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【追悼:ジェフ・ベック】時代の先端で尖り続けた孤高の天才ギタリスト

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ジェフ・ベックのギターは不老長寿の魔法の杖?永遠に思えた若々しい姿


ロックギターの真なる巨星墜つ。2023年1月10日、ジェフ・ベックが細菌性髄膜炎によりこの世を去った。78歳だった。エディ・ヴァン・ヘイレンの時と同じ、朝方の訃報だったこともあり、起き抜けでの突然の知らせに驚いたロックファンも多かっただろう。メディアでの報道の大きさに加え、名だたる有名アーティストを始めとする、ネット上を埋め尽くした追悼コメントを見ているだけで、いかにジェフがリスペクトされる存在だったのか、改めて実感させられた。

人間は誰しもいつか亡くなる。そんな当たり前の真理を疑いたくなるほど、ジェフはキャリアを積み重ねても、やることなすことすべてが若々しかった。この世が続く限り、永遠にギターを弾き続けるんじゃないか? 彼のギターは不老長寿の魔法の杖なのか? 大げさかもしれないが、そんな妄想さえ抱かせてくれただけに、未だに信じられない思いがする。

個人的なことだが、ジェフが亡くなるつい数日前、インスタの動画を見ているとヤードバーズ時代の映像が突然流れ始めた。演奏中のジェフが機材の不調で次第に機嫌が悪くなり、VOXアンプにギターをたたきつけ、最後は思い切り踏みつぶし破壊してしまう。

これはミケランジェロ・アントニオーニ監督による1966年の映画『欲望』に、ヤードバーズがゲスト出演した際の有名なワンシーンで、同じステージにジミー・ペイジも立っている。クールなイメージのジェフが、血気盛んにロックしている。そんな本当に若かりし頃の姿を偶然に見て、またヤードバーズ時代から聴き直してみようかなと思っていた矢先の訃報でもあった。



金曜夜8時、昭和のお茶の間に響いたジェフの先鋭的なギターの音色


ヤードバーズに始まるジェフの偉大なる足跡は、改めて語るまでもないだろう。ブリティッシュハードロックの礎を築いた第一期と、ファンクテイストを大胆に取り入れた第二期からなるジェフ・ベック・グループ。最小編成でハードロックの限界に挑んだパワートリオ、ベック・ボガート・アンド・アピス。そしてジャズ、フュージョンにも接近し、ロックギターインストゥルメンタルの世界を多彩な音楽性で確立したソロ時代。

ロックやロックギターを少しでもかじった世界中の人々の心の中には、一つひとつ違ったジェフの思い出が存在し、その七色に輝く音色やフレーズが脳裏に刻み込まれているに違いない。

僕自身がジェフのギターを初めて知ったのは、深夜のラジオで流れた不朽の名演「悲しみの恋人達(Cause We've Ended as Lovers)」だった。確か伝説のFM番組『クロスオーバーイレブン』だったと思う。もの哀しく情感に満ち溢れたメロディの一音一音は、凛とした夜のとばりに溶け込んでいくようで、僕にロックギターの奥深さを教えてくれた。



リアルタイムで手に入れた音源は、黒地に「JEFF BECK」の白抜きロゴのジャケがクールな80年リリースの名作『ゼア・アンド・バック』のLP盤だ。今50歳前後のロックファンにとっては、1曲目を飾る「スター・サイクル」は、とりわけ思い出深い楽曲だろう。

金曜8時、テレビの前で釘付けになった新日本プロレスのTV中継『ワールドプロレスリング』内で、この曲が使用されていたのは周知の通りだ。今でもジェフが先鋭的な音色で奏でたあのメロディを聴くと、当時の強靭な外国人レスラーの姿を思い出してしまうほどイメージがリンクしていることに気づく。昭和の情景とお茶の間に溶け込むように、ジェフのギターは確かに鳴り響いていたのだ。

