その日は学校が早く終わらないかなって朝からずっーと思っていた。何故かというと放課後に友達の家に行く事になっていて… そんな事は度々あったのだが、その日は特別だった。同級生がマイケル・ジャクソンの「スリラー」完全版を録画したと言うのだ。
当時はVHSのビデオデッキはまだ高価で中学生の自室に設置されている事は稀だった。ビデオデッキというものを見たのも初めてで彼がリモコンで早送りのボタンを押すと小林克也の解説画面がパラパラマンガの様に先に進んでいった。
そしてとうとう「スリラー」のPVが始まった。スタジャンにジーンズのマイケル。胸にはMのパッチが。アイビーリーガーの様な着こなし。ガールフレンドはサーキュラースカートで何処か50's調。画面はすぐに車から降りて歩くシーンに切り替わるのだが足元に釘付けとなった。
マイケルはPenny Widthのコインローファーに白のソックスを合わせている。ガールフレンドはサドルシューズ。今にして思えば冒頭のシーンは《アメグラ》を意識していたのではないかと感じる。
そして映画館の客席、マイケルとガールフレンドは80'sファッションに身を包んでいる。ガールフレンドは原宿『クリームソーダ』で当時壁紙用に販売されていた様な青ヒョウ柄のパーカー。マイケルは、映画観に行くのにその革ジャン着るか? って位の肩パットの赤ジャンを着用。その肩パットや黒い縦線は、戦隊物かアニメのロボット物に登場しそうなスタイル。しかも似合っている。
さらに、噂に聞いていた以上のキレ味鋭い踊りへと続き、足元が度々アップで写し出された。あの白ソックスにコインローファー。素敵だ。
最初のシーンでマイケルはスタジャンとジーンズにこのローファーを合わせていたのだが、もしかしたらマイケルは大学生に憧れていたのではないか?
大学生活を送る事も許されず、俺はこんなモンスター(売上、知名度)になってしまった。もう戻れない―― と思って更なる進化を遂げたのではないだろうか。
「スリラー」のPVは、その後「BAD」で完璧なスーパースターになる前の生身の姿… 衣装も内面もマイケルが完成形に入っていく寸前のスタイルを捉えているのかも知れない。
PVを見直してみるとマイケルのスタイルは今でも通用しそうな普遍的な定番アイテムとなっていて驚かされる(赤ジャンはバイカーかロッカー)。MTV時代を迎え、PVの視覚効果に気付きイチ早く対応したアーティスト、それがマイケル・ジャクソンだと思う。
そして、あの当時の僕は―― VHSビデオデッキの重要性について親に毎日話し続けて、とうとう買ってもらう事に成功する。自室に設置される事はなく当然リビングだったが、このデッキのおかげで数多くのPVを見る事が出来てマイケルの「スリラー」には感謝している。
2017.12.06
YouTube / michaeljacksonVEVO
YouTube / MJJSmoothCriminal
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