「元ネタ探し」という音楽の楽しみ方がある。90年代に音楽に親しんだ人たちは、ヒップホップカルチャーから派生したサンプリングや、小沢健二の名盤『LIFE』が元ネタの宝庫とされていたように、この言葉に胸ときめかせてレコードショップに通ったことだろう。
これらは、リスペクトが大前提。自らの初期衝動をどのように昇華させていくかというスタンスが輝かしいポップミュージックの歴史を作った。これを「パクリ」という言葉一言で片づけてしまうのは何とも悲しい。
この楽しみ方を教えてくれたのが、80年代初頭に頭角を現した博多、北九州出身のビートグループたちだ。モッズ、ロッカーズ、ルースターズ… それぞれのバンドには確固たるルーツがある。大好きなバンドを掘り下げると、そこには音楽の森が広がり、時代を遡れば遡るほど、未だ見ぬ未来に出会うという感覚。そしてそれは、僕のとっておきの宝物になった。日本のリヴァプールと呼ばれた街・博多で、感度の良い不良たちのアンテナがキャッチしたダイヤモンドの原石とも言うべきナンバーは、エナジーが炸裂する名曲の数々として姿を変え80年代初頭にドロップされていったのだ。
それは、50年代のロカビリー、60年代のブリティッシュビート… そして、すべての常識を覆し原点回帰した70年代のパンクロック。彼らが継承したロックンロールの魂は時代ごとに昇華とマッシュアップを繰り返しながら今も色あせず生き続けている。
たとえば、有名どころだとサンハウスからシーナ&ロケッツに引き継がれ、今なおピカピカの最新型として、ステージでプレイされている「レモンティー」だ。この曲はロックンロールの原石であるジャンプ・ブルースの第一人者タイニー・ブラッドショウのオリジナル「トレイン・ケプト・ア・ローリン」(1951年)をジェフ・ベック、ジミー・ペイジ在籍時のヤードバーズがアレンジした「ストロール・オン」が下敷きとなっている。未だ現役でプレイを続けるシナロケの凄さは、こうした楽曲をベースにするだけにとどまらず、そこに内包する凝縮された魂の部分までも自らのものとして昇華してしまう点だろう。
先日、この「ストロール・オン」を演奏する1966年のヤードバーズの映像を観た。この中でジェフ・ベックは自らのギターをアンプに叩きつけ破壊し続けているのだが、シナロケはそんな衝動をライブの中で具現化し続けている。ルーツミュージックへのリスペクトを根底に初期衝動を真空パックし、自分たちのスタイルを築き上げる。そして、そのスピリッツを無言のままに受け継いでいるのが博多、北九州のビートグループの一番の素晴らしさである。
「俺たちはロックの翻訳者だ!」
80年にメジャーデビューしたロッカーズのボーカリスト・陣内孝則氏が当時、こんな言葉を常々口にしていたという。つまり、僕らにしてみれば、ロックンロールの先達である彼らが衝撃を受け、翻訳した元ネタをたどることにより、時代を超えた音楽の旅を続けることができるということだ。
そう。彼らもまた、サンハウス、シーナ&ロケッツの後継者であった。去年、38年ぶりにリリースされた4枚目のアルバム『Rock’n Roll』に収録されている「糸島の太陽」に僕はニヤリとして、その瞬間、同時に身体が弾けた。これは、ラモーンズもプレイし、60年代アメリカンガレージの大名曲であり、リヴィエラスのオリジナル「カリフォルニア・サン」だった。もちろん原曲を凌駕し、研ぎ澄まされたギターアンサンブルで今の時代に相応しいアレンジが施されている。
つまり、ロッカーズは「俺たちはロックの翻訳者だ!」と言い放った80年代初頭から何ひとつスタンスを変えずに僕らにニューアルバムを届けてくれる。それがどんなにうれしいことか、当時からのファンであれば誰もが思うことだろう。
ザ・モッズからは、ザ・フーやフレーミン・グルービーズ、ジョー・ジャクソンを知り、ルースターズからストーンズを遡り、Dr.フィールグッドやボ・ディドリー、第2のボブ・ディランと言われたエリオット・マーフィーの存在を知った。そういう音楽の親しみ方のきっかけにシナロケの「レモンティー」があったのだ。そうやって僕は音楽の旅を続けている。
2019.04.07
Apple Music
Apple Music
Apple Music
Information