リレー連載【ミリオンヒッツ1996】vol.9
あなたに逢いたくて〜Missing You〜 / 松田聖子
▶ 発売:1996年4月22日
▶ 売上枚数:110.1万枚
1996年、J-POPの激戦を勝ち抜いた松田聖子
音楽シーンに新しい風、しかも “突風” が吹いていた1996年。安室奈美恵、華原朋美をはじめとした小室哲哉プロデュース勢をはじめ、ミスチルやドリカム、GLAY、スピッツ、PUFFY、ウルフルズやシャ乱Qなどなど、J-POPの新鋭たちがガンガン登場、名曲を生み出した時代だ。この超激戦時に、松田聖子が「あなたに逢いたくて〜Missing You~」をリリースし、堂々とランキングに割って入ったのは、控えめに言って偉業。改めて振り返る意義があるだろう。リリース当時、彼女は34歳。1980年代トップアイドルとして一世を風靡したとはいえ、世代交代の壁にぶち当たってもおかしくなかった。
しかし、彼女は逆。コギャルには逆立ちしても出せない色気と風格で「あなたに逢いたくて〜Missing You~」を歌い、見事オリコン1位を獲得。しかもミリオンセラー(110.1万枚)となり、自身の最多売上記録である「ガラスの林檎 / SWEET MEMORIES」(1983年)の85.7万枚を更新した。つまり彼女はこの曲で、J-POPの激戦を勝ち抜いただけではなく、過去の自分にも勝利したと言っていい。いやはや、いつだって聖子ちゃんはパワフルだ!
新たな目標を定めたターニングポイントの曲
さらにいえばこの曲は、自身が作詞・作曲も手掛けたものである(作曲は小倉良の共作、編曲は鳥山雄司)。そう、松田聖子は、1992年からシンガーソングライターとしての活動を展開していた。これもすごいチャレンジ精神である。というのも、デビュー以来、彼女の楽曲を彩ってきたのは、松本隆、財津和夫、呉田軽穂(松任谷由実)、細野晴臣、尾崎亜美、原田真二など、ビッグネームばかり。もし私が彼女なら、こんなすごい方々に10年以上書いてもらったあと、自身で作詞作曲して発表する気になど絶対ならない。恐れおののいてしまう。
けれど、彼女はむしろ、自分からワクワクと一歩踏み出し、新しいクリエイティブの扉を叩いたのだ。「あなたに逢いたくて〜Missing You~」に至るまでも、「きっとまた逢える」(1992年)や「大切なあなた」(1993年)、「輝いた季節へ旅立とう」(1994年)など、良質のポップスを生み出しヒットを出している。だから「あなたに逢いたくて〜Missing You~」の大ヒットは決して、いきなりではない。
そして、この曲が特別な意味を持つのは、むしろ売上より、米国への再進出にあたり、デビュー以来在籍をしたソニーからマーキュリーへとレコード会社を移籍した第1弾の曲という点にあるだろう。松田聖子にとって、新たな目標を定めスタートしたターニングポイントの曲なのだ。
カラオケランキングで安室奈美恵を抜く
「あなたに逢いたくて〜Missing You~」は、聴くだけで大切な人への想いをググッと溢れさせる威力があるが、カラオケで歌ったときの陶酔度もまた半端ない。新時代らしい、上がったり下がったり忙しいメロディーにたっぷり言葉数が乗った、複雑で雄弁な楽曲が急激に増えた1990年代、サビのメロディーをイントロや間奏でもじっくりと聴かせ、音符に一文字ずつ丁寧に言葉を置くこの曲で、気持ちが高揚した人も多いはずだ。
あの頃、カラオケに行けば、globeや華原朋美の超絶高音ソングを、額に青筋立てて挑戦しつつ、最後の方には誰かしらがこの「あなたに逢いたくて〜Missing You~」を入れ、みんなで体を揺らし、ねっとりと歌ったものである。そして異口同音、こう呟いて締めるのだ。“やっぱり聖子ちゃんはええな~!” 。
ちなみに、1996年のカラオケランキングは、1位が「I'm proud」(華原朋美)、
2位「アジアの純真」(PUFFY)、3位「DEPARTURES」(globe)、4位「チェリー」(スピッツ)、そして5位がこの「あなたに逢いたくて〜Missing You~」。安室奈美恵の「Don't wanna cry」より1つ上である(註:JOYSOUND調べ)。
曲は1日、歌詞は15分で完成!
松田聖子が歌い描く世界は、ドリーム、ラブ、プレシャスに溢れている。アップテンポの曲だろうが、切ない「あなたに逢いたくて〜Missing You~」のようなバラードだろうが、その歌声からピンクのハートがフワフワと飛んでいるように見えるほど、愛に溢れている。哀しさ、切なさはもちろんあるけれど、絶望や諦めに変わる前に、いっそ思い切り美しい思い出にする――。それが松田聖子なのだ。
しかも、この曲は1日、歌詞は15分ぐらいで書きあがったというからびっくりだ。聖子ちゃん、あまりにもスピーディー! この美しい歌詞が15分て! あるトーク番組で、“「♪あなたに逢いたくて 逢いたくて」が魔法のようにはまったんですよね” と語っていた。降りてきたという表現ではなく、魔法のようというのが聖子ちゃんらしい。でも私は思うのだ。魔法のようではなく、本当に魔法だったのではないか。この人しか歌えない歌がある。この人の声でしか届かない面影がある。そんな風に、音楽の神様がピンポイントで彼女に魔法をかけ、できたのがこの「あなたに逢いたくて〜Missing You~」だったのだろう。
“アムラー” “チョベリグ・チョベリバ” “援助交際” が流行語となり、JKが大人たちを振り払うように闊歩した1996年、34歳の松田聖子が真っ向から見せつけた包容力と愛。ねっとりと、こぼれそうでこぼれない、表面張力のような彼女の歌声は、どんな時代にも必要な潤いと愛情を持っている。そして、松田聖子という人は、デビューからずっと、少しでも早く自身の歌を待つ人たちに逢いたくて――、つまり、“あなたに逢いたくて”、自分らしい表現でわかりやすく歌ってきた人だったと改めて思えるのだ。
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2026.05.31