONE」だ。
センターにはひときわ高い位置で年季の入ったベースを抱えた高橋、上手にはストライプのジャケットを羽織りグレッチのギターを奏でる成田、下手には派手なアクションを繰り出し低い位置でリズムギターをかき鳴らす岡本、そして背後には落ち着いた様子で鍵盤と対峙するリーダー前田の姿がすぐさま眼に映った。
あの頃抱いた男闘呼組のイメージと何も変わっていない。それは驚きでもあり嬉しい誤算だった。もちろん、4人ともすでに50代であり、10代や20代のアイドル時代とは違う。年齢なりの外見の変化があるのは当然だ。それでも自分と同年代とは思えないイケてる姿は素直に格好良いと思えたし、何より4人それぞれが様々な苦楽を経験したからこそ、良い年齢の重ね方をしているように見えた。
弾けるエナジーを円熟の魅力へと転化! 貫禄のパフォーマンス
ワンコーラスだけの「TIME ZONE」で温まった男闘呼組は、時代を遡るようにデビューシングル「DAYBREAK」へと繋げていく。エッジの効いたギターリフからドライヴするリズムが走り出した瞬間、まるで画面上の空間に80年代のキラキラとした音楽シーンが甦ったような錯覚に陥った。岡本の動きはより激しさを増し、それに促されるように高橋、成田、前田も若き日の自分を呼び覚ますように躍動していく。
乾いた風を殴り 迎えにきたぜ!
29年もの歳月を巻き戻すように叫ぶ彼らの歌声は、長いブランクを全く感じさせないものだ。それぞれのリードパートを歌い、ハーモニーを響かせながら、時代を切り拓いた名曲を見事に再現して見せた。80sへのタイムトリップへと誘った「DAYBREAK」には、思わず涙した長年追いかけたファン、かつてのファンも少なくなかっただろう。
「パズル」に込められた男闘呼組に対する思い
この日の最後に披露された曲は、前田のエレピの響きに導かれ始まった「パズル」。男闘呼組のレパートリーではなく、2022年に成田昭次のソロとして発表された、寺岡呼人の作詞・作曲によるナンバーだ。前2曲で魅せた男闘呼組の往年の世界観とは一変し、スローでエモーショナルな色合いを放つUKロック風の曲調に乗せて歌われた歌詞は、まるで男闘呼組の過去を振り返るような内容になっている。
若さに任せて怖いもの知らずだった頃、夢に向かい苦楽を共にした夜、支えてくれた人たちへの感謝、そして、時は過ぎたけれど、再び夢を探しにいく意志―― 歌詞として紡がれた言葉の端々から、走馬灯のように過去を振り返りつつも、今抱いた決意が切々と伝わってくるようだ。
サビの一節では4人それぞれを、色褪せて埃をかぶった、不恰好で頼りない「パズル」に見立て、「ピースをはめたら不思議なくらい馴染んで 俺たちだけのパズルになった」と歌ってみせた。それは男闘呼組に対する4人の思いを現しているようで、自然と心に染み入ってくる。
ほんの短い時間だったけれど、男闘呼組の現在と過去を絶妙に交錯させたパフォーマンス。長い年月を経たアーティスト達の復活で、がっかりさせられるケースも少なくない中、彼らはかつてのイメージを崩すことなく、素敵に歳を重ねてきた男達の姿を満天下に示してくれた。放送当日、Twitterのトレンド上位を独占するほどに書き込まれた好意的なコメントの数々が、何よりそれを証明していたといえよう。
再始動で実感!男闘呼組が放つ普遍なる魅力と凄み
今回の復活劇を目撃して、改めて実感させられたのが、男闘呼組の楽曲が放つ普遍的な魅力だ。「DAYBREAK」に代表される、力強くメロディを重視したハードロックは、80年代に洋邦のロックシーンを席巻したサウンドスタイルが基盤となっており、時代を超えて今もなお、多くの人々に愛される要素に満ち溢れている。
それぞれの楽曲には強いフックを放つメロディが仕掛けられ、聴く者の耳を奪って放さない。印象的な主旋律は、それぞれ個性的な声質と異なるキーを持った、成田、高橋、岡本3人のリードシンガーによって立体的に表現され、随所で4声の分厚いハーモニーも駆使しながら楽曲を彩っていく。
そこに高いアイドル性とワイルドな中にも凛とした男らしさを同居させた、4人4様の個性的なキャラクターが加われば、アイドルとハードロックの理想的な融合がもたらすスペシャルなロックバンド “男闘呼組” が形づくられる。その魅力の根幹は約29年という長い歳月を経ても、決して色褪せることなく輝いていた。
今回のTV出演に続き、10月には2020年に開館したばかりの大規模ホール、東京ガーデンシアターでの昼夜2回、2日間に渡るライヴが行われる。男闘呼組とファンが作り出す新たな歴史が、ここで刻まれるのは間違いないだろう。
年末にはNHK紅白歌合戦への出場が噂されるなど、新たなニュースも届き始めた。時代も世代も性別も超えて愛される普遍的なロックバンドとして、男闘呼組に期待される役割は大きい。2023年8月までに設定された期間限定ではあるけれど、まずはその活躍ぶりを見守りたいと思う。そして、その先の未来に向けた展望が果たして広がっていくのか? 男闘呼組伝説の第二章から目が離せない。
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2022.08.24