第1回:シティポップが輝いたFMラジオ黄金時代
1980年代のラジオカルチャーは僕らに色々なことを教えてくれた。FM雑誌、エアチェック、そしてラジオDJが水先案内人だった。そこから40年以上の時を経た現在においても、FM雑誌『FM STAITION』とのコラボレーションでオムニバスCDがリリースされるほどその影響力は大きかった。本稿は、そのコラボCD『FM STATION 8090 ~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP』でDJを務めた小林克也に、当時のラジオカルチャー事情やDJとしての在り方など、多岐にわたるテーマでインタビューした記事を再構成したものである。
シティポップ流行の時代背景とは? ―― FM雑誌が続々と創刊し、エアチェックのカルチャーが花開いた1980年代、シティポップはどのように形成されて行ったのでしょう?
小林克也(以下:克也):1960年代、アメリカでは、ビートルズの登場で音楽シーンが一変しました。ミュージシャンたちもダンスミュージックだけではなく、芸術志向が高まっていきます。ポップスにインテリ層が参加するようになって、社会的なメッセージも含め、広がりを見せ、音楽を志す人たちは、そういった高い望みを持つようになります。マイルス・デイビスなんかがやっていたモダンジャズまで少なからぬ影響を受けています。子どもたちだけがターゲットではない社会的な問題を歌にするアーティストも出てきたりして、これも音楽が広がる大きなきっかけでしたね。
そんな中でレコード会社にすごく大きな変化が訪れます。1971年にキャロル・キングの『タペストリー』というアルバムが何百万枚と売れました。そうすると何十億という売上げになる。1枚のアルバムがそれだけのお金を動かすようになったんです。そうなってくると、レコード会社には映画会社などの大資本も入って、映画からヒット曲を生み出そうともします。つまり、この時期に現在に至るまでのミュージックビジネスの下地が完璧に出来上がったということです。
アメリカのこのような流れが日本にも浸透し、さらにウォークマンやビデオという新たなツールで音楽を楽しめるようになる。シティポップの流行にはそんな時代背景がありました。そんな時期、1981年に井上鑑さんがプロデュースして大ヒットした寺尾聰の『Reflections』は、画期的なアルバムでした。録音の方法とか、ファンキーな要素を入れるとか、独特の感性がありました。このアルバムでやっているボーカルの多重録音なんかも井上鑑がスタートさせたもので、当時はみんなが真似しました。彼の功績はすごいんです。
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そのまま曲名を告げるDJはダサいからね ―― 今回の『~NIGHTTIME CITYPOP』もこの『Reflections』に収録されていた「出航 SASURAI」から幕を開ける。小林克也のナレーションは、まさしく、この『Reflections』へのオマージュ、そして寺尾聰への賞賛だった。ちなみに小林克也は本CDの台本も執筆している。これがこだわりでもある。
克也:ナレーションの台本って制限がある。だけど、もっと自由にしたい。制限の中で最初の寺尾聰さんの曲をどのように紹介しようかと思った時に、彼が手術で胃の8割を無くし、その回復中に音楽制作を始めた。その時の曲が同じ『Reflections』に収録されている「ルビーの指環」だという話を入れました。こういうエピソードをさりげなく取り入れるのもDJの技なんですよ。
僕は子どもの頃から海外のラジオをいろいろチェックしていた。短波が聴けるようになって、いろいろな国の番組も聴きましたが最終的にはアメリカの番組にはかなわない。だからFEN(現:AFN / アメリカ軍放送網)ばかりを聴いていました。そうすると、向こうのスタイルというのがありますよね。日本では “サザンオールスターズの「いとしのエリー」です” と必ず曲紹介をしなくてはならない。だけど僕は、例えば吉田拓郎の「結婚しようよ」を紹介するときも、曲名をそのまま告げるのではなく、
男「君のことを待っているよ」
女「いつまで待つの」
男「じゃあこの曲を聴いて」
っていう流れから「♪君の髪が肩まで伸びて~」と曲が始まるのがいい。それを作るのがDJの役目だと思っています。みんなが聴きたい吉田拓郎の曲なのに、そのまま曲名を告げるだけではダサいからね。例えばビートルズの場合だと、“それではビートルズの「ヘルプ」です” って言ってから「♪Help!」って曲が始まるわけですよ。こんなダサいことないでしょ(笑)
だからこういう場合は「ジョン、ポール&ジョージ、リンゴで行こうか!」とか、ビートルズというワードを避けるとか、そういうのは当たり前。これがエンタテインメントなんです。僕は向こうのDJがそういうスタイルだということをわかって欲しかった。僕もそうあるべきだと思っていた。例えば “サンフランシスコで大変な事件が起きました。詳しくはCMの後で” とやるでしょ、あれもアメリカがやり始めたことで。
