いつの頃からだろうか、芸能人に変わった趣味や特技が要求されるようになったのは。個性的な趣味をもつことが新人にとっては差別化ポイントになり、ベテランにとってはイメージチェンジのきっかけとなり、芸歴を長く保つためのキーファクターになることもある。今や、いっぱしのタレントであれば、玄人はだしの趣味や特技が1つや2つ無いと、やってゆけない観すらある。
かつてテレビ番組のネタは、視聴者にとって初めて知るものが大半だった。それがインターネットの普及とともに、番組と視聴者の情報量に差がなくなっていった。2000年代の半ばになると、NHKでも90年代には通らなかったようなニッチな企画がどんどん採択されるようになる。BSで『熱中スタジアム』『マンガノゲンバ』といったマニア向けの番組が始まり、私もディレクターとして参加するようになった。あれから10年、現代のテレビ番組は、芸能人のみならず、奇妙な趣味や特技をもつ素人で埋め尽くされるようになってしまった。
こうしたテレビの変化を、早くも80年代に予見していたかのような番組があった。それがTBS『噂的達人』(うわさのたつじん、と読む)。88年4月から89年9月まで、ダイハツ工業の1社提供で、(金)23:30から放送されていた30分のトーク番組である。
制作は時空工房、MCは小堺一機と山口美江、VTRナレーションには槇大輔。毎回、ゲストの有名人が「○○の達人」として、およそ本業とかけ離れたような意外な趣味や瑣末なテーマを延々と話すのである。「こんなマニアックなトーク番組が成立するんだ」と驚かされると同時に、1つのテーマを極める、深く掘ることの面白さを私たちに教えてくれた、先駆的な番組であった。どうみても15年は早かったなぁ。
たとえば、中村勘九郎が出演の「ディズニーランドの達人」の回。歌舞伎役者という日本の伝統芸を継ぐ第一人者が、アメリカ娯楽の代表であるディズニーランドの楽しみ方を指南する。そのギャップに驚くと同時に、エンタテイメントに洋の東西は関係ないんだなと思わせてくれた。泉谷しげる(植木等の達人)の回では、映画「無責任シリーズ」の重箱の隅をつつくような解説、植木等ご本人から伝授されたバカ笑いのやり方を披露。そして富田靖子が「少女漫画の達人」で、漫画雑誌の発売日をそらんじる姿には、ただただ唖然。この回を見て20年後、私は少年漫画の取材をし、それを一冊の本「サンデーとマガジン」(光文社新書)にまとめるのだが、その元をたどれば『噂的達人』の富田靖子の回を視たことに行き当たるのである。
この番組で、全面的にフィーチャーされていたのが、久保田利伸であった。オープニングでは『流星のサドル』のリズムにのって、当時としてはかなり細かく編集された映像がテンポ良く繰り出される。エンディングでは、〆の山口美江のセリフ「○○さんにとって〜とはなんですか?」をきっかけに、『Missing』のメロディが流れる。時刻はもうすぐ土曜の0時、楽しい週末の始まりを告げているはずなのに、どこか切ない… いいセンスしてる演出だった。
そして番組内BGMにも久保田がひんぱんに使われていた。何でそんなに久保田を推していたのかはナゾである。ただ、どうせなら、久保田に一度、「ブラックコンテンポラリーの達人」として出て欲しかったなぁ。
2017.02.06
YouTube / Sony Music (Japan)
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