2025年の『第76回NHK紅白歌合戦』出場者は2024年と変わらず、紅組・白組各21組で、“特別企画” が5組から8組に増えた。今回も11月半ばにおおよその出場者をド〜ンと発表し、その後に追加出場者を少しずつ明らかにすることで、お得感を演出するスタイルが採られている。
追加発表が恒常化したのは、安室奈美恵や桑田佳祐が特別枠で出演した2017年あたりから。その後もサザンオールスターズ、米津玄師、松任谷由実、竹内まりや、YOASOBI、藤井風、薬師丸ひろ子、B'zなど、なかなかテレビで観られない大物を担ぎ出してきている。今年も12月に入り、AKB48、RADWIMPS、SixTONES、back numberが追加され、月の後半には星野源、玉置浩二、米津玄師、松任谷由実も加わった。噂にのぼった中森明菜、宇多田ヒカル、嵐の名前はなかったが、最後に13年ぶりとなる矢沢永吉、さらに福山雅治と稲葉浩志のコラボ、超スペシャル枠で松田聖子をプラスすることで、かなり豪華なラインナップになっている。
初出場は “数字を持っている” アイドルやアーティスト
初出場は10組、以下のメンバーだ。グループが多いのが今年の特徴だろう。
▶︎ アイナ・ジ・エンド
▶︎ 幾田りら
▶︎ aespa
▶︎ CANDY TUNE
▶︎ ちゃんみな
▶︎ HANA
▶︎ ハンバート ハンバート
▶︎ FRUITS ZIPPER
▶︎ &TEAM
▶︎ M!LK
アイナ・ジ・エンド、幾田りらはグループ、ユニットのメンバーとして出場歴がある。このなかで、現在放送中の連続テレビ小説『ばけばけ』主題歌「笑ったり転んだり」を歌ったハンバート ハンバートは別文脈だが、基本的にはストリーミング再生数やSNSの反応などで “数字を持っている” 個人またはグループが選ばれている。
NHKは2020年代になって、そうした面々をズラリと揃えることに注力している。ただ、昨今のヒット曲は一般層に幅広く浸透しているわけでもない。司会者が、“いやあ、今年はこの曲もめちゃめちゃ流行りましたよねえ〜” とか、“SNSのショート動画でもバズりましたね〜” と紹介しても、“え? 私、一度も聴いたことないんだけど” というSNSの反応があったりする。それがここ数年の紅白あるあるだ。逆の見方をすれば、今や紅白は “最近の曲がよくわからない” 層がそれを知る絶好の機会となっている。

長年愛されてきたヒット曲を歌う周年アーティスト
興味深いのは初出場より復帰組が多いことだ。これは次のように分類することができる。
① 旧所属事務所を巡る問題の影響で疎遠になっていたアーティスト▶︎ King & Prince(3年ぶり6回目)
▶︎ SixTONES(3年ぶり4回目)
過去2年間は旧ジャニーズ事務所の後継事務所(STARTO ENTERTAINMENT)からの出場はなかったが、今年は状況が変わった。ただし、かつては旧事務所から最大で7枠出ていたことを思うと控えめだといえる。
② NHK関連番組の曲を担当しているアーティスト▶︎ back number(NHK『ウインタースポーツ』テーマ曲「どうしてもどうしても」)
▶︎ RADWIMPS(NHK連続テレビ小説『あんぱん』主題歌「賜物」)
▶︎ サカナクション(NHK総合放送のアニメ『チ。―地球の運動について―』主題歌「怪獣」)
ハンバート ハンバートも含め、NHKでは関連ソングと紅白出場がセットになる事も多い。昨年は連続テレビ小説『虎に翼』の主題歌、「さよーならまたいつか!」の米津玄師、同じく『おむすび』主題歌、「イルミネーション」のB’zが出場している。
③ バズったY2Kアーティスト▶︎ ORANGE RANGE(「イケナイ太陽」がTikTokで人気)
Y2K(西暦2000年前後)カルチャーの再流行もあって、TikTokでORANGE RANGEがバズった。そこにNHKが食いつき、19年ぶり3回目の出場となっている。
④ 主題歌を担当した映画がメガヒットしたアーティスト ▶︎ LiSA(『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』の主題歌「残酷な夜に輝け」)
LiSAは日本映画として初の全世界で1,000億円を超える興行収入を達成したアニメ『鬼滅の刃』のW主題歌のひとつを歌っている。
⑤ 周年系アーティスト▶ 堺正章(芸歴70年)
▶︎ 布施明(デビュー60周年)
▶︎ 岩崎宏美(デビュー50周年)
