2022年 4月29日

カメラマン・大川直人に訊く ② ミュージシャンのリアリティと音楽が聞こえてくる写真

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カメラマン・大川直人の個展「大川直人写真展 GOOD TIME MUSIC 音楽の仕事40年の軌跡」が富士フォトギャラリー銀座で開催された日(初日)
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【前編】EPICソニーから始まる音楽の仕事40年の軌跡 からのつづき

【後編】ミュージシャンのリアリティと音楽が聞こえてくる写真

写真家の原点は音楽的だった?


― 写真展のフライヤーに掲載されている、大江千里さんが傘を差している写真は5月25日にリリースされるアナログ盤「Rain」のジャケット写真ですよね。

大川直人(以下、大川):これは「Rain」のジャケット写真になりましたけど、本当にこれは最近の話で。この写真は僕が倉庫から引っ張り出して、再セレクトした中にあった、世には出てなかった写真なんです。「Rain」がシングルカットされるということで、この写真が使用されることになったんです。

― 曲の世界とイメージがぴったりな1枚ですね。こうしたお蔵入りしている写真が、大川さんの元にはまだまだたくさん眠っているということなんですね。

大川:今回の個展は、ほぼそういう写真ばかりなんです。なぜかというと、カメラマンのところには仕事が終わるとモノクロのネガが返ってくるんですね。それをちゃんと整理して保存していたので、ものすごい数のネガがあるんですよ。ちょうど僕が還暦を迎えた年に、これまでを振り返って、自分の写真家の原点は音楽的な写真だなと思ったんです。それでこれらの写真をもう1回、世に出したいなと思って。
初めは「写真集として出してくれないか」と、大手に売り込みに行ったんですけど、みんな「すごい」とは言ってくれるけれど、「でも売れないからね」と…。そのうちそこから何年も経ってしまいコロナ禍になって…。コロナ禍で時間があったので、その莫大なネガをコツコツと再編集し始めたんです。それで今回のセレクトができたんですよ。親友のプロデューサーが「これはもう写真集を出すより先に、みんなに見てもらった方がいいよ」と言ってくれて、今回の写真展の企画が出来上がりました。

― そうだったんですか…。思わぬコロナの副産物と言いますか…。

大川:そうなんです。ただ、とにかく許諾を取るのが大変で。初めは許諾申請を中間に入ってくれていた会社に担当してもらっていたんですけど、全然メールも何も返ってこないと。それで仕方ないので「俺がやる」ということになって、昔の名刺を辿ったりしましたが、古いし、担当者も全部変わってるし、どうしようもなくて。ファンクラブとかそういうところしか今はメールの宛先がないんですよね。だけど、それだとなかなか上まで話が通らず。だから今回、本当はもっと展示したい人もいっぱいいたのですが許諾を得るところまで行けなかった人もいます。でも最初にアタックしたのが山下達郎さんや桑田佳祐さんだったので、そのクラスがオッケーしていただくと、ずいぶん皆さんに協力していただけるようになりました。結局、許諾を取るのに1年くらいかかりましたけど。

もはや“家族写真” デビューアルバムから撮り続けている渡辺美里




― まるで蜘蛛の糸を辿るような作業だったんですね。そして、長い間撮影されてきたお一人が渡辺美里さんですね。新作のカバーアルバム『うたの木 彼のすきな歌』のジャケットも大川さんの作品ですよね。「始まりの詩、あなたへ」ではMVのムービーも撮られたそうですね。大川さんは美里さんのデビューアルバム『eyes』からずっと撮り続けられています。以前、美里さんにインタビューさせていただいた時に「もうずっと大川さんには家族写真のように撮ってもらっているんですよ」とおっしゃっていました。

大川:そうですね。美里ちゃんは今も撮っていますから、ほぼ90%は僕が撮っています。その言葉通りで、もはや “家族写真” ですね。

― 『eyes』のジャケット写真はとても印象的でしたね。そして、多くの渡辺美里作品は大きな瞳が印象的でアップの写真が多いですよね。美里さんの大きな瞳に、つい引き込まれていくという感じなのでしょうか。

大川:『eyes』のジャケット写真の撮影は今でもはっきりと覚えています。ヘアメークをしている時に、美里ちゃんと鏡越しに話をしていて目が合ったんです。ちょうど前髪を切るというところで、キランと光る鋏と美里ちゃんの真剣な眼差しがとても象徴的だったので、「これだ!」と。そのままスタジオに移動してもらって、そのままをやってもらいました。美里ちゃんの肩にはタオルがかかっているんですけど、あれはリアルなヘアメーク中のもの。もうこの時点で、「これはいいものが撮れた!」と思いました。

― 鋏の手はヘアメークさんのものなんですね! なんとも言えない表情の美里さんがとても印象的なジャケット写真なんですよね。

大川:そうなんです。とても不安げな表情なのに大きな目が希望を見据えているという歴史に残る写真となりました。この写真でEPICも「これは行ける」と、大きな看板を作ったりして、どんどん売っていきましたね。

TM NETWORK、ドリカム、尾崎豊… 撮影したミュージシャンは千を超える




― 今でもあのジャケット写真を見ると音楽が聞こえてきます! ちなみに今まで何人くらいのミュージシャンを撮られてきたんですか?

