9月30日

トム・ウェイツの愛すべき臭気「レイン・ドッグ」と僕のバーボン修行

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トム・ウェイツのアルバム「レイン・ドッグ」が全米でリリースされた日
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photo:UNIVERSAL MUSIC  

酒が呑める! なんと甘美な響き!! 最近、自分がアル中なんじゃないかと思えるほど、よく呑んでいる気がするが、これでも二十代の頃は、かなり弱かった。そもそもビールを旨いと思ったことがなかったのだ。少しでも旨くなるんじゃないかと思い、飲み会にハチミツを持っていってビールに入れてみたが、溶けない…… ということを学んだだけの青二才の時代。

しかし、ロックに酒は付き物だ。ウィスキーくらい呑めないとロックファンとして恥ずかしい。そんなワケで、最初に手を伸ばしたのがバーボンだった。なんといっても、キース・リチャーズの好きな酒だ。そして、そのキースも参加した、当時の愛聴盤、トム・ウェイツの『レイン・ドッグ』にも「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」という曲があった。

この『レイン・ドッグ』が自分のアンテナに引っかかったのには、印象的な理由がある。当時、『ミュージック・マガジン』誌に評論家数名による新譜のクロスレビューが掲載されていて、レビューの最後には10点満点の点数が付けられていた。0点というのはめったに見ないが、それでも編集長の中村とうよう氏は、バッサリ0点を付けることしばし。

そして氏は、『レイン・ドッグ』に、それまで見たことのない点数を付ける――「-10点」。マイナス!? いわく、“嫌悪と言うより憎悪している…… 下着を10日ほど着替えず、それを自慢しているような歌いぶりが10メートル先まで臭気を放つ”。ずいぶんな言われようだが、こちらは活字という権威に反抗したいお年頃だ。これは聴かないとダメだろう。

ジム・ジャームッシュの映画『ダウン・バイ・ロー』のオープニングに「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」が使われたころ、ようやくこのアルバムをゲット。聴いてみたら、やはりハマった。唯一無二のダミ声に、何を叩いているのかよくわからない原始的なビート、ブルージーなギターリフ。ロックの範疇でこんな音楽は聴いたことがなかったので衝撃的でもあった。何より、自室でバーボン修行をしながら聴くには格好の BGM だ。

とはいえ当時は700ml 瓶があれば、ひと月はもつほどのチビチビ呑み。フル・オブ・バーボンな体になるには程遠かったが、学生だったし、経済的にもこれで十分だった。

それでも周囲には呑み助が確実にいた。バイト仲間のサトウ君(仮名)とクロサカ君(仮名)とは同い年だったが、どちらも酒豪で、顔色ひとつ変えずに呑む。アルコールが入ると瞬時に赤色人種と化す自分とはエラい違いだ。

バイトを終えたある夜、サトウ君ちで呑もうということになり、自分とクロサカ君は、キース・リチャーズの大好きなジャックダニエルを買って、彼の部屋に泊まり覚悟でお邪魔した。当然のことながら、自分は一杯だけ呑んでスリープモードに。しかし、その後、サトウ君とクロサカ君は競るように急ピッチで呑んだという。呑み助のプライドを懸けたフル・オブ・バーボンな戦いだったのかもしれない。

明け方、地鳴りにも似たゴボコボという音で目が覚めた。なんだかよくわからないが、怖い音だったのは覚えている。すでにサトウ君もクロサカ君も熟睡していた。が、クロサカ君の口から、いわゆる、その、お好み焼きの素的な汁があふれていた。生まれて初めて体験する、他人の寝ゲロのサウンド&ヴィジョン!そして当然ながら、ヒドく臭くて、もう眠れるわけがない。10メートル先まで放たれる臭気ってのは、このことだよ、とうようさん!

ほどなくふたりも目を覚まし、事態を把握する。それでもクロサカ君は、窓の外を眺めながら「清々しい朝だ」と、ひと言。図々しいほど悪びれない、その姿勢にトム・ウェイツにも似た漢気を覚えたが、そのひと言にとてつもなくムッとしながら二日酔いの状態でカーペットを雑巾でゴシゴシしているサトウ君の手前、黙っておいた。

ダーティな話で終わらせるのもナンなので、トム・ウェィツについてもう少々。この人の曲は『ダウン・バイ・ロー』の他、頻繁に映画に使われるほど、実に映像的なのだが、中でも個人的に大好きなのは、アルバム『フランクス・ワイルド・イヤーズ』収録の「夢見る頃はいつも(Innocent When You Dream)」と、映画『スモーク』の感動的なラストシーンとの融合だ。『スモーク』ではこの場面だけモノクロになるが、トム・ウェイツの歌声に、オールドスタイルのモノクロ映像はよく似合う。そして、泣ける。

2019.08.24
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カタリベ
1966年生まれ
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