4月16日

伊藤銀次が語る 佐野元春「ヴィジターズ・ツアー」での寸劇パフォーマンス!

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佐野元春のライヴ「VISITORSツアー スペシャル」が金沢実践倫理記念会館で開催された日(初日)
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『佐野元春「ヴィジターズ・ツアー」に伊藤銀次とバブルガム・ブラザーズが参加した理由』からのつづき

佐野元春「VISITORSツアー スペシャル」のゲストミュージシャンとして参加


1984年秋から始まり、ほぼ半年にわたって全国で展開された、佐野元春の『VISITORSツアー』は各地で好評を博し、そのアンコールツアーとも言える、『VISITORSツアー スペシャル』が全国10都市で開かれることが決定。嬉しいことに、バブルガム・ブラザーズと僕がそのツアーにゲストミュージシャンとして参加することになった。

バブルガム・ブラザーズ(以下バブル)は、元春が曲を書き、僕がアレンジを手掛けた「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」を、そして僕は、元春がコーラスで参加してくれた「夜を駆け抜けて」をそれぞれ、ザ・ハートランドの演奏をバックに歌うことになったのである。

普通なら、こういう場合のゲストはただ曲を歌ってそれでおしまいとなるところだけど、このツアーの場合は大きく違った。

しっかりとしたヴィジョンとポリシーのもとで『VISITORS』の本ツアーを終えた元春にとって、このアンコールツアーは、ライヴに足を運んでくれたファンに対する感謝の気持ちをこめた、いわば、フィギュアスケートにおけるエキシビションのようなものだったのだろう。せっかくの僕とバブルのゲストということで、彼のエンタテインメント心があふれる、ステキなパフォーマンスを全会場で披露することになったのだ。その内容はこんな具合。



バブルガム・ブラザーズがステージをジャック!?


ショーの中盤、元春の紹介で僕がステージに上がると、彼のコーラスに煽られながら、まず僕が「夜を駆け抜けて」を。その後、僕はそのままステージに残り、続いて元春の呼び込みでバブルが登場、「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」でさらに会場はヒートアップ。

それはいいのだが、曲が終わってもバブルの二人はいっこうにステージを降りる気配がない。彼らに向かって説得する元春に、逆に脅しをかけるように、バブルの二人がほぼステージを占拠しそうな気配になってきたので、あわてて僕が止めに入るも、ブラザー・トムさんに首根っこをつかまえられて、ポイっと放り出される始末。

そのうち、バブルの二人は元春をステージ上手端のラージスピーカーのところへ追い詰めていくけれど、そこから元春がなんとか盛り返して彼らをステージから追い払う―― という、そんな筋書きのパフォーマンスだったのだ。

いまだから言えるけど、はっきり言って、リハーサルのときの僕の心の中には、「こんな小芝居がオーディンスにうけるだろうか…」とクエスチョンマークがいっぱいだったのだが、いざツアーが始まってみると、それは単なる杞憂に終わったね。

元春も負けちゃいない! バブルを押し返して大盛り上がり


ステージ上でこのいざこざ(?)が起きている時も、ハートランドは演奏をやめずに続けていて、元春がスピーカーに追いつけられていく時は、だんだん音が小さくなっていく演出。

これが効いたのか、スピーカーの前でしゃがみこんだ元春に対して、会場から、

「元春、がんばれ~!」
「佐野~! 負けるな~!」

―― の声があちこちから飛んでくるではないか!

その声に励まされたかのように、元春がすっくと起き上がって、今度は逆にバブルを押し返していきはじめると、バンドの音もだんだん大きくなってくる。その勢いに押されたバブルの二人は、まるで子供の頃に見たプロレスの悪役外人レスラーのように、ひるみながらじりじりと下手側に撤退していくや、会場はやんややんやの大盛り上がり。

いや~、えらくウケたウケた。

ジェームス・ブラウンなどアメリカのソウルミュージシャンなんかがやりそうな、とてもわかりやすいパフォーマンス。こういったテイストのアイデアをサラっとやれちゃうところに、シリアスな面だけでなく、エンタテインメント性にも長けた元春の音楽表現への柔軟性を感じることができて、また彼のファンになったよ。

思い出深いライブアンコール「Young Bloods」の演出


ただのゲストというのではなく、このショーを佐野元春 with ザ・ハートランドと一緒に創っているという気持ちになれたことで、全国10ヶ所はほんとに楽しく、特別に思い出深いコンサートになったことはいうまでもない。

ただ、僕もバブルも出番が少なくて楽屋にいることが多いので、退屈しのぎに三人で佐野元春のモノマネごっこをしたのも楽しかった。ある日、佐野君に見つかって「僕はそんなしゃべりかたしないよ」とたしなめられ、三人とも一気にシュン… としたのも、今となってはいい思い出です。

ある意味で、元春のひとつの黄金期のランドマークともいえたこのアンコールツアー、白眉はやっぱり、ライヴのアンコールで演奏された「Young Bloods」だった。

演奏が始まると、アリーナクラスの会場の天井からたくさんの白いバルーンが降りてきて、それはそれは気持ちが高揚する忘れられないエンディングだったよ。

えっ? それじゃまるでじかに体感したみたいな感想じゃないかって?

そう。全会場、僕とバブルのコンちゃん、トムさんは、客席のうしろでこのバルーンの雨の中、オーディエンスにさとられないように、とてもハッピーな気分で踊っていたんだから。

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2022.10.14
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カタリベ
1950年生まれ
伊藤銀次
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