ホラーやスリラー映画は怖いから苦手… という声はよく聞くが、それでもこのジャンルが廃れないのは、怖くても見たいというファンがいるから。自分もそのクチだ。
正確にはホラー&スリラーを怖いと思って見ることがない。むしろ楽しいと思えてしまう。ハードコアなホラーファンは、ほとんどがそうだ。子どもの頃は確かに怖かったが、怖いもの見たさに任せていろいろと見続けているうちに、“ホラーって、実は笑えるのでは?” ということに気づいた。
“生きた人間の肉を食らうゾンビ、なんであんなにノロノロとしか動けないの?” とか考えているうちに、オカルト等を信じない生来の現実的な考え方が結びつき、怖がるのがバカバカしくなってきた。そんな私的転換期の、ひとつの重要なエッセンスなったのがマイケル・ジャクソン「スリラー」のPVだ。
今さら説明するまでもないが、全長13分のこのPVは物語仕立てになっていて、恋人を連れてホラー映画を観に行ったマイケルが、怖いのが苦手でプンプン怒っている彼女をなだめているうち、ゾンビに変身して本当に怯えさせる… という話。
当然、主役はこの曲「スリラー」なのだが、それに合わせて踊るマイケルとゾンビ軍団のダンスは、ノロノロのはずのゾンビの一糸乱れぬ妙な統一感も手伝って、見た目的におかしい。
そんなわかりやすいおかしさを証明するかのごとく、当時高校生だった自分の周りでは、あのダンスを真似して笑いをとる輩が続出した。踊れなくても、ピンポン玉を半分に切って黄色に塗り、それを両目にはめこんでラストのマイケルのマネをすれば笑いはとれた。
つまるところ、それは客観視したからこそ可能なホラーの楽しみ方や、恐怖と笑いが背中合わせであることを教えてくれたのだ。
この映像が一度、刷り込まれてしまうと、曲を聴いただけで、ついついニヤニヤするようになる。往年のホラーの名優、ヴィンセント・プライスの曲後半のナレーションも大仰に聞こえてきて、ラストの “あーはっはっはっはー” という高笑いでさえ、怖い以前に面白く思えてくる。
このPVを撮ったジョン・ランディス監督は映画『ブルース・ブラザース』をつくった人として広く知られているが、その直後には『狼男アメリカン』というホラーコメディを撮っており、「スリラー」のPVはその2年後の仕事。恐怖と笑いが背中合わせであることを熟知した才人の、絶妙のさじ加減が活きた。
曲が始まる前のPVの “振り” のパートでは、映画を観ながら怯えている恋人をヨソに、ポップコーンを頬張って笑いながら楽しんでいるマイケルの姿を見ることができる。
マイケルさん、当時はホラー映画に多少はビビっていた自分も、今やあなたの域に達しましたよ!
2017.12.04
YouTube / michaeljacksonVEVO
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