ガンズ・アンド・ローゼズの「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」のPVは、NYの午前4時、LAの午前1時という最悪の時間帯に一回オンエアされただけにも関わらず、問い合わせが殺到、その後MTVで流れまくり彼らが一夜にして大スターの座に就いたのはいまや伝説となっている。
監督はナイジェル・ディック。続く「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」、「パラダイス・シティ」(1988年)、「ペイシェンス」(1989年)などのPVも彼が監督していることから、デビュー間もないガンズを映像面から支えていた一人であるとわかる。
このPVではウィスキー・ア・ゴー・ゴーでのライブ映像が中心となるが、そのバンド演奏とは別にサイドストーリーが用意されている。これがちょっと謎解きが必要な「???」な内容のもの。
この傑作PVを作るうえで参考にした映画が「3つ」あることを、ガンズの当時のマネージャーであるアラン・ニヴェンが暴露しているので、そのヒントに基づいて以下書いていく。
まず何と言ってもアクセル・ローズが椅子に縛り付けられて複数のモニター画面を見せられている拷問シーンが鮮烈な印象を残す。
これは『時計じかけのオレンジ』の「ルドヴィゴ療法」(暴力映像を見せ続け、暴力を見ると吐き気を催すように「改造」する拷問)を忠実に再現したものらしく、LAメタルの良き(悪しき?)伝統を引き継いで「セックス、ドラッグ&ロックンロール」で売っていたガンズにとっては、凶悪なイメージを倍増させることに成功している。非行青年アレックスとアクセルが重なり合うだけでも実にスタイリッシュではないか。
ここで少し気になるのは、その拷問場面でモニターが複数あることで、アクセルが部屋で女(グルーピー?)とテレビを見ているときもモニターは複数ある。おまけに目は虚ろ。
これはおそらくニヴェンの挙げた二つ目の映画『地球に落ちて来た男』の影響だろう。デヴィッド・ボウイ演じる宇宙人も、趣味は複数モニターによるTV鑑賞で、これで孤独を癒していた。
SF作品が二つ続いて、では最後の一本は何なのかというと、これはアメリカン・ニューシネマの傑作『真夜中のカーボーイ』である。アクセルがバスを降りて真夜中のLAの街頭に降り立つ冒頭のシーンが、「ジゴロで飯食ってきます」と意気揚々とNYに降り立つジョーに対応している。
アクセルは口に小麦か何かを咥えて中西部出身であることを自らパロディーし、ジョーは時代錯誤のカウボーイルックであり、ともにカッペ丸出しだ。
さて、影響を与えた3本の映画が分かったところで、ちょっとした結論をつけてみよう。
白熱のライブシーンに対して、サイドストーリーの方のアクセルの目がどこか終始虚ろなのは、彼が一種の「宇宙人」だからではないか。
夜のLAの街角に降り立ったカッペのアクセル青年の視点は、この大都会においては宇宙人(alien)のようなものだ。ましてや「レッド・ツェッペリンの再来」とまで言われた破天荒なロックンロール・ライフを送った彼らが、喧噪の最中、ときおり激しい寂寥感に襲われたのは想像に難くなく、そのあたりが『地球に落ちて来た男』の孤独な宇宙人ボウイの影を引きつつPVに投影されたとみて間違いないだろう。
ここで思い出したいのは、売れっ子のスティングでさえも「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」で「僕って宇宙人 まったくもって宇宙人 紐育の英吉利人」(※意訳です)と寂しげに唄っていたり、レディオヘッドも名曲「サブタレニアン・ホームシック・エイリアン」において、上空からホームムービーとして地球を撮影している宇宙人を唄った。
ロックというのはアウトサイダーの音楽であり、根底にあるのは世界から疎外された感覚であるから、その視点は往々にしてエイリアン風になる。『宇宙人ポール』で、アメリカかぶれの宇宙人が焚火を囲んでマリファナを吸う『イージー・ライダー』のパロディーをやった気持ちも分かろうというものだ。
疎外された若者が見る世界と、宇宙人が見る世界は、遠いようで実は結構近いのだ。「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」のPVから読み取れるのは、そうしたアウトサイダー=宇宙人の視点ではなかろうか。
2017.09.15
YouTube / GunsNRosesVEVO
YouTube / StingVEVO
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