愛器と一体化して生み出される唯一無二のプレイスタイル


僕がジェフの音に生で触れられたのは少し遅く、89年『BEER'S NEW GIGIS』での来日公演まで待つことになった。スティーヴ・ルカサー、ニール・ショーンに続いて登場したジェフはやはり別格で、醸し出すオーラはまさに異次元。ジェフの表情まで確認できるアリーナ前方のチケットをゲットできて、ライヴパフォーマンスでの神々しい立ち姿と生のギタートーンを体感できた経験は、さらにジェフのギターワールドに心酔していくきっかけにもなった。

そんな中で、ギターを弾いていた僕は、無謀にもジェフのフレーズのコピーに何度もチャレンジしたことがある。単純に弾くだけでも並外れた高度な技量を要するのは勿論だけど、それ以上に、ヴィブラートを始めとした音符に表せない繊細なニュアンス、フィーリングの再現こそ最も困難だと痛感させられたものだ。

テレキャスター、レスポール、そしてストラトキャスター。どんな機種を使おうとも、ギター本体とジェフ本人がまるで一体化したかのように、その指先から紡がれる音の一つひとつはエモーショナルで神々しい。まるでギターで会話しているかのように奏でられるギタリストが、世界中に一体どれだけいるだろうか。ジェフをリスペクトするギタリストは世界中に無数にいても、その受けた影響を自らのギタープレイに落とし込んで、ジェフと同じように表現できたギタリストは皆無だ。



ロック好きなら尖り続けろ! いつも隣で𠮟咤激励してくれたジェフのギター


ジェフはエリック・クラプトン、ジミー・ペイジとともに世界3大ギタリストと称されてきたが、それぞれの生きざまはギタースタイル同様に三者三様だ。3人が若き頃に、ヤードバーズやクリーム、レッド・ツェッペリンをはじめとした、各々のバンドのギタリストとして成し遂げた偉業は、もはや説明不要だろう。

その後、キャリアを積み重ねる中で、エリックは次第にシンガーソングライターに軸足を移し、ポピュラーミュージックシーンで大ヒットを飛ばした。笑い話にもならないが、今や “ギターも弾けるシンガー” と勘違いする人々がいるほどの存在になった。また、ジミーは早い段階で新しい音楽を生み出すことも少なくなり、レッド・ツェッペリンが残した歴史的な偉業や音源を、いかに後世に伝えていくのかについて、ギターは脇に置き様々なアイデアに勤しんでいる。

そんな2人のビッグネームならではの歩みや変化に比べると、ジェフの生きざまはあまりに異質だ。キャリアを重ね大物扱いされようとも、丸くなり枯れていくことなど一切なし。最後まで現役を貫き、職人気質の生涯いちギタリストに拘った。自身の音楽性やギターテクニックを常にアップデートし、時代に迎合するのではなく、むしろ時代を先回りするかのごとく進化し続けた。

ロックギターの本質とは一体何なのか? 終わりなき命題


近年でも、自分の娘ほど年の離れた女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドを起用したり、つい最近もメタルの帝王オジー・オズボーンと共演したり、俳優ジョニー・デップとのコラボを実現したりなど、常に新しい試みや話題に事欠かなかった。

ライヴにおいて名曲「スキャッターブレイン」のBPMが年々速くなっていった様子は、ジェフの進化や革新のスピードを緩めない生きざまを象徴するかのようだ。ジェフ・ベックを超えられるのは、ジェフ・ベックのみ。飽くなき探求心でストイックに自らのギター道を突き進んだからこそ、誰にも真似できない孤高のギタリストに到達したのだろう。

新世紀を前にリリースされた99年のアルバム『フー・エルス!』。打ち込みを多用したテクノロックやエレクトロへと接近したジェフの斬新なギタープレイを聴きながら、ふと油断していると、いつしかその進化に置き去りになりそうな自分がいた。けれども一方で「本当にロックが好きなら老け込むのはまだ早い! 俺のギターを聴いてみろ!」と、まるでジェフが叱咤激励し、背中を押してくれているようにも感じたのだ。

そんなジェフが残してくれた数多くの音源は、永遠に輝き続ける。ロックギターの本質とは一体何なのか? 終わりなき命題に向き合いながら、ジェフへの追悼と感謝の思いも込めて、これから先もジェフのギターをじっくり探求していきたい。



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2023.01.16
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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