夜のナレーションといえば城達也さん? ―― 小林克也のナレーションは単なる曲紹介に終始するのではなく、常に物語性を感じさせてくれる。今回は『~NIGHTTIME CITYPOP』ということで、これに加え、気を配った部分があるという。
克也:僕は “NIGHTTIME” 担当。だから夜っぽいように “ささやき40%” のようなスタイルでやりました(笑)。夜のナレーションといえば『JET STREAM』(現:TOKYO FM)の城達也さんを思い出す人もいるかもしれないけど、実は城さんのスタイルは僕と違う。彼はささやかない。あの人は声のトーンを落として2〜3メートル先の人に話しかけるというスタイルです。彼は、収録時にはいつもドリンクを用意して、喉をウェットにしていました。
声に対するこだわりってありますよね。例えば、人間、本音が出るとき、低い声になる。“実は僕は……” みたいにね。スネークマンショーの伊武雅刀はその声なんですよ。これをうまく使うことによって、物語性が生まれる。田村正和なんてすごいから一層トーンを落として、“僕はそんなこと知らないよ……” みたいにね。それを拾う音声スタッフ大変だけど。彼も自分の良さがわかっていて、ああいう距離感でしゃべると自分の顔とスタイルが効果的に映るという計算があると思います。距離感はすごく大事なんです。
それぞれ違った個性を持つ「NIGHTTIME CITYPOP」 ―― こういう部分も含めて、収録されている楽曲の素晴らしさが生きるということだろうか。『~NIGHTTIME CITYPOP』に収録されている楽曲への思いはどのようなものなのだろうか。
克也:今回のアルバムに収録されている曲は、シティポップというジャンルの中にあるけれど、それぞれが違った個性を持つ都会の音楽として楽しむことが出来る。それぞれの個性がひしめき合う中でも、大貫妙子だけは、ジャンルにとらわれず相変わらずマイペースな印象があるね。
女性シンガーだと、今井美樹もオリジナリティが高い。昔、彼女に “スマイリングボイス” と言ったことがあってね。そうしたら嫌われちゃって(笑)。というのは、英語で “スマイリングボイス” というのは笑っている声となりますよね。日本人だと玉置宏さんの司会の声かな。あれ、笑っている声ですよね。明るくて声が笑っている。今井美樹も同じようにスマイリングボイスなんですよ。だけど、ここに収録されている「Boogie-Woogie Lonesome High-Hee」では抑えている。そこがいい感じになって仕上がっていますね。
稲垣潤一はいいなと思っていました。寺尾聰も自分のスタイルを守っている。あとブレッド&バターかな。彼らの、俺たちはこういうことしかやらないからというスタイルがいいんです。だからスティーヴィー・ワンダーが曲を提供してくれた。彼はそういう人ですよね。気に入った人間には提供する。「♪I just call~」っていう「心の愛」はブレバタがスティーヴィーからもらった曲なんです。
―― このような1980年代に成熟していったシティポップの海外における再評価について小林克也はこう語る。
克也:若い人でもシティポップを聴く人間がたくさんいます。やっぱりきっかけが大事ですよね。例えば、東南アジアでも日本のシティポップが盛り上がっているという情報がきっかけになる場合もある。菊池桃子もアジアでシティポップが受けていると話していました。アジアでも自分の楽曲をネットで観たり聴いたりしてくれる人がいて反響があると。かつての元気のあった日本だからああいうカルチャーが生まれたんだけど、それが今、経済的に成長している国々で聴かれている。そういう現状からも今以上に広がりを見せる可能性もあります。
Information FM STATION 8090 ~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP by Katsuya Kobayashi
01:出航 SASURAI / 寺尾 聰 02:ピンク・シャドウ / ブレッド&バター 03:Boogie-Woogie Lonesome High-Heel / 今井美樹 04:ドラマティック・レイン / 稲垣潤一 05:セカンド・ラブ / 来生たかお 06:シルエット・ロマンス / 大橋純子 07:君のハートはマリンブルー / 杉山清貴&オメガトライブ 08:さよならのオーシャン / 杉山清貴 09:真夜中のドア~Stay With Me / 松原みき 10:都会 / 大貫妙子 11:ルージュの伝言 / 絢香 12:CHINESE SOUP / 土岐麻子 13:渚のモニュメント / EPO 14:HAPPY ENDでふられたい / 杏里 15:オリビアを聴きながら / 杏里 16:midnight cruisin' / 濱田金吾 17:アクアマリンのままでいて / カルロス・トシキ&オメガトライブ *本作は、架空のラジオFM局から流れる番組という設定のため、DJのMCと音楽が混ざるMIXの音源となります。 Previous article:2023/5/3
特集 FMステーションとシティポップ
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2026.05.09