80年代ニューウェーブの傑作、ジャパン「錻力の太鼓」
ジャパンはラストアルバム『錻力の太鼓(Tin Drum)』で初めてイギリスでブレイクする。しかし、残念なことに本作をもって解散してしまう。
1972年生まれの私は、本作がリリースされた当時、9歳の小学生。当然のこと、こんな暗い音楽に夢中になるはずもなく、ガンダムのプラモデルをいかに手に入れるかが人生の全てだった。そんなガンプラ熱も中学生になる頃にはすっかり冷め、洋楽ロックに夢中になり、80年代ニューウェーブの名作といわれる本作『錻力の太鼓』で初めてジャパンを後追いで聴いたわけだ。
最初に聴いた印象は、「難解でグロテスクな音楽だな…」という “洋楽聴き始め中学生あるある” だった。しかし、本作からのシングルカットでイギリスのチャートでもヒットした「ゴウスツ」の魅力に憑りつかれてしまったのだ。「ゴウスツ」は本作の中でもとりわけ暗い一曲で、リズムもなく、地味なシンセサイザーが効果音のように鳴っている中をデヴィット・シルヴィアンが深く低い声で暗いメロディを歌う曲だ。
とてつもないエモーション、最大の魅力はデヴィット・シルヴィアンの声
今思うと、私が「ゴウスツ」に感じた最大の魅力はデヴィット・シルヴィアンの声だった。もの悲しい声は救いようがないほど暗いのだが、その中にとてつもないエモーションが感じられるのだ。「ゴウスツ」の魅力に引っ張られるかたちで、アルバムを何度も繰り返し聴くうちに、最初に感じたグロテスクな印象は、何だかよく分からないけど不気味で気持ち良い音楽へと変化していった。
特にオオトカゲみたいな大型爬虫類が地を這うように動くベースは、本当に不気味で気持ち悪いのだけど、なぜかどこか気持ち良い。また、ドラムもビートやテンポを刻むため… というよりは、一音一音を曲の中に配置し、パズルのようにはめ込んでいるような印象に変わっていった。
こんな感じで中学生だった岡田少年はジャパンの『錻力の太鼓』のグロテスクな快楽に溺れていったのだ。
そして、高校生になって小遣いやバイト代で自由に使えるお金にも余裕ができてきた頃、ジャパンの他のアルバムを聴き返してみたのだが、ごく初期の作品はグラムロックとハードロックから影響を受けた普通のバンド、中期の作品はロキシー・ミュージックとニューロマンティックスの中間という印象だった。この時点で私はすっかりジャパンにグロテスクな快楽を求めており、以前の作品を聴いてもグロテスクさを感じることができず、肩透かしをくらって残念に感じてしまったのだ。
キャリアのスタートはアイドルバンド、ラストアルバムでは芸術性を獲得
大人になった今、きちんと時系列を追ってジャパンというバンドを考えてみると、グラマラスな美貌でアイドル的な人気が日本で爆発した初期、作品を重ねるごとにロキシー・ミュージックのようなアート志向を強めた中期、独自の美意識を獲得し、音楽で表現できるスキルを身に付けた後期といった具合に成長してきたバンドの歴史がとても分かりやすく記録されている。
そのキャリアをアイドルバンドからスタートさせ、ラストアルバムにして80年代ニューウェーブの傑作『錻力の太鼓』を作り上げ、芸術性と大衆性の両方を獲得することに成功したジャパン。そのバンドヒストリーは、長いロック史の中でもユニークな存在であったと強く感じる。
そして、恐ろしいことにジャパンが『錻力の太鼓』を作り上げた時、デヴィッド・シルヴィアンは若干23歳の若さだったのだ。23歳にしてここまで達観した精神性と芸術的な音楽センスを獲得したジャパンの作品や活動は、彼の大人になるまでの物語としてもロック史の貴重なアーカイブと言えるだろう。
追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。
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2021.11.13