11月11日

新しいクルマ文化の始まり「ホンダ・シティ」とマッドネスのムカデダンス

52
1
 
 この日何の日? 
ホンダのコンパクトカー、初代「シティ」が発売された日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1981年のコラム 
横浜銀蝿完全復活!生涯現役ツッパリの人生哲学 ②

メルボルンのスーパーマーケットで耳にしたメン・アット・ワーク

Gの音をくれないか、ジョージ・ベンソンと言えば「ターン・ユア・ラヴ」だよねー

ホンダ「CITY」クルマと洋楽の親密な関係

恋の相手は田原俊彦? くらもちふさこ「ハリウッド・ゲーム」と中2プレイリスト

ジャパン「錻力の太鼓」グラマラスな美貌のアイドルバンドが芸術性を獲得!

もっとみる≫




ホンダとソニーのモノづくりは、遊び心にあふれていた!


子供のころからホンダとソニーが好きだった。2つの会社に共通するのは、小学生でも分かる遊び心と、デザインの先進性である。

初めて憧れたソニーの製品は、小学生の時に家電量販店の店頭で見かけた「ジャッカル300」なるラジオとテレビとカセットデッキが一体となった、通称 “ラテカセ” なるジャンルの商品だった。似た機能の商品は他社にもあったが、ソニーが図抜けてデザインがイカしていたのを覚えている。

中学に上がり、前年に出たばかりの「ウォークマン」をお年玉で買ったのが、人生初のソニーの購入体験だった。初期のモデルは盛田昭夫会長(当時)の発案でツインジャック仕様となり、ヘッドホン端子に「GUYS&DOLLS」(野郎どもと女たち)と書かれていた。この遊び心がソニーである。残念ながら、ついぞ僕はその機能を使うことはなかったが――。

一方、ホンダに対しては、兄の影響で小学生の時からオートバイに憧れ、「ヨンフォア」こと、ドリームCB400FOURに夢中になった。美しい曲線を描いた4into1 のマフラーと、赤一色の都会的なタンクが魅力的で、当時“カフェレーサー” なんて呼ばれていた。16歳になったら、すぐに中免を取ろうと心に決めた。

ホンダ車では、初代のシビックにまずハマった。当時、クルマはおじさんの乗るセダンばかりだった時代に、トランクルームのない2ボックスのスタイルは新しかった。コンパクトなサイズも若々しかった。ここだけの話、リアゲートに表記された「CVCC」を当時、僕は「シビック」と読んでいた。小学生では無理からぬ話だった。

驚きのテレビコマーシャル、マッドネスのムカデダンス


「大人になったらシビックを買おう」―― そう固く誓った小坊の僕だったが、中学に上がると、あっさりと前言を撤回する。シビックよりも魅力的なクルマが登場したからだ。

 シティ シティ
 ホンダ ホンダ ホンダ ホンダ
 シティ
 ホンダ ホンダ ホンダ ホンダ

――そう、ホンダのシティである。
マッドネスの歌うCMソング「シティ・イン・シティ(In The City)」の歌詞を文字起こしすると、ほとんど「シティ」と「ホンダ」しか言っていない。だが、そのクルマを説明するのには、それで十分だった。なぜなら、シティはニュースにあふれていたからである。

■ 「低く、長く、幅広い方がカッコいい」とされる当時のクルマのデザインの概念を変える、一見して背の高いクルマ。通称・トールボーイ。
■ 角目が流行りつつあったヘッドライトに逆行するキュートな丸目。
■ 「モトコンポ」なる折り畳み式の原付バイクをトランクに積める遊び心。
■ イギリスの当時の最新スカ・バンド「マッドネス」を使った異色の CM。彼らはクルマと何の関係もない “ムカデダンス” を踊るだけ――。

―― そう、そのクルマはキャッチコピー「シティは、ニュースにあふれてる!」の通り、登場自体が一つの事件だった。

おっと、少々前置きが長くなったが、今日―― 11月11日は、今から40年前の1981年に、ホンダ・シティが発売された日にあたる。

ホンダ・シティが切り拓いた、新しいクルマ文化


その新車は、発表会からニュースにあふれていた。時に、1981年10月29日―― 前年に開業したばかりの新宿のホテル・センチュリーハイアット(現・ハイアットリージェンシー東京)のセンチュリールームにて行われたセレモニーは、異例尽くしの演出だった。普通、自動車会社の新車発表会というと、開会の辞に始まり、社長の挨拶や担当役員の挨拶、パンフレットの配布、各部門の責任者による説明等々、退屈な式次第が長々と続くものだが、そのクルマは違った。

