1982年夏、「KIDS RADIO STATION」開局
インターネットラジオが普及し、個人でも容易に番組が発信出来るようになった現在だが、かつて「ミニFM」と呼ばれる小さなラジオ局が流行ったことがある。限られたエリア内でしか聴けない微弱電波であったため正式な放送局ではなく、電波法の規定を遵守していれば免許が要らないということもあって、徐々に数を増やしていった。現在のコミュニティFMのさらにマイクロ版といった感じ。企業が運営するイベントなどにもうってつけであった。
70年代の終わりから登場し始めたミニFMが本格的なブームになったきっかけと言われるのが、1982年夏に東京・青山のキラー通りで開局した「KIDS RADIO STATION」(以下KIDS)である。局の企画で組まれたバンドがC-C-Bとして人気を得るなど、事業として大きな成功を収めたミニFMの代表例といえるだろう。湘南のミニFM局を題材としたホイチョイ・ムービーの傑作『波の数だけ抱きしめて』(91年公開)も、物語の舞台とされたのは1982年だった。
第4のFM雑誌「FM STATION」創刊
70年代は『FM fan』『週刊FM』『FMレコパル』の3誌だったところに、第4のFM雑誌として1981年に創刊したのが『FM STATION』で、大きめの判型と鈴木英人の表紙イラスト、カセットインデックスなどの新味でたちまち部数を伸ばすことになる。
特集記事の内容も充実しており、他誌がオーディオ中心の構成だったのに対し、アーティスト情報が充実していた。FMのステレオ放送をエアチェックしたり、レコードをカセットテープに録音して聴いていた時代に最高にフィットしていた。
同誌でも盛んにインタビューや特集ページを組んでいた大滝詠一や山下達郎ら、現在人気を誇るシティポップに至る音楽。その源流はビーチ・ボーイズなどアメリカ西海岸を中心に発展した音楽が源流であり、KIDSもそんなアメリカへの憧れがコンセプトとされたミニFM局だった。
C-C-Bの原点、Coconut Boysが誕生
KIDSでは、夏をイメージしたバンドを複数組んで競わせるというプロジェクトが企画され、その中で和製ビーチ・ボーイズを意識した “Coconut Boys” が誕生する。自主制作のコンピレーションアルバム『RASPBERRY AVENUE』で1983年にデビュー、6月にはポリドール(現・ユニバーサル)からシングル「Candy」でメジャーデビューを果たした。
さらに翌年の1984年には5人体制となってセカンドシングル「瞳少女」をリリースするもなかなかヒットには至らなかったが、1985年に「C-C-B」表記となって出したサードシングル「Romanticが止まらない」のヒットで遂にブレイク。
担当ディレクターだった渡辺忠孝が実兄の筒美京平に作曲を依頼し、松本隆が詞を書く条件で実現したものであったという。そこからビーチ・ボーイズ的な要素は希薄になっていったわけだが。
なんとジャニーズ事務所所属だったオレンジ・シスターズ
原点となったKIDSの自主制作盤のアルバムには、“オレンジ・シスターズ” や “パイナップル・ボーイズ”、“パパイヤ・ガールズ” も参加しており、みな果物の名前が付けられていたのが特徴だった。
これぞトロピカル・フィーリング。オレンジ・シスターズは全員日本人ながら、ジュディ、サンディ、キャンディと称した3人組で、『RASPBERRY AVENUE』で「彼に片想い」を歌った後、1984年に「サマー・ホリデー」で正式にデビューした。
同年には第2弾「涙のキスマーク」とLP『フェアウェルパーティー』もリリースしている。シングルのカップリング曲はいずれもベンチャーズのアレンジと演奏で、アルバムもベンチャーズとの連名であった。レギュラーを務めたテレビ東京の『ヤンヤン歌うスタジオ』をはじめ、歌番組やバラエティにも多々出演したが、1985年には早々と解散してしまう。
オレンジ・シスターズが意外にもジャニーズ事務所の所属だったことは、アイドルマニアの間では有名なトリビア。また、サーフィン&ホットロッドを実践したパイナップル・ボーイズは、山下達郎とともに日米合作のドキュメンタリー映画『ビッグ・ウェイブ』 の音楽を手がけたことで知られる。
ミニFM局の象徴的存在だったKIDSはオールディーズやサーフ・インストなど60年代のポップな音楽を当時の文化に馴染ませる役割を担ったが、それより少し後の時代、70~80年代に隆盛を極めたAORが当時のミニFM局における音楽の主流であったことも事実。その頃の雰囲気を知るテキストとして、『波の数だけ抱きしめて』は格好の映画である。ついでに言っておくと、こんがりと日焼けした中山美穂がオソロシイくらいにキレイなのだ。
特集 FMステーションとシティポップ
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2023.04.30