僕はちょっとしたシン・リジィ、いやフィル・ライノットオタクだと自認している。ギネスビールを片手に彼の魅力を語りあえるのは、東京の英会話学校で講師をしているベルファスト出身の友人だけである。
街中は年末の喧騒ということもあり慌ただしかったが、僕はアイリッシュの彼と二人で逃げるようにギネスを片手にフィル談義に酔っていた。そんな中ふと話題に上ったのがフィルの組んだ「ザ・グリーディーズ」というグループだった。
実は彼らは一枚だけクリスマス・年末商戦用シングルを出しているのだ。
さてこのザ・グリーディーズ、メンバーからして異様である。まずシン・リジィからはフィルと彼の片腕敏腕ギタリスト、スコット・ゴーハム、そしてドラムスのブライアン・ダウニー。そしてなんとメンバーにはセックス・ピストルズからギターでスティーブ・ジョーンズ、ドラムスでポール・クックが加わっているのだ。
なんとも人を喰ったようなお話しである。なぜドラムスが二人いるのかなどという問題はもはやどうでも良い。録音されたシングルが問題なのだ。題して『ア・メリー・ジングル』。
さぞかしパンキッシュで物騒なものだろうと想像していたが、その実フィルが「ウィ〜ウィシュ〜ア〜ハッピーニューイヤー」や「ジングルベ〜ル」といつもの語るような調子で歌っているだけなのだ。
ピストルズ勢も「おとなしく」伴奏に徹しているし、なんだかジョークのような気もした。パンクロックの要素を感じるのは「ヘイ!」というオイパンクのような掛け声と盛大なイントロくらいだ。 しかし不思議とセックス・ピストルズ風のリフとフィルの声があっているのだ。それはパンクロックというムーブメントの精神が持つ、ある側面を感じさせずにはいられない。
シン・リジィが圧倒的に人気を勝ち得た傑作ライブアルバム『ライブ・アンド・デンジャラス』は78年のリリースだ。時期的にはセックス・ピストルズが空中分解した後、クラッシュがハードなロックンロールを響かせた傑作2ndを世に出した年である。
世の中のキッズは多分パンクロック的なるものを求めていたに違いない。そんな中、シン・リジィのライブ盤が評価されたということは大きな意味を持つのではないか。つまりパンクロックに内在していた「ロックンロールへの回帰」というベクトルをシン・リジィの奏でたロックンロールにもパンクスたちは感じていたのではないか、と僕は想像する。
よってこの「ザ・グリーディーズ」はある意味で、実にパンクロックというロックンロール回帰運動の中から必然的に生まれたものだと考えてもいいのだと僕は思う。
そしてイギリスで79年が終わろうとし80年代が始まろうとするその瞬間、この曲がTVからは流れていたのだ。その番組の名前は『ケニー・エヴェレット・ヴィデオ・ショー』。ケニー・エヴェレットとはクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を2日間で14回もフルで流し同曲のヒットに貢献したことでも有名な名DJ、兼コメディアンである。そんな彼の看板番組、しかも大晦日特番のトリを彼らが務めたというのは、そんな回帰の時代の象徴にも思える。
そしてそこにはパンクス的なユーモアがある。映像の楽しげな様子や「貪欲者たち」という名前から、この期に乗じてパンクスたちを集めてひと旗あげようぜ! なんていうフィルの「チンピラ」感が見て取れるようだ。
これが東京に生息する二人の若きフィル・オタクの共通見解である。そして最後は「フィルのニヤッとした微笑みがかっこいいんだよなー」などといいながら、記憶がなくなるまでギネスとキルケニーで飲み明かすのだった。「フィルならそうするだろうね」などといいながら。
2018.01.12
YouTube / Punkrock Pieces
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