4月21日

40周年!松田聖子「渚のバルコニー」ユーミンが書いた究極のアイドルポップス

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松田聖子連続7曲めのNo.1ソング「渚のバルコニー」


テレビやコンサートでこの曲を歌う時、松田聖子はキーを1音上げていた。下げていたのではない、上げていたのである。

It was 40 years ago today.
40年前の今日1982年4月21日、松田聖子9枚めのシングル「渚のバルコニー」がリリースされた。5月10日付のオリコンシングルチャートでは1位を獲得。聖子にとって7曲連続のNo.1ソングとなった。

作詞は聖子のシングル4曲めとなった松本隆、作曲と編曲は「赤いスイートピー」に続いて呉田軽穂(松任谷由実)、松任谷正隆夫妻であった。

この曲こそ、ユーミンが松田聖子に書いた中でも最高のアイドルポップスではないだろうか。それもそのはず、この曲はユーミンが「これでどうだ」と叩き付けた1曲であったのかもしれないのだから。

Aメロで1オクターブ急下降!


曲は下降する4音の短いイントロの後、少しテンポを落としたサビから始まる。サビは途中の「そして秘密」で終わり、ドラムとエレキギター、ストリングスがフィーチャーされテンポもアップ、いよいよ曲が本格的に始まる。そしてAメロ。ここで早くも意表を突かれる。

 右手に缶コーラ

この部分だけでなんと1オクターブも下降するのである。続く、

 左手には白いサンダル

の部分でも音階は殆ど上がらず、あたかも地を這うような低音に留まる。

 ジーンズを濡らして泳ぐあなた
 あきれて見てる

続くこの部分も同様。アイドルの曲とは思えない低いキー。冒頭に述べた、テレビやコンサートでキーを1音上げていた理由は正にこれであった。それでも当時の松田聖子は低音に少々難儀していた。色々なキーを試したがレコードではこのキーがベストというのが若松宗雄プロデューサーの判断であった。

Aメロからいきなりアイドルの楽曲らしからぬ攻めっぷり。しかしこれが後々しっかりと生きてくるのだ。

Bメロの浮遊感を生んだ絶妙なコード


 馬鹿ね呼んでも無駄よ

Bメロはこの曲でも印象に残るフレーズの1つ「馬鹿ね」から始まる。最初の音から一気に4音上がり、その後もう1音上がってストンと5音落ちる。Aメロに比べて起伏が大きくなった。松本隆もアイドルに相応しいかと不安を抱いたという「馬鹿ね」という歌詞が柔らかく聴こえたのも、松田聖子のアクセントの置き方も巧みだが、音階の急上昇も一役買っていたのではなかろうか。

 水着持ってない

また最初の音から一気に5音上がる。しかしこの部分の独特の浮遊感を更に強くしているのが、Gが主音のこの曲で初めて登場するFのコードである。その不安定さは歌い手の技量を求めるが、サビに向けてのアクセントとなり、橋渡し役を果たす。暫く鳴りを潜めていたエレキギターが再び入り、いよいよサビに入る。

音楽的技巧が駆使された屈指のサビ


 渚のバルコニーで待ってて
 やがて朝が
 霧のヴェールで二人を
 包み込むわ

サビも高音中心ではあるがほぼ1オクターブの間を音が行き来する。「(バ)ル」と「待っ」と「やが」の3か所の高音のピークが印象的だが、よく聴くと1音ずつ上がっている。「(ヴ)ェー」と「(ふ)た」と「包(み)」も同様だ(厳密に言うとその前の「(な)ぎ(さ)の」「(き)り(の)ー」から1音ずつの上昇は始まっているが、この部分のピークは2回ありやや印象も弱いので省略させて頂く)。

イントロ直後のサビでも、「(バ)ル」と「待っ」と「ラベ(ンダーの)」、「(ぅ)う(みが)」と「(見)た(いの)」と「そ(して秘密)」がそれぞれ1音ずつ上昇している。

