4月21日
切なさを際立たせるハスキーボイス — 中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」
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中村あゆみのシングル「翼の折れたエンジェル」がリリースされた日
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中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」が持つ奇跡的フレーズの音楽性 ②

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photo:ayumi-nakamura.com  

思えば、80年代はCMからヒットソングが生まれた時代だった。

70年代はラジオ、90年代はテレビドラマからヒットソングが生まれたのに対し、80年代は広告の時代を反映するように、CMからヒットソングが量産された。

山下達郎は自身も出演したマクセルUDのCMソング「RIDE ON TIME」で一躍ブレイク、松田聖子は資生堂のエクボ洗顔フォームのCMソング「裸足の季節」でデビューした。そうそう、資生堂と言えばヒットソングの宝庫。ライバル・カネボウとのシーズン毎のCM対決は、そのまま80年代のヒットソングの歴史と重なる。

詳細は当リマインダーの大野茂先生のコラム「資生堂 vs カネボウ CMソング戦争」に詳しく書かれているので、未読の方はぜひ。

日清食品のカップヌードルのCMもまた、数々のヒットソングを世に送り出した。大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」、ハウンド・ドッグ「ff (フォルティシモ)」、尾崎豊「シェリー」、そして――

―― そう、今日4月21日は、今から33年前の1985年にカップヌードルのCMソングに起用され、大ヒットした中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」がリリースされた日である。

話は少しばかり、さかのぼる。

1984年9月5日、TBS系のドラマ『やさしい闘魚たち』の主題歌「Midnight Kids」で、一人の女性アイドルがデビューする。ロックバンド「中村あゆみとミッドナイト・キッズ」のリードボーカル、中村あゆみである。

彼女は、僕の地元・福岡では少し知られた存在だった。

福岡出身の彼女は4歳の時に両親が離婚。父と共に大阪へ転居するが、高1の終わりに家出して実母のいる福岡へ戻り、九州産業高校の2年に転入した。

「九産にいたコがデビューしたらしい」

後に、そんな話が僕のいる高校にも伝わってきた。福岡は狭い街なのだ。

「あのコ、目立つから色々とイジメられてたみたい」

噂の真偽のほどは分からない。ただ、彼女はわずか半年ほどで福岡を再び離れている。彼女なりの理由があったのかもしれない。

福岡を離れた中村あゆみは単身上京、明大付属中野高校の定時制へ転入する。言わずと知れた、芸能人ご用達の学校。堀越学園と日出高校と並び、御三家と呼ばれる。当時、“明中(めいなか)” には近藤真彦、中森明菜、シブがき隊、少年隊、石川秀美、三田寛子らが在籍していたが、なんと中村あゆみはそこへ一般の高校生として入学する。

彼女が上京した理由は遊ぶためだった。昼間はOLとして働き、夕方から高校へ通い、夜は新宿や六本木のディスコへ繰り出した。給料の大半は遊び代で消えた。そんなある日、六本木のカラオケ店でスカウトされ、そのハスキーボイスを買われ、デビューの話が持ち上がる。プロデューサーは高橋研。THE ALFEE の「メリーアン」や、おニャン子クラブの「じゃあね」、「真っ赤な自転車」を手掛けた御仁だ。

高3の秋、彼女はデビューする。そして前述の通り、僕は噂で彼女を知る。だが―― 大半のアイドルがそうであるように、彼女も芸能界の荒波に揉まれ、間もなく消えると思っていた。

だが、消えなかった。時に1985年4月―― 1本のCMが彼女の運命を変える。

“ハングリアン民族、カップヌードル”

印象的なコピーのCMは、パリ-ダカール・ラリーに挑む選手たちが映し出される。昼間、砂漠を舞台に過酷なレースに挑む彼らは、夜、カップヌードルを友にひと時の休息を得る。バックに流れる曲は、中村あゆみの3rdシングル「翼の折れたエンジェル」――。

