5月16日

AORの帝王【ボズ・スキャッグスの80年代】通算22回目の来日公演はクラプトンに匹敵!

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Boz Scaggs / Other Roads

ボズ・スキャッグス、22回目の来日公演


現在79歳のボズ・スキャッグスが2月に来日公演を行います。元気ですね。5年ぶりとのことですが、調べたら、1978年の初来日から数えて、なんと22回目です。相当に多い。ちなみにエリック・クラプトンは既に22回で、今年4月にまた来るのでそれが23回目。彼にはわずかに及びませんが、ボブ・ディランの11回、ビリー・ジョエルの12回と比べるとほぼ倍です。オリジナルアルバムの数(19枚)よりも多いのですが、特に80年代は、『ミドル・マン』(Middle Man / 80年)と『アザー・ロード』(Other Roads / 88年)の2作しか出してないのに、日本ツアーは4回もやっています。

それくらいボズは日本人に人気があったということなんですが、逆に10年でたった2作というアルバム数の少なさのほうが気になりますね。しかも『シルク・ディグリーズ』(Silk Degrees / 76年)、『ダウン・トゥー・ゼン・レフト』(Down Two Then Left / 77年)と快調に飛ばしてきて、『ミドル・マン』も全米8位のヒットで “三部作” と呼ばれ、「ジョジョ」などのシングルもヒットして、それまでのキャリアのピークに居たのに、そこから次のアルバム『アザー・ロード』まで8年もの期間があるのです。その間、83年と85年と、2回も日本くんだりまでライブをしに来ているんですから、音楽活動に支障があったわけでもなかろうに、いったいどうしたんでしょう?



ボズ・スキャッグス80年代の迷い


伝聞によると、「音楽をつくることが “職業” になってしまい、ホントの音楽は私から去ってしまった」などと語っているようです。以前、ボズ・スキャッグスとデイヴィッド・フォスター、最初で最後のコラボレーションで、『ミドル・マン』については、B面がつまらない、デイヴィッド・フォスターとの相性がよくなかったんじゃないか、などと書きましたが、『ミドル・マン』をつくりつつ、もう、悩み始めていたのかもしれませんね。

で、83年にはニューアルバムをつくろうとトライしたようですが、「少しもよく思えなかった」と挫折。さすがに85年頃には、「人生に大きな穴が空いているようだ」と不安に襲われ、とにかくアルバムを形にします。ところが今度はレーベルから “待った” がかかった。「シングルにできるような強力な曲がない」というのです。それで再びスタジオに入って…… とやっているうちに、1988年になってしまったというわけです。

8年ぶりの、満を持してのアルバム、さぞかし充実した内容…… と思いきや、これがねー、力とお金はたっぷり注入されているんですが、どうも空回りしてしまっていると言うか。プロデューサー陣には、ベテランのステュワート・レヴィン(Stewart Levine)や名エンジニアのビル・シニー(Bill Schnee)を迎え、ミュージシャンにはおなじみの "TOTO" のメンバーをはじめとする西海岸の一流どころが惜しみなく揃っています。さらにニューヨークからマーカス・ミラー(Marcus Miller)まで招きながら、その豪華な陣容ならではの熟成サウンドが展開されると思いきや、時流に乗り遅れまいと意識したか、シンセサイザーやシーケンサーをやたらに取り入れて、なんとも中途半端な “オケ” ばかり、しかもそれを凌駕できる名曲も名唱も、とんと見当たりません。

“シングルにできる曲” としてレーベルを納得させた「ハート・オブ・マイン」(Heart of Mine / 88年)は、アダルトコンテンポラリー・チャートで3位にはなりましたが、どうもピリッとしないバラードで、私にはちょっと良さが分かりません。ちなみにポップチャートでは35位で、(今のところ)ボズの最後のトップ40シングルだそうです。



日本独特の表現 、AORの帝王


そうそう、 “アダルトコンテンポラリー” (Adult Contemporary = AC)なんですが、ボズは日本では “AOR”(Adult Oriented Rock)の人と認識されていますよね。来日公演のキャッチでも、必ず “AORの巨匠” とか “AORの帝王" などと謳われます。だけど、このAORなるものは日本独特。米国でAORと言えば、まず “Album Oriented Radio” 、すなわちアルバム単位でかけるスタイルのラジオ局のこと。”Adult Oriented Rock” というジャンル名はほぼ使われません。

内容的に近いのが “AC” なんですが、やはりまったく同じではなさそうなんですね。日本でAORといえば文字通り、大人のロック。成熟した歌唱に成熟したサウンドで、アーティストのみならず、プロデューサーやミュージシャンにも重きが置かれる、というイメージです。だからボズの “三部作” はドンピシャだし、たとえばスティーリー・ダンだってAORに入ります。

それに対してACは、”ソフトロック” から “イージーリスニング系” まで幅広く含み、特にバラード系の曲、まさに「ハート・オブ・マイン」のような世界がど真ん中のようです。いみじくも日本語で “おとなしい” を “大人しい” と書きますが、”大人のロック” というよりは “大人しい音楽” という方が近いかもしれません。

たいていのジャンル名は米英からのお下がりなのに、日本独自で命名するくらいですから、日本人はAORが大好きです。AORというジャンルへの日本人の “愛情” みたいなものを、米英人(と括るのは乱暴だけど…)がACに対して持っているとは思えません。日本ではAORの巨匠、あるいは帝王と崇め奉られているボズですが、自国ではどうだったんでしょうね? “ACの巨匠” とは言われてないし、言われても嬉しくない、そんなジャンルのような気がします。

言葉って重要です。“言い得て妙” な言葉があってはじめて、自分の存在意義が認識できることもある。アメリカでは、AORという言葉で自分の音楽を表現してくれる人がいなかったから、ボズは、たとえばレコード売上などに一喜一憂するばかりで、“ホントの音楽” を見失ってしまったのではないでしょうか。

これぞボズの世界「ミス・サン」は、“どストライク” のAOR


そして、“はやり” のサウンドの激変。80年代はシンセサイザーやシーケンサーが一気に進化しました。新しいものが出てきた当初はやはり、人々の興味がそちらにグッと傾きます。うまいミュージシャンたちによるグルーヴなんてものが、急に色褪せて見えてくる。だけどボズは本来そちら側の人です。自分が、TOTOの人たちといっしょに磨き上げてきたサウンドを、真っ向から否定されたように感じたのではないでしょうか? そして悩んだ挙げ句、『アザー・ロード』では、なんとかその時流に追いつこうとする方向へいってしまった。

『ミドル・マン』の後に出した、8年間のブランクに入る前の最後のシングル「ミス・サン」(Miss Sun / 80年)は、TOTOのデイヴィッド・ペイチの作品ですが、音が出た瞬間に、これぞボズの世界、“どストライク” のAORだと感じます。「オレはこれでいいんだ」と開き直って、そのまま堂々と進めばよかったのにね。



結局、『アザー・ロード』から94年にリリースされた次のアルバム『サム・チェンジ 』(Some Change)まで、また6年もかかるんですが、こちらは、傑作とまでは思えませんが、足が地について、自然体でつくれている感じがします。シンセや打ち込みも適度に取り入れながら、サウンドや歌唱には落ち着きがあります。90年代になると、80年代のトンガリ感は失せて、何でもありになってきますが、それがボズの気持ちを和ませたのか、それ以降は2〜3年ごとにコンスタントにアルバムを出していくようになります。

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2024.02.20
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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