2月21日

ブルーハーツ「ラブレター」甲本ヒロトのソウル(魂)がむき出す嘘のないバラード

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みんなのブルーハーツvol.12​


■ THE BLUE HEARTS『ラブレター』
作詞:甲本ヒロト
作曲:甲本ヒロト
編曲:THE BLUE HEARTS
発売:1989年2月21日

初期ブルーハーツ、オアシスのような1曲​​


張り詰めた初期ブルーハーツの中では、オアシスのような1曲である。キレッキレに研ぎ澄まされた強烈なメッセージソングと、『ラブレター』のように純朴な曲の併存に、当時の彼らが誇る度量の広さがあった。

見出しになっている歌詞は抜粋である。実際には「本当ならば今頃 ボクのベッドには あなたが あなたが あなたが 居て欲しい」と、「あなた」が繰り返される。

揚げ足取りのようで恐縮だが、読めば読むほど不思議なフレーズではある。

まず何度も繰り返される「あなた」。普通「ボク」(僕)とくれば「キミ」(君)ではないか。まぁ『あなたがいたから僕がいた』(76年)という郷ひろみの曲もあるので、厳密なものではないのかもしれないが。

ただカタカナ「ボク」に対して「あなた」とくることで、対象に対するリスペクトを感じさせる効果を持つ。また、それが何度も繰り返されることで、そのリスペクトを増幅させる効果をも併せ持つ。

自分を捨てた「あなた」に対して、足蹴にするのではなく、また嫉妬深くジメジメと振り返るのでもなく、爽やかにリスペクトする感じが、曲全体を通底していて心地よいのだ。

そして「本当ならば今頃 ボクのベッドには あなたが 居て欲しい」というフレーズ全体も、よく見たら不思議な感じが漂ってくる。私が思うのは、日本語的には「居て欲しい」ではなく「居るはずだった」という、英文法でいう「仮定法」で収めるべきではないかということだ。

本来は「居るはずだった」。でも現実は「居なくなった」。だから願望として「居てほしい」―― しかし、最後の願望「居てほしい」が突出した結果、本来の「居るはずだった」を押しのけて、フレーズの最後に「居てほしい」が「居座った」!

少々深読みだが、「あなた」をリスペクトしておきながら、「居てほしい」という願望が突出するあたりに、主人公「ボク」の抑えきれない、そしてやりきりない思いを感じて、共感してしまうのである。

こうなったら、もうとことん細かく見ていく。続く「今度生まれた時には 約束しよう 誰にも邪魔させない 二人の事を」も、また不思議な語感じゃないか。

普通の文章に書きくだすと「今度二人が生まれ変わった時が来たとしたら、僕はあなたに『二人の事を誰にも邪魔させない』と約束しましょう」。しかし、その書き下し文を、やや乱暴に集約させたのが、上のフレーズ。

そう、全体的に文章が、断片的でかつ乱暴な散文という感じなのだ。そうして聴き手は、その書きっぷりに、「あなた」の喪失で取り乱している主人公を確認して、共感するという構造になっている。

ハイロウズ『十四才』に出てくるレコードプレイヤー


『ラブレター』の中で、いちばん好きなフレーズだ。ポイントはもちろん「ステレオ」。

ここでいう「ステレオ」は、モノラルに対するステレオではなくオーディオ機器のこと。しかし88年の段階で、オーディオを「ステレオ」と呼ぶのは、すでにそうとう古めかしかった。

「ステレオ」とは、昭和、それも30〜40年代に普及した、図体のかなり大きな、レコードプレイヤー、ラジオ、スピーカーの一体型オーディオ機器のことを指す。大体が木目調で、高度経済成長期のシンボルのような大型家電だ(そばにブランデーの瓶とか百科事典とかが置いてあるイメージ)。

昭和50年代に入ると「システムコンポ」の時代になる。縦型のオーディオラックがあり、ラックの上にレコードプレイヤー、ラックの中に、銀色に光るアンプ、チューナー、カセットデッキ、そしてラックの両脇に大きなスピーカー(並べられたふたつのブロック塀の上に置いてあるイメージ)。

この曲(シングル)がリリースされた89年だとどうだろうか。もう「システムコンポ」の時代も終わって「ミニコンポ」の時代になっていたはずだ。その名の通り「システムコンポ」のミニ版。