開始早々、いきなり会場が暗転になったのだ。数秒後、1本のレーザー光線が室内を走る。やがて、それは数本となり、激しく交差を始めた。突然、フルボリュームのビートの効いたサウンドが響き渡る。続いて、正面スクリーンに映像が浮かび上がる。サーフィン、ハンググライダー、サンドバギー、ローラースケート、アメフト、サッカー、ジョギング等々、アウトドア・スポーツの風景である。そして、スクリーンがスルスルと上がると―― シティとモトコンポがその雄姿を現した。

その新車発表会は、人々の感性に訴えかけるものだった。効果は絶大で、集まった報道陣や自動車ジャーナリストたちは一様に高揚感を覚えたという。間違いなく彼らは、単なる新車というくくりではなく、新しいクルマ文化の始まりを予感した。実際、シティの開発メンバーの平均年齢は27歳と、異例の若さだった。

メンバーらが会社の上層部から、「80年代の省資源車の決定版を」と、新車開発の指令を受けたのは、発表会からさかのぼること3年半前の1978年4月である。当時、シビックの2代目が開発中で、初代と比べてサイズアップするのは既定路線であり、上層部は初代シビックのようなサイズ感を求めていた。その方針は、平均年齢27歳の開発チームに伝えられるが、これにチームの面々は反発する。

「俺たちが作りたいのは、ミニ・シビックなんかじゃない!」

―― この瞬間、チームの総意として、従来の概念に当てはまらない、新しいカテゴリーのライト・ビークルを目指す開発コンセプトが固まったと言われる。

実際、シティのデザインは今見ても、少しも古臭くない。さもありなん、全長は短くコンパクトに、一方キャビンの背は高く、そしてフロントノーズは短く傾斜をつけ、テールエンドをスパッと切り立たせるシルエットは、時を超えて今の軽自動車に受け継がれている。

「黄金の6年間」と重なるホンダ・シティの軌跡


また、シティはCM音楽においても爪痕を残した。前述のマッドネスを起用した結果、話題性でも大当たりしたのだ。そして以後、ホンダ車とCM音楽は切っても切れない関係になる。2代目プレリュードの「ボレロ」、3代目シビック(ワンダーシビック)の「この素晴らしき世界(What a Wonderful World)」、クイント・インテグラの「風の回廊(コリドー)」、トゥデイの「はぐれそうな天使」等々、それら一連の楽曲はイメージ戦略としても成功し、ホンダに黄金の80年代をもたらす。

シティは発売から2年間で、実に15万台を売上げた。また、2年目にはターボ、3年目にはターボⅡ(ブルドッグ)、4年目にはピニンファリーナがデザインを手掛けたカブリオレをラインナップに加えるなど、常にニュースを提供し続けた。思えば僕自身、過去にシティ・カブリオレを購入して、2年間ほど愛用した思い出がある。取り回しがラクで、オープンにすると気持ちよく、夏場にエアコンが効かない以外は、最高の1台だった。

1986年10月31日、発売から丸5年を経て、シティは2代目にフルモデルチェンジされる。新モデルは一転してロー&ワイドのデザインを採用し、事実上、トールボーイのシティは一代限りで終わりを告げた。

初代シティの開発が始まった1978年から、ターボⅡ(ブルドッグ)が大ヒットする83年まで、シティが歩んだ軌跡は、ほぼ「黄金の6年間」と重なる。東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代を象徴する1台として、「ホンダ・シティ」の名は永遠に語り継がれるだろう。

ニュースにあふれていたってね。

※ 指南役の連載「黄金の6年間」
1978年から1983年までの「東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代」に光を当て、個々の事例を掘り下げつつ、その理由を紐解いていく大好評シリーズ。

■ 黄金の6年間:翔んだカップルの桂木文と H2O「僕等のダイアリー」
■ 黄金の6年間:中島みゆき「ひとり上手」フォークからポップミュージックへ
■ 黄金の6年間:傑作「蒲田行進曲」クロスオーバー時代に生まれた化学反応!
etc…


※2019年11月11日に掲載された記事をアップデート

▶ コマーシャルに関連するコラム一覧はこちら!



2021.11.11
52
  YouTube / S6001964


  Apple Music
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1967年生まれ
指南役
コラムリスト≫
54
1
9
8
2
大瀧詠一とビートきよし、奇跡のクロスオーバーと類まれなるコミックソング
カタリベ / 指南役
11
1
9
8
2
元祖デートカーと言えば? ラヴェルの「ボレロ」とホンダの2代目プレリュード
カタリベ / 指南役
46
1
9
7
8
1978年1月19日「ザ・ベストテン」放送開始!それは黄金の6年間が幕開けた瞬間!
カタリベ / 指南役
60
1
9
7
9
黄金の6年間:映画「エーゲ海に捧ぐ」シルクロードブームの源流を辿る道…
カタリベ / 指南役
17
1
9
8
1
ホンダ「CITY」クルマと洋楽の親密な関係
カタリベ / DR.ENO
76
1
9
8
3
それは驚きだった、ホンダのワンダーシビックと「この素晴らしき世界」
カタリベ / 指南役