彼女は一躍、時の人になった。

「和製マドンナ」―― 人は彼女をそう呼んだ。ちょうど、前年秋にアメリカでマドンナが「ライク・ア・ヴァージン」でブレイク。この年の1月に来日し、日本中で “マドンナ旋風” が吹き荒れた直後だった。事実、ロックバンドのボーカリストとしてデビューした彼女だったが、いつしかバンドは消え、ソロシンガーとなり、彼女の衣装はボーイッシュからセクシーなガーリー風に変わっていた。

もっとも、当時「和製マドンナ」と呼ばれたのは彼女に留まらない。SHOW-YAの寺田恵子、レベッカのNOKKO、本田美奈子―― etc.

閑話休題。その曲は一聴して映画的なシーンを連想させた。まるで往年の角川映画を見るように。それは聴かせる詞というより、“見せる” 詞だった。


 ドライバーズ・シートまで 横なぐりの雨
 ワイパー きかない 夜のハリケーン
 “I love you” が聞こえなくて
 口もと 耳を寄せた
 ふたりの想い かき消す 雨のハイウェイ


映画で言えば、いきなりクライマックスから入るパターンだ。

ハイウェイを飛ばす2シーターのオープンカーに、2人の男女。降りしきるスコール。今の2人に、その雨は恋を盛り上げるツールでしかない。

「愛してる!」「えー! なんだってー?」

映画は一転、2人の回想シーンへと移る。


 Thirteen ふたりは出会い
 Fourteen 幼い心かたむけて
 あいつにあずけた Fifteen


描かれるのは、ローティーンの2人の恋の序章である。まるで『小さな恋のメロディ』のトレイシー・ハイドとマーク・レスターのようだ。


 Sixteen 初めてのKiss
 Seventeen 初めての朝
 少しずつ ため息おぼえた Eighteen


その後、2人の恋はミドルティーンからハイティーンにかけて盛り上がる。しかし、一方で2人にひたひたとリアリティの影が忍び寄る―― 切ない。

曲はサビを迎える。


 “もし 俺がヒーローだったら
 悲しみを 近づけやしないのに…”
 そんな あいつの つぶやきにさえ
 うなづけない 心がさみしいだけ


本来なら、最も盛り上がるサビなのに―― そこに展開されるのは、限りなくリアリティな世界である。彼女の独特のハスキーボイスが、2人の切なさを一層際立たせる。


 Ohhh… 翼の折れたエンジェル
 あいつも 翼の折れたエンジェル
 みんな 翔べない エンジェル


ここで、僕らは冒頭のシーンを思い出す。

スコールの中を走るドライビングは、18歳を迎えた彼らの “逃避” だったと。互いの言葉をスコールがかき消す一瞬、2人は虚構のクライマックスを “演じて” いたに過ぎないと――。

そして、曲は2番へと進む。

僕は、この曲の真骨頂は、実は2番の冒頭にあると思う。


 チャイニーズ・ダイスをふって
 生きてくふたりの夢を
 誰もがいつだって 笑いとばした
 “I love you” あいつのセリフ
 かすんでしまうぐらい 疲れきった
 ふたりが悲しいね


断っておくが、「チャイニーズライス(炒飯)を食って」ではない。

だが、そんな替え歌でもさして違和感のない超リアルな昭和の世界観に、僕らは胸を締め付けられる。1番の青春真っただ中の角川映画が、ここへ来て映画斜陽期の日活映画のトーンになる。四畳半一間を舞台に、若き秋吉久美子が大胆に脱ぐ類いの映画だ。

この後、2人がどうなったかは誰も知らない。そんな風に余韻を残しながら終わるのも、日本映画の悪い癖だ。

高橋研先生、3番を作ってくれませんかね?



歌詞引用:
翼の折れたエンジェル / 中村あゆみ


※2018年4月21日に掲載された記事をアップデート


2018.06.28
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