大川:売れなかったミュージシャンの方が多いですから、千は超えていると多います。

― すごい数ですね…。ということは、私も知らないところで大川さんの写真をたくさん見てるということですね。

大川:多くの方が、必ずといっていいほど見られているものでは、広告ですけど、松たか子さんの「ヤマザキ 春のパンまつり」ですね。

― わぁ、あの作品もそうなんですね! それは本当に日本中の人が目にしていますね! 今年、再起動が決まったTM NETWORKの写真も撮られていましたよね。

大川:そうですね。再起動のお話は来てないですけど、初期の頃のレコードジャケットはずっと撮ってきました。アルバム『Self Control』もそうですね。ジャケットのデザインも素晴らしいですよね。てっちゃんの音楽の才能は、すごいですね。

― 今回、DREAMS COME TRUEの中村正人さんが、フライヤーにとても素敵なメッセージを寄せられています。ドリカムさんとの出会いは、先ほど「アルバイト生が連れてきた」とおっしゃっていましたが…。

大川:連れてきた人はアルバイトから出世しましたけど、その人が連れてきた3人組で。今回ここに写っているのは、デビューの1年前ぐらいなんですよね。バイトが連れてきた3人組を「まぁ、ちょっと一応撮ってみようか」というくらいの感じで撮った時の写真なんですよ。

― 初期のドリカム感が出ているとてもイイ写真ですよね。ドリカムの音楽が聞こえてきそうです。

大川:そうなんですよ。いい写真ですよね。多くのミュージシャンは、最初はあまり動けないんですけど、この人たちはものすごく素晴らしい動きとフォーメーションで、ストロボが追いつかないくらいワンカット、ワンカットとにかく素晴らしかったです。

― 3人もイキイキとした姿がとてもいいですね。そしてEPICソニーからは離れますが、尾崎豊さんの写真も撮られています。そして息子さんの裕哉さんの写真も撮られたそうですね。ミュージシャンで親子二代にわたって写真を撮るということは、非常に珍しいケースなのかなと思うのですが。

大川:尾崎豊さんはEPICソニーではなく、CBSソニーでしたけど、プロデューサーもカメラマンもアートディレクターも1つの決まったチームでやっていたので、尾崎さん自身もずっと同じカメラマンでやっていたんですね。僕が撮ったこの写真は、ビクターの『News Maker』という音楽雑誌のものなんですけど、その時、尾崎さんはちょうど事務所を立ち上げて、これから新しくやっていくんだという時期でした。だから僕が尾崎さんに初めて会ったときは名刺をくれて、その名刺には事務所名と、代表取締役 尾崎豊と書かれていました。やる気満々の時期でしたね。そして裕也さんを撮ったときは、まだ大学生で、歌もちゃんとやるかどうかも分からないということで、「とりあえずテストで撮ってみよう」というところでした。

― 豊さんと似てらっしゃいましたか?

大川:そうですね。似てましたね。素直ないい青年だなと思いました。

原点だったRCサクセション、シャイな忌野清志郎とのフォトセッション


― ちなみに大川さんが写真を撮られるとき、どういったポイントを抑えようと思われていますか?

大川:僕は被写体になってくれる人に満足してもらいたいし、なにかお互いの共通のいいねという、良い部分を掘り当てたいと思って、撮っています。僕の写真を撮るスタイルとしては、あんまり相手を褒めたり、「おお、いいよ」とか「オッケー、ナイス!」とか言うタイプではないので。
事前に「今回はこういう風に撮ります」というテーマは話しますけど、写真を撮る時は無言です。撮影中に喋っていると、いい表情がなくなっちゃうんですよね。カメラのシャッター音とストロボが発光する中、いわゆる間合いで撮るというか…。

― 先ほど RC サクセションが原点にあるというお話も出ましたが、忌野清志郎さんも撮られていますよね。そのときはまた、格別だったのではないですか?

大川:そうなんですよね。清志郎さんもたくさん撮っているんです。清志郎さんという人はすごくシャイなんです。すごくその感じが僕と合うというか…。清志郎さんともそれほど喋らず、無言で撮ってました。清志郎さんもその辺を気に入ってくれたんだと思います。

― 今回の写真展ですが、90人、90点の貴重な写真が並ぶということですね。

大川:すべてモノクロ作品になります。未公開のものが多いです。

― CG や合成、修正が一切ないということですが、今では考えられないですよね。でもだからこそのリアリティがあるというか…。

大川:本当に今では考えられないですよね。あの頃の何もかもがそのままですから素晴らしいですよ。

勘が良い松任谷由実、短時間で真剣勝負した安室奈美恵


― 個展にはほかにも桑田佳祐さん、松任谷由実さんと本当にすごい方々の世に出ていない写真も並ぶんですよね。引退された安室奈美恵さんの写真もありましたね。

大川:安室さんは無理かなと思っていたんですけど、レコード会社にアプローチしたら担当の方がご本人に電話してくださって、そしたらOKをいただけまして。安室さんは1枚目と2枚目シングルを撮影したんですけど、今回、展示する写真は2枚目シングルの頃のものです。ジャケット写真ではないので未公開のものなんですけど、この頃はもう売れちゃって時間がないということで10枚しか撮れないと。スタジオにサッと入ってきて、8×10という大きくてネガができるカメラで、本当に10枚しか撮らなかったですね。そして、それを撮り終わるとサーッと次の現場へ行くという感じで。10枚だけでしたけどお互いにすごくいいセッションでした。

― 10枚しか撮れないというのは本当にすごいですね! 松任谷由実さんはいかがですか?

