9月21日

走り続ける田原俊彦、トシちゃんの歌唱力を飛躍させた2人のキーマンとは?

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エンターティナーの先駆け、田原俊彦


近年、私が田原俊彦 “トシちゃん” を久々に意識したのは、デビュー40周年記念ということで、2019年3月1日に彼がゲスト出演したNHK『あさイチ』プレミアムトークを観た時のことだった。

私は“トシちゃん” を追い続けてきた熱烈なファンではないのだが、私が小学生時代、何回も再放送していた『3年B組金八先生』はよく見ていたし、好きな歌番組でいつも耳にしていたので、親近感はかなりある。その『あさイチ』もたまたま見た訳ではなく、番組表で名前を見て反応し、わざわざ録画をして観るほどに、興味もある。

その興味は、“懐かしさ” だけではない。正直、80年代、人気絶頂期の頃は、アイドルとしての華やかさはすごいと思いつつも、私が小学生だったこともあり、表面的な部分しか見えず、いつも「アハハ」と笑っているような“軽い” イメージと、歌唱力が “う~ん” というイメージが強く、どちらかと言えば、自分の中の評価はそれほど高くなかった。

しかし、大人になってYouTubeで当時のパフォーマンスを見た時に、踊りの切れ味のあまりのすごさに驚き、その動きに見惚れてしまった。私の中の “田原俊彦” 株が急上昇した。こんなに高い技術を、「アハハハ!」とサラッと魅せていたのかと。

そして、口パクではないというのが本当にすごいのだ。私自身、歌を歌う身としては、歌う際の呼吸がいかに大事かという事を痛感しており、それを、かなり激しく踊りながらやってのけているのだから、その訓練たるや、想像もつかない。

80年代当時、小学生だった私は、風見慎吾がブレイクダンスを踊りながら、口パクでなく歌っていたのをすごいと思っていたが、それは見た目にかなりわかりやすい例だったからで、トシちゃんはさりげなく、スゴイことをしていたのだ。『あさイチ』を観ながら、近年脚光を浴びている、三浦大知や、ISSAという素晴らしいエンターテイナーがいるが、その先駆けだと改めて思った。

目を見張る歌唱力!完成形は「抱きしめてTONIGHT」


そんなトシちゃんの歌って踊るパフォーマンスから、踊りを切り離し、歌だけに注目するのは無粋ではあるのだが、実は… と言っては失礼だが、トシちゃんはある時点から、劇的に歌唱力がアップしているのだ。

トシちゃんは、数多くの洗練されたかっこいい楽曲に恵まれているが、代表曲と言えば、デビュー曲の「哀愁でいと」と、人気再燃のきっかけになった33枚目シングル「抱きしめてTONIGHT」を挙げる人が多いだろう。

「哀愁でいと」を改めて聴くと、これはこれで “トシちゃん型” として完成しているとも言えるのだが、これを起点に「抱きしめてTONIGHT」を聴くと、感動的に歌が上手くなっている。

ビブラートは、歌唱力を視る上で、一つの視点でしかないのだが、少なくとも、デビューから5年ほどの “トシちゃんの歌” からは、かけ離れた技術だった。しかし、当時小学生だった私でも、“ん? ビブラートがかかるようになった” と思った瞬間があったのを記憶していた。それは、「抱きしめてTONIGHT」よりは前という記憶だったので、きっかけがどこかを確かめたく、「抱きしめてTONIGHT」を完成形の基準として、改めて、全シングル曲をたどってみた。

田原俊彦の声に力を入れたキーマン、久保田利伸


大きな変化のきっかけだと私が思う、キーマンの一人、それは、久保田利伸だ。久保田作曲の「It's BAD」は有名だが、その一つ前、24枚目シングル「華麗なる賭け」(作詞:吉元由美 編曲:新田一郎)も久保田の提供曲だ。「華麗なる賭け」では、声に力を入れようとする努力が見られる。“あのトシちゃんの声” に力が入りつつあるのだ。

恐らく、久保田の歌に相当影響されたのだろう。デモテープの影響力というのは、本当にかなりのものだと思う。この時点では、少々無理に力を入れているために、ピッチは危うくなっていて、一聴すると前シングル曲より歌唱力が落ちているように聞こえる部分もあるのだが、呼吸法を変え始めたことがわかる。

それを踏まえての「It's BAD」(作詞:松本一起 編曲:船山基紀)なので、新境地のラップは、“あのトシちゃんの声” ではなく、力が入った声で挑戦できている。ラップでのリズムの乗せ方も、久保田のデモテープで、彼なりにかなり練習したのではないだろうか。これら2曲が85年。

