10月9日

黄金の6年間:傑作「蒲田行進曲」クロスオーバー時代に生まれた化学反応!

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かつて、一人の天才がいた。

稀代の出版・映画プロデューサーにして、俳人としても「芭蕉以来の才能」と謳われるも、麻薬取締法違反などで懲役4年の実刑判決。自身を武田信玄の生まれ変わりなどと称し、オカルト方面でも数々の逸話を持つ。ひと言で言えば、規格外の男である。

そう、角川春樹だ。

かつて角川書店(現・KADOKAWA)の2代目社長として、1970年代後半から80年代半ばにかけて、暗黒時代と呼ばれた日本映画界でひとり気を吐いた「角川映画」を牽引した男である。

もう、散々語り尽くされた感すらあるが、そのビジネスモデル―― いわゆる “角川商法” は驚くほど先進的だった。小説・映画・音楽のメディアミックス、テレビ CM を使った大量宣伝と印象的なコピーワーク、新人女優の発掘に若手監督の積極的起用―― その手法は後にフジテレビの鹿内春雄に受け継がれ、フジに映画黄金時代をもたらすが―― それはまた別の話。

今回、角川映画を取り上げたのは、僕がこのリマインダーで連載的に書いている企画「黄金の6年間」に、驚くほど角川映画の全盛期が重なるからである。黄金の6年間とは、1978年から83年にかけて、東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代のこと。

それに対し、角川映画は1976年、巨匠・市川崑監督と豪華キャストで臨み、大ヒットした『犬神家の一族』を皮切りに、『人間の証明』や『野生の証明』『セーラー服と機関銃』などヒット作を連発するも、そのムーブメントは84年の『Wの悲劇』や『麻雀放浪記』をもって、突如収束した。

もちろん、角川春樹率いる角川映画はその後も続くが、まるでツキが落ちたように、85年以降はパッとしなかった。その意味でも、角川映画と黄金の6年間は親和性が高いと言えよう。

皆さんは、角川映画と聞いて、どの作品がお好みだろう。僕の個人的な趣味で言えば、公開順に『戦国自衛隊』『蒲田行進曲』『時をかける少女』の3つが角川映画の3傑だと思う。

正直、『人間の証明』や『セーラー服と機関銃』は角川商法ゆえの話題性が先行した感は否めないし、『探偵物語』などは、薬師丸ひろ子と松田優作の芝居や、大瀧詠一サンの音楽はいいんだけど―― 物語としてはもう一つだったと記憶する。

3傑の中でも、映画として突出して面白かったのが、『蒲田行進曲』である。時代の旗手・つかこうへいの戯曲を、かの深作欣二が監督。主演は松竹の看板女優・松坂慶子で、その相手役に、当時ほとんど無名の風間杜夫と平田満。後述するが、当時、あるお目当てで観に行ったが、いい意味で裏切られた。ある晴れた、秋の日曜日だった。

少々前置きが長くなったが、今回のテーマは、今から37年前の今日、1982年10月9日に封切られた映画『蒲田行進曲』である。
 
 
 虹の都 光の港 キネマの天地 
 花の姿 春の匂い あふるる処 
 カメラの眼に映る 仮染めの恋にさえ 
 青春もゆる 生命はおどる キネマの天地 
 
 
映画は、同名タイトルの主題歌から始まる。かつて大正から昭和初期の無声映画全盛期に、その中心的役割を果たした、今は亡き松竹蒲田撮影所の “所歌” である。

原曲は、プラハ生まれの作曲家ルドルフ・フリムルのオペレッタ。それに作詞家の堀内敬三が日本語の歌詞をつけ、1929年に松竹映画『親父とその子』の主題歌としてレコードを発売したところ、大ヒットしたという。

同曲は、そのカバーである。歌うは、松坂慶子・風間杜夫・平田満の3人。スクリーンには無声映画全盛期のスターたちの写真がコラージュされ、そのオペレッタの曲調とレトロな歌詞に、見ている僕らは一気に古き良き映画の世界に引き込まれた。当時、中学3年の僕はこの時点で、「あぁ、この映画はきっと面白い」と確信した。

見ていない人のために、簡単にあらすじを説明すると、物語の舞台は時代劇のメッカ、京都撮影所である。大スター “銀ちゃん” こと倉岡銀四郎(風間杜夫)は人情家でもあるが、感情の落差が激しい。そんな銀ちゃんに憧れるのが大部屋俳優のヤス(平田満)。

ある日、ヤスのアパートに銀ちゃんが、落ち目の女優の小夏(松坂慶子)を連れて来る。彼女は銀ちゃんの子供を身ごもっており、スキャンダルになるからと、ヤスに小夏を押し付けに来たのだ。憧れの銀ちゃんの頼みならばと、ヤスは承諾する。そして、その日から身重の小夏のために、撮影所で金になるからと、自ら危険な役をすすんで引き受けるようになる。

