FMラジオにも大衆化の波、81年7月「FMステーション」創刊
80年代の声を聞く頃は、邦・洋の別を問わず、ポップスシーンを囲む環境が大きく変貌していく時期だった。70年代後半にカーオーディオにカセットプレイヤーが普及。79年7月にはウォークマンが登場し、音楽が屋外へと持ち出されるようになり、80年には貸レコード屋チェーンがアチコチに広まり始めている。これでカセット文化が急速に拡大したのだ。
音楽ファンが耳を傾けていたFMラジオにも、大衆化の波が押し寄せた。当時の郵政省が各都道府県にFM局を置く方針を打ち出し、80年代になってチャンネルを割り当てるなど具体策に動き出したのだ。その頃発売されていたFM情報誌は、ジャズやクラシックに対応し、オンエアを録音するエアチェック派に重用されていた。週の番組表が掲載され、どんな曲が掛かるかが事前に把握できたからである。しかしカセットテープの使用法が多様化し、自前のベストセレクションを作るポップスファンも増えてきた。それを促進させたのが、81年7月創刊の『FM STATION』である。
鈴木英人がアートワークをあしらったカセットレーベル
ジャズ、クラシックを外してポップス全般に特化し、鈴木英人のイラストで他誌より大きい表紙を飾る。そうした編集方針は完全にヤングカルチャーと結びついたもので、70年代の西海岸ブームを主導した情報誌『POPEYE』からの流れを汲んでいた。
筆者が自前のテープを作り始めた最初の頃は、テープ付属のカセットレーベルに製図用レタリングでタイトルをデザインしたものだが、FM STATIONには英人氏のアートワークをあしらったカセットレーベルやレタリングシーンが付録として付いていて、大変重宝したのを思い出す。その自作テープに録音していたのが、主にAORやシティポップだった。
架空のラジオ・ステーションから流れるプログラム、FM STATION 8090
さて、昨年夏に発売されて好評を呼んだ『FM STATION 8090 ~ CITYPOP & J-POP~ by Kamasami Kong』。その続編2作が、今年も同時期に登場することがアナウンスされた。
1枚は『FM STATION 8090~GOOD OLD RADIO DAYS~ DAYTIME CITYPOP by Kamasami Kong』、そしてもう1枚は『FM STATION 8090~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP by Katsuya Kobayashi』。
昨年のカマサミ・コングのヴァージョンに加え、小林克也ナビゲートのヴァージョンが追加されたのだ。
共に “架空のラジオ・ステーションから流れるプログラム” という想定で、曲とMCが自然に混ざり合い、収録曲も美味しいトコ取りで矢継ぎ早に繰り出されていく。昨今のシティポップブームでこのCDを手にした若い世代なら、今ドキのDJイベントとは違って色々なシチュエーションで音楽が楽しめるはずだ。
TPOに応じて趣向を凝らした選曲
そこで注目して欲しいのが、時間軸で収録曲を選り分けて、 “DAYTIME” と “NIGHTTIME” にコンパイルしていること。オリジナルのベストセレクションを作る際のメソッドとして、ただ単にヒットチューンや自分の好きな曲をチョイスするだけでなく、敢えてアルバムの中のマニアックな曲を混ぜ込んで、自分のセンスをアピールする。当時、助手席に意中の人を乗せてドライブする時に、カーステレオから流れてくるのが誰でも知っている大ヒット、それじゃあダサイよね! という空気感があった。
そうして趣向を凝らしてセレクトした楽曲を、TPO(Time, Place, Occasion)に応じて並べる、というのが理想とされた。つまり、朝の光を感じるソフトな曲で始まり、徐々にスピードを上げて、最後はロマンチックな甘いバラードでエピローグ、という流れである。それを今回は、2枚のディスクで表現している。
杏里、松原みき、オメガトライブ… 80年代感覚満載のシティポップ・チューンのパレード
この “DAYTIME CITYPOP” ヴァージョンは、軽快なギターカッティングでスタートする杏里「最後のサーフホリデイ」で始まり、松原みき、EPO、中原めいこ、稲垣潤一、村田和人、飯島真理、オメガトライブなど、80年代感覚満載のシティポップチューンのパレード。
中には尾崎亜美「マイピュアレディ」のような70年代後半のヒットナンバーも混ざっているが、ライトボッサなテイストなので、むしろ良いアクセントとして収まっている。
超大物の有名曲は、若手によるカバーヴァージョンで収録。それもまたフレッシュな空気を醸し出していて。菊池桃子などは、まさに現在のシティポップ再評価の斬り口を考えた上でのチョイスに違いない。
ライトステップなグルーヴチューンもあれば、ラテンにテクノ、そしてウェットなメロウナンバーまで。そして陽が落ちた頃からは、もう一本の “NIGHTTIME CITYPOP” に繋いでいく。そんな流れを楽しんで欲しい。CDでも良いが、ここは同発されるカセットテープで聴くのが気分かな?
なお、Kamasami Kong のMCに電話で絡んでくるのは、バイリンガルシンガーの草分けである “ナンシー” こと早見優。どんなダイアローグが楽しめるかは、聴いてのお楽しみ、ということで。
特集 FMステーションとシティポップ
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2023.04.27