4月2日

俺たちのアニキ、ミッキー・ロークから教わったダメ男でも前に進む生き方

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姉妹がいない人は “兄弟が欲しい” と思い、兄弟がいない人は “姉妹が欲しい” と思うもの。一種のないものねだりで、妹のいる自分も、兄弟が欲しいと子どものころから思ったものだ。とくに欲しかったのはアニキ、である。

ロックンロールを好きになったのも、野郎のワイルドな世界に憧れたからかもしれない。そこにはアニキがたくさんいたから。もちろん、かっこい姐さんもたくさんいたが、そちらへの憧れについては別の機会にとっておこう。

映画もまた然りで、中学の時はジェームズ・ディーンのポスターを貼ってみたり、マット・ディロンのアニキっぽさに惹かれたり。そして高校3年のとき、“この人こそアニキだ!” と思える映画スターと出会う。そのマット・ディロンが出演していた『ランブルフィッシュ』のミッキー・ロークだ。

ロークが演じたのは、マット・ディロンふんする主人公の兄で、通称バイク・ボーイ。ディロンはヤンチャだったアニキに憧れているが、離れて暮らしている間にアニキは悟りきったような落ち着きを身に付けていた。昔のようにバイクには乗っているし、自由人でもある。しかし、もはやヤンチャではないし、優しく、そしてどこか寂しげだ。縄張り争いに夢中のケンカっ早い弟をランブルフィッシュ(闘魚)に例え、「広い場所に置いてやれば殺し合わずに済む」と諭す。思春期の自分がいる世界の反対側に突き抜けた、クールなアニキがそこにいた。ロークさん、ついていくよ!

そんなワケで80年代のアニキの出演作を追いかけることになるのだが、『ランブルフィッシュ』でブレイクしたものの、その後の作品選びには「?」のつくものが多かった。

『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のアウトロー刑事もかっこよかったが、敵役のチャイニーズ・マフィアにふんしたジョン・ローンに食われてしまった感は否めない。エロチックな『ナインハーフ』のスケコマシには1ミクロンも男気を感じることはなかった。私立探偵にふんしたスリラー『エンゼル・ハート』では太めの体型をダブダブのスーツで包む、くたびれた感じに味があったが、いかんせん途中でオチが見えて、衝撃的と喧伝されていただけに肩透かし。

「アニキは終わっちゃったのかもしれない。もう期待するのはやめよう…」とは思っていたものの、それでも新作が来ると映画館に足を運ぶ。そして大学3年のときに観た『バーフライ』だ。アニキは売れない作家で、浴びるように酒を飲んでいた。そして汚れたシャツを着たデブ。ダメ男だ、やっぱダメだ…… と思いつつ見ていたのだが、いや、これが面白い。ダメであることをさらけ出しつつ、それゆえにつまずきっぱなしなのだが、それでも、ほんのちょっとでも前に進む生き方。ボンクラ大学生の前に、ボンクラだがそれゆえに魅力的なアニキが戻ってきたのだ!

本作の脚本を手がけたのは、数年後に酔いどれ作家として日本でも大々的に注目を集めるチャールズ・ブコウスキー。彼のカリスマ性は説明するまでもないだろう。多くの著作が日本でも発刊され、堕ちるところまで堕ちるようなイメージが強まった今となっては、『バーフライ』はマイルドに見えるかもしれないが、それでも当時は、イビツな世界の中での前向きさを感じた。

『バーフライ』でもう一点惚れ込んだのは、音楽だ。往年のソウルナンバーがレイドバックした雰囲気を醸し出しているが、中でももっとも衝撃を受けたのがオープニングで流れるインストのナンバーだ。ゆったりとしたビートに、いかがわしさ満点のオルガンの音が絡みつく。その曲―― ブッカー・T.アンド・ジ・MG's の「ヒップ・ハグ・ハー」―― が60年代のヒット曲であると知り、すぐにレコード屋に走った。

ブッカー・T.アンド・ジ・MG's について調べてみると、過去の記憶がつながってくる。映画『ブルース・ブラザース』のバンドメンバーがいる!オーティス・レディングのバックを務めていた!当然、清志郎も大ファンらしい!この人たち、スゲエ人たちじゃないか!!

そんなスゲエ人たちを BGM にしているミッキー・ローク、やっぱりスゲエなあ… と見直した。が、その後もアニキのスランプは続く。ボクシング映画『ホームボーイ』は、もはやネコパンチとクラプトンのふやけた音楽しか思い出せないし、スリラー『ジョニー・ハンサム』は共感のデキなさ加減にズッこけた。『フランチェスコ』は見ごたえのある映画だったが、聖人役がアニキのキャラにハマッていたかどうかは疑わしい。かくしてアニキとの80年代は終わりを告げ、ボンクラ大学生は社会人のはしくれとなった。

この後、『逃亡者』でラジー賞(ゴールデンラズベリー賞)候補となり、ボクサー転向&引退を経て、ロークの俳優としてのキャリアは下り坂へといたる。ときどき悪役で出演している姿を見かけては、一抹の寂しさを覚えたりもした。しかし、ご存じのとおり、2008年の『レスラー』で、彼はアカデミー主演男優賞にノミネートされ、劇的な復活を遂げる。年を取り、体の自由が利かなくなっても、リングに上がることしかできないドサ回りのプロレスラー役。その姿に、なんというか、人生に必要な何かを教わったような気がした。何かはわからない。とにかく、わかっているのは、アニキが久しぶりに戻ってきたのということだ。

ちなみに『レスラー』のアニキには “80年代の音楽は最高だった” という Re:minder 読者にはシビレるセリフがある。

2019.11.06
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  Apple Music
 

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きくみん
『バーフライ』と『レスラー』の進化形にいるのが、『エクスペンタブルズ』のバー店主兼情報屋のローク兄貴です!
なお『バーフライ』の音楽、良かったですよね。
それと色男のローク兄貴と酔いどれ聖人ブコウスキーの相性の良さ!
2019/11/06 20:05
2
返信
カタリベ
1966年生まれ
ソウママナブ
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