イントロ、そしてAメロの下降との対比は巧みであるし、この対比こそがサビを一層輝かせているのではないだろうか。

 I love you so love you もう話さないで

サビの後半のこの部分は一転、音階はたったの3音でしかもループしている。カタカナにしてしまえば「ソラシソラシソラシソラシソ」というシンプルなもの。しかしそれにベース音が半音ずつ落ちていくライン・クリシエという技法が使われると俄かにせつなさが醸し出される。攻め攻めのサビ前半とのコントラストはやはり鮮やかと言う外あるまい。

 Umm…あなたを愛してる

最後のコードまで行き届いた完璧な曲構成


短い間奏を挟み、2番も1番と同じ構成。そしてエレキギターがサビ前半のメロディーを奏でる間奏が入り、サビの後半部分から歌が再開される。最後はサビの主旋律をコーラスが歌い、合いの手を松田聖子が歌うという新たな形で曲が進行していく。
そして最後だけは、イントロにも出てきたサビの1フレーズで終わる。

 そして秘密…

この最後の音がAで、しかも鳴らされるコードがGm7という、主音のGとのぶつかり具合が余韻を残す。これは松任谷正隆によるものだろうか。最後の最後まで行き届いた曲ではないか。

「赤いスイートピー」みたいに直したくない


話は前のシングル「赤いスイートピー」になる。実はこの曲、ユーミンに若松プロデューサーから直しが出ているのだ。

ユーミンが最初に書いた曲は、「なぜ知り合った日から~」から始まるBメロ以降も音階が上がっていかなかった。春だから曲として上がっていって欲しいと考えた若松Pは、ライヴ会場まで足を運び、ユーミンに直しをお願いした。こんなことを言われたことの無かったユーミンだが、その場でピアノで作り直し、Bメロ以降サビまで音階の上昇する「赤いスイートピー」が出来たのだった。

ユーミンもこの改作には納得したらしく、翌年同じ考え方で作った原田知世の「時をかける少女」がヒットした際、若松Pにお礼の電話を入れている程だ。

しかし「渚のバルコニー」を作るにあたってユーミンが、今回は直しは受けたくないと考えるのは当然であろう。下降するイントロも、歌い手にはなかなか酷なAメロでの1オクターブ下降も、実はユーミンのこだわりだったのではないだろうか。両者は、Bメロやサビで音階が上昇していくことでコントラストを成し、その存在意義を獲得したのだが。

今回は若松Pも直しを出すことも無く、寧ろこの曲はお気に入り、自信作となった。因みに次のシングル「小麦色のマーメイド」で若松Pはまた直しを打診するのだが、この時は松任谷夫妻は首を縦に振らなかった。その背景には「渚のバルコニー」の成功があったのではないだろうか。

40年後にも歌われることが想定されていた!? ポップスとしての高い完成度


別稿でも書いた私的な話ではあるが、これ以前のシングル2枚、「風立ちぬ」と「赤いスイートピー」の間、僕は松田聖子から離れていた。聖子はもうアイドルポップスは歌わないと思っていた。

「渚のバルコニー」は、そんな僕をあっという間に聖子ファンに引き戻した。左右にステップを踏み、「そして秘密」のパートで口元に人差し指を当てるという、過去2曲に比べて遥かに振りがアイドル然としていたのも勿論理由の1つではあったが、今回のように曲を細かく分析してみて、改めてこの曲がポップスとして高い完成度を誇っていることを痛感した。ユーミンの起伏に富んだ卓越したメロディメーカー振りは勿論のこと、初夏の光景が見えてくるような松任谷正隆のアレンジも、曲先であの甘酸っぱい詞をはめ込んでいった松本隆のプロの技にも頭が下がるばかりだ。

エレキギターの松原正樹と、コーラスの須藤薫が既に天国に召されてしまったことにも、触れておかないわけにはいかないだろう。

調べた限り近年の松田聖子は原曲のキーでこの曲を歌っているようだ。昔に比べて低音は寧ろしっかり出ている模様。もし40年後にこの様に歌われることまで想定されて作られていたとしたら、それはとてつもないことなのだが…

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2022.04.21
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カタリベ
1965年生まれ
宮木宣嗣
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