5月16日

フェアーグラウンド・アトラクション、百万回のキスの中で最初のキスを…

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フェアーグラウンド・アトラクションのファーストアルバム「ファースト・キッス」が全英でリリースされた日
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photo:SonyMusic  

私の住む町はつい何年か前にかつては宿場町として栄えた通りのアーケードがはずされ、電線がはずされ、その代わりに桃の花が植えられた。その桃も三年か四年目だが、散歩中に今年初の蕾を見つけた。ソメイヨシノはあっという間に花開いて散っていくが、ここの桃は大抵4月の頭のまで楽しめるのでこれから一ヶ月ほどはこの小さな灰色の町も少しだけ華やいで見えるだろう。

初めての蕾を見つけるのは、とても嬉しいことで、桃に限らず、桜にパンジー、タンポポ、デイジー、挙げていったらきりがないが、じっと花が開くまで何日も気にかけ観察してしまう。蕾がほどけ、花びらが開き始めるとあっという間だが、開いてしまうと次々に花開く花たちの側で静かに朽ちて散っていく。

その行程はひとつの人生が凝縮されているようで、多くの人が心引き付けられるだろう。暖かくなるにつれ、雨の日が増えるが、花の開花は毎年待ち遠しい。そしてしっとりとした雨が降るとふと思い出す曲がある。

それはフェアーグラウンド・アトラクションの「ハレルヤ」である。デビューアルバムの終盤を飾り、名盤の余韻を楽しめる最高の一曲。因みに日本版のアルバム名は『ファースト・キッス』だが、原題はもっと長い。

“The first of a million kisses” で、ハレルヤの歌詞にはこの題名が含まれる。“We'll kiss the first of a million kisses” だから、ファーストキッスと言っても、かわいい少女のファーストキッスではなく、これから付き合おうと思っている二人にとって、これから何万回もキスする中の最初のキスという意味なのだ。

さらに説明すると、この歌の主人公は毎日すれ違いざまに目が合うある男性に恋をしていて、どうやら彼の方も自分に気があるらしい。だけれど、二人ともシャイでなかなか互いに声をかけられない。でも、私はいつでもオーケーだからね… 今晩8時、そこの角で待っているよ。という内容。普通だったらポップに歌う内容だろうけれど、これがすごくしっとり歌われている比類なき一曲なのだ。いいな、こんな恋愛の始まり。

歌詞にはソフトクリームを売る移動自動車や住宅の様子やイギリスっぽい景色もさりげなく描かれていて、またヴォーカル、エディ・リーダーのスコットランド訛り? も土着感がありゆったりとしていて、テンポの早い日常とは違う雰囲気が私は大好きだ。40年前にイギリス北部を旅行した時に歴史ある趣の小さな町でストリートミュージシャンの演奏を聴いたことがあるのだが、ジプシー感があって心惹かれた。

フェアーグラウンド・アトラクションの魅力はそのような浮草感と土着感にもある。そもそも「フェアーグラウンド」や「フェア」とは移動遊園地のことで、年に一回くらい近所の公園(といっても日本の公園とは違ってだだっ広い芝生の広場)にやってくるものだ。私も毎年すごく心待ちにしていたイベントの一つで、目が回るような絶叫アトラクションがたくさんあったり、魅力的なスナックがあったりする中、子供(日本人?)相手にずるい店員もいるので、世の中の怪しさを学ぶ場所でもあった。

因みに、現在イギリスにおいてジプシーは「トラヴェラーズ」と呼ばれる。最近のことは知らないが、その40年前にはロンドンの繁華街の隙間にも彼らはいて、一目でそれとわかる(魅力的な)存在であった。
―― といってもイギリスの一般的な教育を受けない彼らは当然のことながら世の中からはタブー視されていたし、今もそうなのだと思う。ただ、歌や音楽という流れて消えていくようなものにおいてこの浮草感を醸し出せる人はとても魅力的だ。

話は大きく外れてしまったけれども、「ハレルヤ」に歌われるような恋の始まりのファーストキッスがとても素晴らしいように、今年初めての蕾の魅力もその諸行無常感を含めいいものだ。散ったあとの花や百万回目のキッスが素敵かどうかはその人次第だけれど、同時にそれは人生の醍醐味というところではないかな。

フェアーグラウンド・アトラクションは残念ながらアルバム『ファースト・キッス』をリリース後、二枚目を待たずに解散してしまった。後にライブアルバムを含め二枚出ているのだが、その貴重な音源の一枚がなんと日本、川崎で行われたライブというのは日本人としてはなんとも誇らしい。バンド最大のヒット曲「パーフェクト」では観客と絶妙な掛け合いでエディもノリノリ。日本人もやるなあ! ライブ版の「ハレルヤ」も原曲を上回るほどの出来で聴かせてくれます。オススメです。

2019.03.17
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カタリベ
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