田原俊彦の声の表情を豊かにしたキーマン、宇崎竜童


さらに大きくジャンプしたのは、宇崎竜童提供曲、27枚目の「ベルエポックによろしく」(作詞:阿久悠  編曲:大村憲司)。面白いことに、『山口百恵の姉御シャウト「ロックンロール・ウィドウ」までの道のり』でも書いた、山口百恵の歌唱力に影響を与えた人物が、ここにも登場した。宇崎節のロック調の曲によって、山口百恵の時と同様に、こぶしや、様々な節回しの技術が身に付き、音を包めるようになって、声の表情が豊かになっているのだ。

また、以前より深い息が吐けるようになっていて、自然なビブラートが出現している。久保田の例も含め、今回、証拠となる文献は見つけられなかったので、想像の域を出ないのだが、音を聴く限りでは、これも、デモテープの影響力の大きさの結果だと思う。

次の28枚目シングル、同じく、宇崎提供の「あッ」(作詞:阿久悠 編曲:大村憲司)を聴いた時に、“あッ” と驚いた。不安定な歌唱をする代表のように思われている歌手の、安定感のある発声!深い呼吸と、頭の奥からの共鳴。よくモノマネされる、語尾に「はぁん」となる歌い癖は残っているのだが、以前とは比べ物にならないほど、全体的に声に安定した力が入っている。

完成形のビブラート、歌唱力が大ジャンプするも紅白歌合戦に落選…


そして、リリース後のテレビ歌唱の動画で、ほぼ完成形のビブラートを聴くことができた。シングル24枚目にして変化のきっかけをつかみ、歌唱力の大ジャンプを果たした声を聴いて、“歌って、努力でここまで上達するんだ。あのトシちゃんでも…” と、たった今、成長を目の当たりにしたかの如く、心底、感動した瞬間だった。

上記2曲が86年。皮肉にも、彼の歌唱力の完成形にさらに近づく翌87年に、紅白に落選する。しかし、人気再燃のきっかけがドラマだったとは言え、88年の「抱きしめてTONIGHT」のヒットには、売り上げ的には下降線をたどっている時期に、多くの人の記憶には薄い曲達の中で、劇的に成長した歌唱力も影響しているのではないかと、私は密かに思うのである。

ちなみに、今回、トシちゃんの曲をビブラートに注目して繰り返し聴いている間に、テレビ画面の中で、雨が降っている映像で、トシちゃんのビブラートが響いている記憶が蘇った。『ラジオびんびん物語』のエンディングテーマのシーンだ。

私が小学生当時、“ん? ビブラートがかかるようになった” と思った曲というのは、31枚目シングル「どうする?」だった。そして、分析の結果、現在の結論的にも、オリジナル音源での彼のビブラートの完成形は、この曲ということになった。

還暦を迎えても一流のエンターテイナー! 田原俊彦の底力


2019年に、かつて『レッツゴーヤング』にレギュラー出演していた彼の聖地、NHKホールで行われた40周年記念ライブが、フジテレビTWOで放送された。そのステージの上で、オーラを出し続けているトシちゃんに鳥肌が立った。

さすがに長時間のステージでは惜しげもなく(笑)、苦しそうな表情を見せるのだが、それをもパフォーマンス後には自分で笑いに変える “魅せる技”。不遇な時期を過ごしても、エンターテイナー “田原俊彦” を演じ続けてきた底力だ。テレビの前で、何度も拍手を送った。

それから2年が経ち、彼は現在60歳!

還暦になる1日前、2月27日にNHK BSプレミアムで『田原俊彦 “還暦前夜!” スペシャルワンマンライブ』が放送された。今なお、レベルの高い同じ振り付けで歌い、踊るプロ意識の高さ。中でも、田原俊彦曰く、“田原俊彦サウンド―― 魅せるソウルフルな曲” を提供してきた “筒美京平メドレー” が圧巻だった。ライラックピンク色のスーツを身にまとい、曲に乗って軽やかなステップを踏み、頭の上までスッと足を上げながら歌う姿に釘付けになる。

“一流” で居続けている源には、エンターテイナーとしての探求心と冷静な自己分析、そして、彼を見守り続けてきた母親への愛情があることを、番組内のトークで窺い知った。

4枚目シングル「ブギ浮ぎI LOVE YOU」のサビの最後「♪ HA-HA-HA-HA」と軽く笑いとばした後に、「♪ 馬鹿だネ~」と真剣な声色に変えて歌う。まさに、この両面が田原俊彦の本質ではないか。その姿で、今も走り続ける。

追記:
今回の執筆に当たり、参考資料提供の依頼に、快くご協力いただいた、トシちゃんファンの方々に、この場をお借りし、心からの感謝を申し上げます。



※2019年9月21日に掲載された記事をアップデート


2021.02.28
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