旅人の戯言：ゾンビに取り憑かれた男、マイケル・ジャクソン

そうですか、もうあれから35年が経ちましたか。

ええ、あの日はとても薄気味悪い夜でした。友人のマイケルが彼女と映画デートに行くと言うのですが、流石に初デートでホラー映画は無いんじゃないかと、私注意したんですよ。

しかも、勝負服とか言って上下とも真っ赤な色のコーディネート、とても心配だった私はこっそり二人の後を付けることにしたんです。

確かそのホラー映画は、毛むくじゃらの狼男が胸にミッキーマウスの「Ｍ」と書いてあるスタジアムジャンパーを着ており、そのセンスの悪さに女の子がビビって逃げてしまうという内容だったと思います。

怖いな～、怖いな～と思って観ていたら、案の定彼女も怖がって席を立ってしまったのです。そんな彼女を追いかけて、マイケルも席を立ったのですが、彼から食べかけのポップコーンを渡された時は「しまった、私の尾行はバレてたか！」と反省しきりでした。

その後、彼は彼女の機嫌を取るために、得意のダンスを踊っていると……。

出たんですよ、ゾンビが。

あのあたりは、湿度の高い湿った夜にはしばしばゾンビが出ることで有名な場所だったんです。

ゾンビは普段お墓の下に眠っているので目が悪いんですね。だから息を殺して通り過ぎれば見つからないのに「上下赤でダンス」ですよ。これじゃまるで見つけて下さいって言っているようなものじゃないですか。

また、ご存じの通り彼らは人の動きを模倣する性格です。一人が手を前ならえして歩くと、他のゾンビ達も真似をして前ならえして歩きます。

当然あれだけ目立つ色の服でダンスを踊っていれば、ゾンビもそのマネをして踊り出すのはごくごく自然の流れです。はたから見るとその光景は、極上なエンターテインメント作品になっちゃってたんですよ。

ええ、今でもゾンビ達の見事なシンクロ具合は目に焼き付いています。

まあ、デート自体は最終的に彼女と仲直りをして家まで送って帰ったからよかったんですけどね。


その後のマイケルですか？

さあ、彼が送り狼になったかどうかは分かりません。

2017.12.05