小林克也がMCを務めるNIGHTTIME CITYPOP
前回ご紹介したカマサミ・コングのナビゲートによる『FM STATION 8090~GOOD OLD RADIO DAYS~ DAYTIME CITYPOP』に続けて聴きたいのは、英語ナレーションの日本人DJの草分けである小林克也がMCを務める『FM STATION 8090~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP』。
セレクトされている内容は、疾走感抑えめのアンニュイなミッドチューンやしっとりバラード系が多めの並び。その分80’sへのコダワリも薄めで、ベテランと若手の振り幅も大きい。
竹内まりや「Plastic Love」や、ここにも収録されている松原みき「真夜中のドア~Stay with Me~」がバズって世界的潮流となったシティポップ。でもいま海外でウケているシティポップと、日本で親しまれてきたシティポップには、案外テイストの違いが大きい。
シティポップ、海外と日本における認識の違い
海外でいうシティポップは、DJたちがダンスフロアで広めたと同時に、ヒップホップのトラックメイカーや宅録マニアたちがソースに使ったりして、若い世代に拡散した。
当然ながら日本語の歌詞への理解は薄く、タイトルやサビの短い英語のフレーズからイメージを膨らませている。でも言ってしまえば、“踊るため”の音楽として機能しているから、グルーヴやサウンドの質感を共有して広めているワケだ。極論すれば楽曲至上主義で、特定のアーティストへのコダワリも低い。
対して日本では、フォークロックやニューミュージックからシティポップが生成されていく黎明の時代から接している世代がいて、音楽的指向も歌詞への思い入れも深く、支持する年齢層も平均的に高い。
自ずと各アーティストの音楽的背景も見えてくるワケで…。でもそれが良い悪いではない。バンドブームやJ-POPの隆盛の大波に藻屑と消えてしまったシティポップが、海外のDJ諸氏の活躍で人気復活し、今がある。そういう相互理解こそが重要なのだ。
鈴木英人や『A LONG VACATION』でお馴染みの永井博のイラストが、何故今も大人気なのか? アナログやカセットの復活はどうしてか? 当時を知る世代にはノスタルジーだが、それが若い世代にも受け入れられた理由は?―― それらはすべて連動している。
寺尾聰「出航 SASURAI」でアダルトにスタートするNIGHTTIME
こうしたポイントを踏まえつつ、今一度『FM STATION 8090 ~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP by Katsuya Kobayashi』を聴いてみよう。81年のシンボル的ヒット曲「ルビーの指環」を生んだ寺尾聰のアルバム『REFLECTION』からの「出航 SASURAI」で、アダルトにスタート。
デビュー55周年間近のレジェンド、ブレッド&バターの代表曲「ピンク・シャドウ」がこれに続くが、この曲は山下達郎のライヴカバーヴァージョンでも人気が高い。
筒美京平が書いた稲垣潤一の出世曲「ドラマチック・レイン」からは、ほんのり哀愁漂うメロウな歌謡ポップ路線へ。「セカンド・ラブ」は来生たかおが中森明菜に提供したヒット曲として有名だが、これはその作者ヴァージョン。続く「シルエット・ロマンス」も、来生が大橋純子に書いたヒットナンバー。
実はこの2曲、共に来生が作った楽曲という以上に因縁がある。元々「セカンド・ラブ」という曲は、「シルエット・ロマンス」をヒットさせた大橋に歌ってもらうつもりでストックされていたのだ。この2曲の並びが極めてナチュラルに馴染んでいるのは当然と言えるが、その辺りの裏事情を知っていると、より深い味わい方ができるだろう。
杉山清貴、カルロス・トシキ、オメガトライブ・ファミリーが積極的に収録
また、今回リリースされる2枚のアルバムには、オメガトライブ・ファミリーと言える各アーティストが積極的に収録されているのも面白いところ。
“DAYTIME CITYPOP”には杉山清貴&オメガトライブと1986オメガトライブが選ばれていたが、この“NIGHTTIME CITYPOP”には杉山オメガ、カルロス・トシキ&オメガトライブに加え、杉山ソロまで入っている。ちなみに “DAYTIME” 所収の菊池桃子も、同じ事務所に籍を置くオメガトライブの妹分的存在だった。
前述した松原みき「真夜中のドア~Stay with Me~」や大貫妙子「都会」は、まさに若いシティポップファンの人気曲。「都会」は77年のセカンドアルバム『SUNSHOWER』からのナンバーだが、それが絢香や土岐麻子が歌う松任谷由実の初期名曲「ルージュの伝言」「CHINESE SOUP」の呼び水になっていることも見逃せない。
今蘇るシティポップ、懐かしアイテムだけに終わらせないという心意気
このように時代や世代を自在に横断しつつ、往年のシティポップ名曲を今に蘇らせている『FM STATION 8090~GOOD OLD RADIO DAYS~ DAYTIME CITYPOP by Kamasami Kong』と『FM STATION 8090~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP by Katsuya Kobayashi』。
カマサミ・コングや小林克也の名調子と合わせ、当時のドライブツールとしての音楽の在り方を思い出させてくれる逸品でもある。でもそれを、リアルタイム派の慰みモノ、懐かしアイテムだけに終わらせないという心意気が、何より大切な気がするのだ。
特集 FMステーションとシティポップ
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2023.04.29