岡田有希子 唯一のシリアスなシングル「哀しい予感」
今から35年前の7月17日、岡田有希子の6作目のシングル「哀しい予感」が発売になりました。彼女は1986年4月に逝去されましたが、2019年に発売された竹内まりやからの提供曲を集めたアルバム『岡田有希子 Mariya’s Songbook』がオリコン最高13位となるなど、今なお多くのファンに支えられています。
「哀しい予感」は、そんな彼女の8作のシングルの中で唯一シリアスな雰囲気の楽曲で、なお且つ8作中最も低いセールスとなりました。ただし、岡田有希子はシングル8作中6作が数ヶ月間にわたるCMタイアップつきだったのに対し、本作はノン・タイアップだったこと、またいわゆる “初期聖子ちゃんカット” からボーイッシュな髪型への大きなイメージチェンジも伸び悩みの一因だったであろうことも申し添えます。
作詞作曲:竹内まりや、最も語られることの少ない異色のシングル
実際、2002年のベスト盤を発売するにあたってのファンリクエストでは、対象となるシングルA面曲の中で唯一「哀しい予感」だけがベスト15から漏れてしまい、また作詞・作曲を手がけた竹内まりや自身も、2013年に発表した自身の提供楽曲集『Mariya’s Songbook』にて、シングルA面の4曲のうち本作をあえてセレクトしていません。
また、その翌年に天国に旅立ったことと、この歌の歌詞の「♪ 2度目の夏が過ぎた頃 あなたは 突然 変わったの」を重ねて、まさに “哀しい予感” の起点と捉えるファンもいるようです。
このような経緯から、当時のヒットシーンをよく知る人からは、“岡田有希子の中であまり売れなかった曲” と認識されてしまい、また、本作をよく知っている人からは “意図的に触れないようにする曲” であり、結果として最も語られることの少ないシングル曲となっているように思います。
編曲は松任谷正隆、ユーミンの失恋ソングに通じるアレンジ
しかし、本作だけが持ちうる楽曲の特長、そしてそれを十二分に引き出されている彼女の持ち味があるのではと私は思っています。そこで、様々な過去とは切り離して、この楽曲自体や歌い手自身の魅力に注目して、今一度「哀しい予感」について語らせてください。
まず、歌詞ですが、恋人の少し冷たい態度から不安を感じてしまうという内容で、1年目の「ファースト・デイト」「リトル プリンセス」「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」の3枚のシングルの延長で聴くと、映画館や遊園地でのデイトを重ねて育んできた初恋に関する数々のエピソードとのギャップが大きく、まさに「突然 変わったの」という歌詞にも肯けます。
そうした重苦しい状況をマイナー調の曲調や、いつもより激しめのギターやキーボードの演奏が見事に増幅しています。特に、デビュー2年目のシングルは、松任谷正隆が編曲を手掛けているのですが、このダイナミックな演出は、彼のホームグラウンドであるユーミンの作品での失恋ソングに通じるものがあります。つまり、アイドルポップスのドリーミーな楽曲が好きな人よりも、この時期のニューミュージック系の音楽が好きな人にこそ聴いてほしい音色となっているのです。
泣きの入った歌い上げ、河合奈保子から影響を受けた歌唱
そして、何より岡田有希子の歌唱が見事。まさに恋が壊れる直前を体現するかのように、少し泣きの入った歌い上げ方が聞き手を引き込んでいきます。彼女は、デビュー時から一貫して(所属事務所の先輩である松田聖子ではなく)河合奈保子の大ファンであることを公言し、いくつかの番組で披露した「けんかをやめて」の歌マネは、その切ない歌唱を忠実に再現していましたが、本作での歌唱は、岡田有希子が奈保子ファンだからこそ、とても繊細に揺れる恋心を表現できたのだろうと想像できます。
ちなみに、河合奈保子の83年のアルバム『スカイ・パーク』の収録曲にも「初めての疑惑」(作詞・作曲:石川優子、編曲:大村雅朗)という、彼氏が自分以外の女性と仲良くしているのを見かけてしまう、本作と似た状況を描いたマイナー調の楽曲があります。奈保子ファンである岡田は、この楽曲も知っていたからこそ、「哀しい予感」をよりシリアスに推し進めて歌えたのかもしれません。それほどまでに、突如現れたかなりヘビーな楽曲を、見事に歌いきっている訳ですから。これは、「哀しい予感」だからこそ堪能できる岡田有希子の魅力と言えるでしょう。
シングルB面「恋人たちのカレンダー」も必聴!
なお、シングルのB面「恋人たちのカレンダー」は、いつもの竹内まりや作品らしい穏やかなミディアムナンバーとなっているので、A面とB面の曲を一緒に聴けば、それぞれの良さがいっそう見出せることでしょう。
本作に心のわだかまりがあった人も、逆に関心の薄かった人も、今一度、自由な気持ちで、この「哀しい予感」を聞いてみてはいかがでしょうか。それまでよりも前向きに捉える人が増えたならば、ご本人を含め、関わられた全ての方もきっと報われることでしょう。
Song Data
■ 哀しい予感 / 岡田有希子
■ 作詞:竹内まりや
■ 作曲:竹内まりや
■ 編曲:松任谷正隆
■ リリース日:1985年7月17日
■ オリコン最高位:7位
■ 推定売上枚数:8.9万枚
■ 100位内登場週数:8週
2020.07.17