7月10日にカナダのハードロックトリオ、トライアンフの中心人物、リック・エメットが66回目のバースデイを迎える(2019年)。
思えば、カナディアン HM/HR にはお気に入りのアーティストが多く、ラッシュ、フランク・マリノ、エイプリル・ワイン、ゼブラ、ラヴァーボーイ、アンヴィル等々、枚挙にいとまがない。
北米大陸に位置するカナダは、長い国境を隔てたお隣アメリカの影響を受ける一方で、フランス、イギリスによる覇権争いで植民地支配を受けてきた歴史的な背景もある。カナダのバンドに特別な魅力を感じるのは、そうした国の成り立ちを投影するかのように、アメリカらしい大陸的なスケール感のあるサウンドと、ヨーロッパ的な憂いのあるサウンドが、多くのケースで同居しているからだ。
中でもトライアンフは、僕が敬愛してやまない名バンドだ。リック・エメット(ギター / ヴォーカル)、マイク・レヴィン(ベース / キーボード)、ギル・ムーア(ドラムス / ヴォーカル)の3人が創り出すサウンドは、骨太なハードロックをベースにしながらも、繊細で美しい旋律を随所で響かせる。
核となるのがリックの職人的なギターワークだ。ロックギターのダイナミズムに溢れたエレクトリックでのプレイと、クラシック、ジャズ、ラテンをはじめ、幅広い音楽的素養に裏打ちされたアコースティックでのプレイの融合が最大の魅力だ。さらに、リックの澄み渡るハイトーンヴォイスとギルのエモーショナルなヴォイスを使い分けた、楽器兼任によるダブルヴォーカルも大きな武器となっている。
76年のデビュー以来、一貫して良質な作品をリリースし、地道にツアーを重ねて80年代に全米マーケットも席巻。2008年には本国最大の音楽賞、ジュノー賞で殿堂入りを果たした。
そんなトライアンフを僕が知ったのは、ラジオで80年のアルバム『プログレッション・オブ・パワー ~ 重爆戦略』を聴いた時で、本格的に聴き込んだのは次作『アライド・フォーセズ ~ メタル同盟』からだった。抜群のドライヴ感を持つタイトル曲は、当時から何度リピートしたかわからないほどだ。
動くトライアンフの姿を初めて見たのが、ベストヒットUSA で流れた82年『ネヴァー・サレンダー』からのシングル「ワールド・オブ・ファンタジー」の PV だった。日本での知名度を考えると異例だが、全米チャートをソースにした同番組では必然的にオンエアの対象になったのだ。次作『サンダーセヴン』収録の「スペルバウンド」も同番組で真っ先に PV がオンエアされたのを記憶している。
そんな中、85年に発表されたのが2枚組ライヴアルバム『ステージズ』だ。派手なライティングに彩られた大規模なステージセットのジャケット写真を見て、トライアンフのライヴを生で体感してみたい! という想いは高まった。この頃、無風状態の日本でもようやく動きがあり、リックがプロモーション来日を果たす。
しかし、『スポート・オブ・キングス』 『サヴェイランス』と秀作を次々とリリースしたにも関わらず、一向に来日公演決定のニュースは届かなかった。そして88年、80年代終焉の足音に合わせるかのように、何と中心人物であるリックが脱退してしまう。
日本と海外での人気の温度差に関しては、AC/DC 等さまざまなバンドで取り沙汰されたことだが、トライアンフの場合、日本人好みの音楽性ながらも人気が沸騰せず、結果として一度も来日公演が実現しなかったのはなぜだろうか? 音楽業界の大人の事情は一旦置いて、この「謎」を考えてみたい。
ひとつは彼らが特異なトリオ編成だったことが挙げられるだろう。HM/HR の場合、圧倒的なフロントマンのヴォーカリストやギターヒーローがフィーチャーされるジャンルだ。楽器と兼任のダブルヴォーカルという彼らの個性が、かえって焦点をぼやかしてしまったのかもしれない。
さらに、あくまでも音楽で勝負する玄人好みのバンドゆえに、ヴィジュアル面等での派手さを持ち併せていなかった。HM/HR がメインストリームの音楽として活況を呈し、個性的なバンドが次々と登場する状況下では楽曲を聴かせる以前に、結果的に存在自体が埋没してしまったように思える。
当時の露出で惜しまれることがひとつある。彼らは83年に伝説の US フェスティヴァル2日目、ヘヴィメタルデイに出演している。その模様が地上波でオンエアされたことは日本での HM/HR ブームを勢いづかせたが、不運にもトライアンフの映像はカットされてしまった。
それは彼らにとって大きな機会損失だったと思う。今、ネットでそのライヴの模様を見ることが出来るが、熱演と大観衆の熱狂ぶりをみていると、もしあのときテレビでライヴが放映されていたならば… 何か流れが変わっていたかもしれない。
トライアンフは、リック脱退後、結局93年に解散。ソロ活動を行ったリックと他の2人の間でバンドの権利問題を巡り争った時期もあったが和解し、2008年に再結成してライヴも行った。2016年にはリックのソロバンド名義で、3人による久々のレコーディング楽曲も発表している。
80年代に日本の HM/HR ファンが置いてきた大きな忘れ物、「トライアンフ来日公演」。その望みを叶えることはできるのだろうか。ライヴビジネス隆盛の中、同じバンドが来日を繰り返し、マイナーなバンドまでもが来日するご時世の今だからこそ! 彼らが何らかの音楽活動を続ける限り、一縷の望みに賭けてみたい。
2019.07.09
YouTube / TriumphAlliedForces
YouTube / TriumphAlliedForces
Apple Music
Information