ある日―― 高いビルからスタントばりに落ちるヤス。皆が心配して下を覗き込むと、傷だらけの姿で立ち上がり、小指を出して、「何せコレが、コレ(お腹が膨らんでるジェスチャー)なもんで」と無理やり笑顔を作って、皆を安心させる。大部屋俳優の彼が小夏のためにカネを稼ぐ手段は、これしかないのだ。

―― という具合に映画は進む。この時点で僕らはハタと気づく。この映画の真の主人公は看板女優の松坂慶子でも、大スター銀ちゃんを演じる風間杜夫でもなく、大部屋俳優ヤスを演じる平田満であると。予想外の展開に、僕らはすっかり物語に没頭していた。

実は、当時僕ら中坊がこの映画を見に行ったのは、松坂慶子が劇中でヌードを披露すると、雑誌『GORO』の記事で読んだからである。それ以前も、彼女は『青春の門』で脱いでいたが、今度のヤツは画面も明るくて、時間も長いという(←ココ大事!!)。もちろん、そのシーンはあった。素晴らしかった。だが、それすら霞んでしまうほど、ストーリーが面白かったのだ。

考えてみれば、この映画はその座組から神っていた。原作はつかこうへいだが、彼が自身の戯曲を小説化した『蒲田行進曲』は、映画が封切られる前年の81年に角川書店の『野生時代』に掲載され、なんと直木賞を受賞する。

更には、監督の深作欣二である。この時期、彼と松坂慶子は公然の仲であり、同映画の松坂慶子が最高に美しいのは、惚れた男が撮ってくれたからだろう。よく、映画監督はヒロインに恋をした方がいいと言われるのは、そういう理由もある。

そして松坂慶子―― 時に30歳。女優として最も脂が乗り切ったタイミングだった。実際、前年の『青春の門』と同映画で、彼女は2年連続日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞する。まさに、キャリアの絶頂期にあった。

面白い話がある。同映画はそのタイトルから分かる通り、松竹が舞台である。だからヒロインも松竹の看板女優の松坂慶子が起用された。だが、原作者のつかこうへいが「ヤス」のモデルにしたのは、東映の京都撮影所の大部屋俳優・汐路章だという。

更には、劇中の銀ちゃんは、どう見たって東映の「錦ちゃん」こと中村錦之助(萬屋錦之介)がモデルだろう。実際、同映画の撮影は東映の京都撮影所で行われた。そして何より―― 撮るのは東映で育った深作欣二監督である。

僕は、「黄金の6年間」が面白い理由の1つは、クロスオーバーにあると思う。各方面の才能が垣根を超えて混じり合うことで、奇跡を生み出す。そんな時代の過渡期が1978年から83年だったと。そして天才・角川春樹は、なかば確信犯的に業界をかき回し、自らクロスオーバーを仕掛けていったのだ。

そう、映画『蒲田行進曲』が面白いのは、様々なジャンルが混ざり合うことで化学反応が起きて、傑作に昇華しているから。松竹と東映、戯曲と映画、看板女優とほぼ無名の俳優――。

物語は後半、ヤスのひたむきさに次第に小夏の心が動き、やがて2人は結婚する。一方、銀ちゃんは仕事に行き詰まり、かつての豪放磊落さが消えていた。そんな銀ちゃんを励ますために、ヤスは「階段落ち」をやると告げる。

階段落ち―― それは、「新撰組」のクライマックスで、主役に斬られた役者が39段もの大階段をころげ落ちる一世一代の大仕事である。主役の銀ちゃんに花を持たせる一方、斬られたヤスは一歩間違えれば死と隣り合わせという危険な撮影だ。

刻一刻と、階段落ちの撮影日が迫り、次第にヤスの胸中に不安が募る。同時に小夏の出産日も近づいてくる。ある日、精神のバランスが崩れたヤスは、小夏の前で部屋の中のものをめちゃくちゃに壊す。

そして迎えた撮影当日―― ヤスは覚悟を決める。

燃え盛る炎の中、銀ちゃん演ずる土方歳三が大階段を一段一段上ってくる。ジリジリと後退するヤス。遂には大階段の一番上へ。銀ちゃんの大立ち回りが始まる。次々と浪人たちが斬られる中、ヤスにも銀ちゃんの刃が向かう。そして、大階段を背にしたヤスにトドメの一振り――。
 
 
 胸を去らぬ 想い出ゆかし キネマの世界 
 セットの花と 輝くスター 微笑む処 
 瞳の奥深く 焼付けた面影の 
 消えて結ぶ幻の国 キネマの世界 
 
 
同映画のラストシーンについては賛否両論ある。恐らく、あれは深作監督ならではのオマージュだろうと僕は解釈している。皆さんはどう思われただろうか。

一つだけ確かなことがある。人生とは、舞台裏の方にこそ、本質があるということ。あの日―― 映画館を出た中学3年の僕は、そんなことをぼんやりと考えていた。

2019.10.09
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カタリベ
1967年生まれ
指南役
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