カラーリングはなぜか銀ではなく黒くなっている。そして図体もかなり小さくて、棚の上にも乗りそうな感じ。スピーカーもかなり小さくなった。その後、CD時代となって更に小さい「ミニミニコンポ」となるのだが、それはそれとして。

歌詞に戻ると、この部分の歌い方が「♪あたらしいステレ “オをおー”」と、なんだか「O」の音が1つ多いように感じる、つまりは字足らずに感じる。字足らずにしてまでも、とにかく「ステレオ」という文字列を入れたかったのではないか、甲本ヒロトは。

「ステレオ」を「注文」―― どうしても歌詞に入れたかった理由は、まずはこのアナクロ感、レトロ感を愛していたから。そして、「ステレオ」といえば、もう当時、爆発的な普及が始まっていたCDではなく、あくまでレコードのイメージがするから。なぜなら「ステレオ」にはレコードプレイヤーが付き物だから。

そのレコードプレイヤーは、ハイロウズ『十四才』(01年)に出てくるものと同一ではないだろうか――

 あの日の僕のレコードプレーヤーは
 少しだけいばって こう言ったんだ
 いつでもどんな時でも スイッチを入れろよ
 そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ



嘘のない音楽――「ほかの誰にも言えない 本当の事」​​


甲本ヒロトと憂歌団の内田勘太郎が組んだユニット「ブギ連」に関する音楽ナタリーの記事(2019年6月19日)を読んで、ひざを打った。

―― 内田:「ラブレター」は僕からお願いしたんですよ。レコードで聴いたのではなく、公園のベンチで演奏してる映像をテレビで観て、すごくいい曲だなと思って。

ひざをポンと打って、心の中でつぶやいたのだ――「あ、これ、憶えてる!」

検索すると、その動画はかなり容易に見つけることが出来た。1988年12月18日(日)の昼に放送されたテレビ朝日『HITS』という番組の中で、『ラブレター』を披露したときの映像らしい。

ちなみに場所は何と公園(新宿区立柏木公園と書かれている)。真島昌利と河口純之助によるアコギ2本、梶原徹也のタンバリンをバックに、甲本ヒロトが歌うという、何ともインパクトのあるシチュエーションだ。

さらに曲の途中で、甲本ヒロトは上半身裸になり(12月の公園にもかかわらず)、またズボンも脱ぐふりをするのだから、インパクトは最大だ。それで私も憶えていたのだろう。菓子パンを加えながら、小さなブラウン管を見つめたことすら憶えている。

さて、内田勘太郎は、なぜ『ラブレター』に惹かれたのだろう。もちろん、この映像のインパクトも大きかったと思われるが、楽曲の魅力にも感じ入ったはずだ。

この曲の黒人音楽性が影響したのではないだろうか。

『チェインギャング』の項(みんなのブルーハーツ「チェインギャング」サム・クックを敬した80年代ゴスペルソング)でも書いたように、ブルーハーツのメンバーはかなり黒人音楽に詳しい。マニアといってよい。もちろん甲本ヒロトもそうで、そんな彼が手掛けたこの曲は、たとえアコギをバックに歌われても、黒人音楽性が漂ってくる。

この曲の源流として私が感じるのは、ザ・ミラクルズ『トラックス・オブ・マイ・ティアーズ』(65年)だ。また、テンプテーションズ / ジャスト・マイ・イマジネーション(71年)あたりも、ちょっと臭ってくる。

つまりは、モータウン系ラブバラードのエッセンスを感じるのだが、そのあたりに、こちらも名うての黒人音楽マニアである内田勘太郎が惹かれ、結果、甲本ヒロトと響き合ったのだと憶測するのだが、どうだろうか。

そして、そんな黒人音楽性と、「ほかの誰にも言えない 本当の事」を歌う、むき出しの歌詞もまた響き合う。優しさも汚らしさも含んだ、ありのままのソウル(魂)がむき出す、嘘のない音楽――。

当時、ヒップホップとかラップとかハウスミュージックなどの記号を伴った黒人音楽が、若者の中で流行り始めていた。クラブ的な西麻布的なあれこれ的、おしゃれ文脈を伴って。

しかし、そんな文脈とは一見、無縁に見える新宿の公園で、甲本ヒロトが、上半身をむき出して、そしてソウルまでむき出しにして歌っている。それを見ていたのは、内田勘太郎と、私なのだ。

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2023.03.27
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