大川:ユーミンはすごく勘が良くて、何も言わなくても例えば椅子を見たら、「じゃあ、この椅子に座ればいいんだね」と、パッとどう座ればいいか自分で分かる人なので、ラクなんですよ。

写真家活動40年に思う “音楽産業が残した肖像写真”


― すごいですね…。こうして一人ずつお話を聞いて行くと、本当にキリがなくて時間が全然足りませんね(笑)。個展を開くにあたり写真家人生を振り返られていかがですか?

大川:開催できて本当に嬉しく思っています。この写真たちというのは、自分1人のものじゃないんですよね。この写真たちの裏には、その時代が音楽を育てて、そこにビジネス的なものもあり、大きな音楽産業といったものも写っていると思います。だからこれは、僕1人がなにかやりましたということではないんです。音楽産業が残した肖像写真なんですね。

― 私たちからすると、本当にその当時の出来事が甦ってきたり、写真を見ると一緒に音楽も流れてきますし、さまざまな思い出が溢れてきます。

大川:そうですよね。みなさん、そうだと思います。これだけ90人もの写真が並ぶと、きっと青春のどこかでお世話になったり、一度は目にしたことがあるはずです。ただ、僕はこの写真たちを見ると “無音” の感じがするんですよ。写真を全部見ると、“しーん” としているというか。今回のセレクトは、音楽を始める前の時の緊張感やプレーする前の感じというか… 自分のセレクトがそういう表現のものを多く選んでいたのかなぁと思っています。

― “しーん” とした無言というのは、とても重い言葉ですね。

大川:なんといえばいいのか… これはちょっと難しいんですけど。きっとすべての写真を見てもらったら分かると思います。

― セレクトするときにはテーマを決めて選ばれたわけではないんですね。

大川:そうです。きっと無意識には何かあったんでしょうけど。特にはなかったです。選んだ写真たちを並べてみたら、“しーん” としていたっていう… これは僕の印象ですけどね。これを見て凄く音が聞こえてくるという人もいるし、あの時のあの時間がそのまま止まっているわけですから、思い出が溢れてくる人もいると思います。それは皆さん思い思いに感じてもらえたらいいと思います。

― 写真家として40年目という節目に、こうした写真展が開催できるというのは素晴らしいですね。現在は銀座で開催中ですが、今後は神奈川、成増と夏まで続きます。

大川:成増は僕が生まれた街なんです。東京でいえば城北地区ですが、城北地区に文化をということで開催が決まりました。

― SNSを見ていると「全国でやってください」という声もかなり聞こえてきてますね。

大川:そうなんです。コロナ禍でこんな風になる前は、大阪など色々な所で開催を予定していたんですけど、とりあえず一回、東京でやろうと。これが成功すれば日本全国へ行くと思います。

― 東京以外の人たちも楽しみにしていると思います。きょうはありがとうございました。

大川:ありがとうございました。

(インタビュー・構成 / 村上あやの)

いかがでしたでしょうか。活動40周年を迎えた大川直人さん。渡辺美里、大江千里、桑田佳祐、松任谷由実、安室奈美恵… 撮影したミュージシャンたちのすべてのエピソードが紹介できなかったのが残念です。現在開催中の『大川直人写真展 GOOD TIME MUSIC 音楽の仕事40年の軌跡』では今回ご紹介できなかったアーティストの写真も多く展示されています。こちらもぜひご覧ください!


■ 大川直人 Profile
東京都城北地区出身。ラジオの深夜放送でフォーク好きになり、中学生ながら忌野清志郎や古井戸などの野音ライブをステージ前で撮影(当時はコンサートの警備体制はなく撮影可)。中2で、はっぴいえんど「風街ろまん」に強く影響を受ける。映像の学校でATGプロデューサー葛井欣士郎さんに師事。映画、演劇の写真を撮りながら映画のカメラマン志望であった。大物女優さんに25歳でフリーになれと言われ本気にする。1982年、フリーカメラマンに。EPICソニー創業期よりレコードジャケットの撮影を始める。現在は主に音楽(CD・レコードジャケット、ミュージックビデオ)、広告、ファッションを中心に活動している。


■ 大川直人写真展 GOOD TIME MUSIC 音楽の仕事40年の軌跡
・富士フォトギャラリー銀座(2022年4月29日~5月5日)
・神奈川県民ホール第1展示室(2022年5月31日~6月12日)
・成増アートギャラリー(2022年8月6日~8月11日)

▶ EPICソニーに関連するコラム一覧はこちら!



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