▶︎ TUBE(デビュー40周年)
▶︎ 久保田利伸(デビュー40周年イヤー)
▶︎ Perfume(メジャーデビュー20周年)
▶︎ AKB48(結成20周年イヤー)
①〜④以外の復帰組は、アニバーサリーイヤーを打ち出している出場者が大多数である。コールドスリープ(活動休止)に入るPerfumeは意味合いが少し違うかもしれないが、こうした顔ぶれはメドレーも含め長年愛されてきた往年のヒット曲を歌う場合がほとんど。AKB48も旧メンバーの特別参加を前提とした出場で、メドレーで平成のメガヒットを歌う。
⑥ 特別企画系超大物アーティスト▶︎ 松任谷由実(3年ぶり7回目)
▶︎ 矢沢永吉(13年ぶり3回目)
▶︎ 松田聖子(5年ぶり23回目)
特別企画の目玉として扱われる復帰組はこの3人だ。矢沢永吉は、ドラマの主題歌となった新曲「真実」を歌い、今も走っていることを示す。松任谷由実も新曲「天までとどけ」を歌い現在進行系の姿を見せつつ、荒井由実時代の曲を歌うオプションがあると告知されている。今も現役アイドルである松田聖子は、新曲ではなく45年前の大ヒット曲「青い珊瑚礁」を歌うが、歌唱順は大トリのMrs. GREEN APPLEのあとという、超特別待遇が用意されている。
原宿から世界へのコンセプトを掲げた FRUITS ZIPPERとCANDY TUNEが出場
2024年からの連続出場者は、“数字を持っている” 現役第一線アーティストと、実力派のベテラン常連に二分される。前者はたとえば、Mrs. GREEN APPLE、Vaundy、Number_i 、BE:FIRST、あいみょん、乃木坂46、星野源あたり。後者は郷ひろみ、石川さゆり、坂本冬美…。福山雅治とMISIAはその中間か?
その他、全体を眺めると、アイドルで目立つのは、原宿から世界へのコンセプトを掲げた “KAWAII LAB.” からFRUITS ZIPPERとCANDY TUNEが出場することだ。今年、ひとつの女性グループアイドル勢力から複数グループが出場する唯一の例である。アイドルの勢力図は変動しているのだ。韓国を拠点とするK-POP勢は半減し、2年連続のILLIT、初出場のaespaと2組に留まっている。
演歌・ムード歌謡枠に新規参入はなく、去年からはマイナス1枠。石川さゆり、坂本冬美 、天童よしみ、水森かおり、純烈、新浜レオン、三山ひろし、氷川きよしの8組。“紅白は知らない演歌ばかりでつまらない” と若者が嘆いていたのは遠い昔。 むしろ、今の紅白は若い音楽ファンが演歌歌手のスキルの高さを目の当たりにして驚く構造になっている。
“放送100年 紅白スペシャルメドレー” に加え、昭和の名曲がズラリ
今年は昭和100年といわれるが、同時に放送100年でもある。これにちなみ、オープニングで “放送100年 紅白スペシャルメドレー” として出場歌手たちが「夢であいましょう」「ひょっこりひょうたん島」「春一番」「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」「上を向いて歩こう」などを歌うコーナーがある。
さらに、昭和曲としては、石川さゆり「天城越え」、岩崎宏美「聖母たちのララバイ」、髙橋真梨子 「桃色吐息」、郷ひろみ 「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」、松田聖子「青い珊瑚礁」がランナップされる。加えて、純烈がザ・ドリフターズの「いい湯だな(ビバノン・ロック)」、氷川きよしが美空ひばりの「愛燦燦」をカバーする。また、久保田利伸とTUBE、堺正章は昭和曲を含むメドレーを披露する予定だ。布施明が歌う「MY WAY」も含めれば、昭和の楽曲は8曲+メドレーで数曲。これが多いか、少ないかは年代によって印象が異なるだろう。
以上、様々な角度から出演者の傾向を考察してみたが、つまるところ、2020年代の紅白は、積極的に数字を取りに行く傾向を強めながら、さまざまな視聴者層のニーズを満たそうとする番組に変化している。民放の年末音楽特番も超豪華ではあるが、そこに登場する現役の一線級アーティストに加え、ユーミンや永ちゃん、米津玄師というレアカードを集め、松田聖子、石川さゆり、堺正章と一緒に並べられる番組は『NHK紅白歌合戦』だけなのである。
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2025.12.31