このシリーズでふれてきたように、資生堂という会社は、一貫して社会での女性のあり方について提言をしてきた。それはトップブランドとして、いつも時代の先をゆく女性像を描かねば、という矜持でもあり使命感でもあろう(ひるがえって、カネボウの CM にはそういった時代をリードするタイプの女は一切出てこない。そこに描かれるのは、むしろ旧守的な、男に寄りかかる女である。これはこれで、アリだが)。 同様に、20世紀後半の日本において、女性の自立とか、感情の開放とかを、いちはやく啓蒙したのはユーミンこと松任谷(旧姓・荒井)由実である。声高な政治家や杓子定規の法律は、いつも後乗りでしかない。 ユーミンがデビューしたとき、しばしば引き合いに出されたのが「シティミュージック vs フォークソング」の構図である。彼女自身も、ギター・長髪・ジーンズ派を「四畳半フォーク」と言って憚らなかったし、高級マンションと安下宿の対比は見た目にも分かりやすかった。 しかし、彼女が主張したかったのは「今のポピュラー音楽の歌詞は〝待つ女〟〝忍ぶ女〟ばかりで、本当の女たちの姿とかけ離れているんじゃないの?」と推察する。どこもかしこも男目線の歌ばかりの日本の音楽シーンに、「アタシたちの恋愛は受身のままじゃない!」「女も反撃するぞ、この野郎!!」という意思をはっきりと広く知らしめたところに、ユーミンの真骨頂がある(『真珠のピアス』のコワ~い歌詞を思い出してみよう)。 ユーミンのアルバムには毎回テーマがある。有名なのは『LOVE WARS(89)』の「恋の任侠」だが、85年の『DA・DI・DA』の場合は「女たちの軍歌」だ。軍歌といっても物騒な話ではない。男の価値観が優先されがちな社会の中で、仕事と恋愛の両立に悩む女たち=同志を、ときに諭し、ときに励ます、そんな内容だ。このアルバムに先行して発売されたのが、85年秋の資生堂CMソング『メトロポリスの片隅で』である。 コスモという名の宇宙をイメージした新製品で、キャッチコピーは「水・金・地・火・木・土・天・冥・海」。ちなみに我々の世代は「~海・冥」と覚えたものだが、これは79年1月~99年3月の間、二つの惑星の軌道の順番が入れ替わるためである。 かつて資生堂とも縁のある平塚らいてうが「元始、女性は実に太陽であった」と述べたが、このキャンペーンソングでユーミンは ♬プラネット(惑星)私に気がついて~ と歌っている。自分という太陽の周りをめぐる「水・金・地・火・木・土・天・冥・海」の惑星たちは、仕事なのか、それとも気になる男性だろうか。広告モデルの楠本裕美が演じる都会派OL・シングルガールの姿はまさに80年代のキャリアガール(懐かしい! 死語)そのものである。 おりしも男女雇用機会均等法がこの年の5月に制定、翌86年4月に施行され、「女子総合職の第1期生」が入社することになっていた。ふと耳をすませば、遠くからコツコツ… とバブル女のハイヒールの足音が聞こえてくる。ユーミンが「都市銀行がつぶれたりしない限り、私の歌は売れると思う」と発言したのは3年後の88年、雑誌AERA のインタビューであった。※2017年2月13日に掲載された記事をアップデート
2019.05.17
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